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紅麹サプリ問題、遺族が問う(前) 発症から死亡までの経過と残された疑問

 小林製薬㈱(大阪市中央区、豊田賀一社長)の紅麹サプリメント問題を巡り、遺族が企業主導の因果関係判断の在り方に疑問を投げ掛けている。弟を敗血症で亡くしたS氏(仮名)は、同社の調査過程や公表内容に不整合があると指摘する。病院訪問やカルテ精査を伴わない調査、第三者性に乏しい判断枠組み、さらに行政の関与が限定的である現状が、被害実態の把握や救済を困難にしているとし、「人が亡くなっている以上、国が介入すべきだ」と訴える。

因果関係否定への疑義

 小林製薬の紅麹サプリメント問題は、多数の健康被害と死亡例が報告されながら、いまだ原因の全体像と被害者救済のあり方が十分に検証されていない事案とされている。その中で、企業による因果関係の判断と公表に全面的に依存する現在の仕組みに強い疑問を投げ掛けているのが、九州在住のS氏である。
 S氏の弟は、紅麹サプリメントを摂取していたとみられ、その後の急激な体調悪化を経て、小林製薬が最初の会見を行う1週間程前の2024年3月某日に敗血症(多臓器不全)で死亡した。しかし、小林製薬は因果関係を一切認めず、同社の調査過程は形式的な報告書のやり取りに終始している。S氏の経験は、機能性表示食品制度と被害救済の制度的欠陥を浮き彫りにしていると言える。

 S氏の弟は1971年(昭和46年)生まれで、小林製薬の当時の社長小林章浩氏と同じ年だった。独身で、実家に戻って暮らしていた。職業は小売業で、一時は管理職的な役職も務めたが、体調悪化により休みがちとなり、最終的にはその役職を外れている。酒もたばこも一切たしなまず、死因である敗血症に直接関係するような心疾患の既往歴は指摘されたことがなかったという。

 家族と小林製薬との関わりは長い。母親は2000~2019年に、小林製薬の通販でさまざまなサプリメントを購入し続けており、取引(購入・交換)の回数は137回、商品数は491に及んでおり、その中には、機能性表示食品として届け出られる以前の紅麹含有サプリメント『紅麹コレトール』も含まれており、母親が飲用していた同サプリの開封済みの空袋が自宅から見つかっている。弟は、母親が日常的に小林製薬の製品を飲んでいた姿をずっと見て育っており、同社の製品に対して一定の信頼を抱いていたと考えられる。

急変した健康状態の経過

 弟の健康状態に異変が生じたのは2023年9月下旬である。この日、弟は陰嚢と陰茎の腫れと痛みを訴えて近隣の泌尿器科を受診した。本来であれば、こうした症状は細菌感染など泌尿器領域の疾患が疑われるが、診察した医師は自院では対応し切れないと判断し、市内の総合病院を紹介した。
 総合病院で検査を受けた段階で、弟にはすでに心疾患に類する症状が認められていた。紅麹サプリに含まれるモナコリンKはスタチン系薬剤と同様の作用を持ち、横紋筋融解症などの副作用が知られているが、「弟の場合もそっちの方が強かったのだろう」とS氏は考えている。
 心臓系の値の悪化が顕著だったため、診療科は通院当初から泌尿器科ではなく循環器科となった。後になってS氏が総合病院から全てのカルテを取り寄せたところ、泌尿器に関する検査値はあまり残っていなかったという。

 S氏が手元で保管しているカルテには、循環器科での治療過程とともに、腎機能悪化を示す数値の推移も記録されている。クレアチニン値やeGFRなど腎臓機能の健康状態を示す指標は、総合病院受診時点ですでに悪化していた。さらに注目されるのは、受診の約1カ月前(8月)に受けた健康診断の結果である。この時点で腎機能の値に異常が出始めていたが、その1年前の健康診断では全く問題がなかった。短期間のうちに腎機能が悪化している経過は、何らかの新たな要因の関与を示唆するものではないかとS氏は考えている。

 10月、弟は体調不良のためほとんど通勤できず、休職状態となった。特に深刻だったのは、全身の浮腫とふくらはぎの痛みである。トイレに行くのにも這って移動しなければならないほどの状態で、日常生活は著しく制限されていた。その後、循環器科での治療の甲斐もあって、11月には心臓の数値を含めた諸指標が回復し、症状も落ち着いてきた。12月になると職場に復帰し、翌2024年1月にかけては一見すると体調が戻ったかのように見えたという。
 しかし、同年2月に入って状況は一変する。2月初旬から再び体調が悪化し、弟は会社を休み始めた。2月中旬には入院を余儀なくされ、そのまま回復することなく、3月中旬に敗血症による多臓器不全で死亡した。

摂取実態と証拠の空白

 この間、弟が紅麹サプリメントをいつからいつまで摂取していたのかについては、決定的な資料は残っていない。S氏は、弟と同居していたわけではないため、実際にサプリメントを飲んでいる場面を目撃していない。現在判明しているのは、火葬後すぐに行った遺品整理の際、弟の部屋から『紅麹コレステヘルプ』の袋が2つ見つかったという事実である。1つは開封済みで、残り数粒という状態だった。もう1つは完全な未開封品だった。これをS氏、および、S氏のきょうだいがともに確認している。しかし当時は、小林製薬が最初の会見を行う約1週間前という時期であったため、それが後に重要な証拠となるとは想像しておらず、袋はすべて廃棄してしまっている。

 購入方法についても、クレジットカードや通信販売の履歴はないため、店舗での現金購入と推測されている。弟のスマートフォンに残されていたGoogleマップの履歴を確認すると、特定のドラッグストアに何度も足を運んでおり、その履歴をS氏はスクリーンショットで保存している。そこから、これらの店舗のいずれかで紅麹サプリメントが購入された可能性が高いとみているが、レシートなど具体的な購入証明は残っていない。

 弟の生活習慣と薬剤の併用状況についても、一定の情報がある。母親からサプリメントを袋ごと貰うことが多かったS氏は母と弟に対して、サプリメントや薬の飲み合わせの危険性について常日頃から厳しく注意しており、「複数の薬やサプリを同時に飲むな」と繰り返し言い聞かせていた。そのことを聞いた弟は禁忌を守っていたと考えられるため、医療機関から処方された薬剤と紅麹サプリメントを同時に服用していた可能性は低いとS氏はみている。
 一方で、2023年9月の受診をきっかけに一時的に摂取を止め、その後症状が改善した11〜12月頃に、以前購入して余っていた紅麹サプリメントの摂取、もしくは新規購入して摂取を再開したのではないかという推測を、腎機能数値の変化と照らし合わせながら立てている。

 弟の症状の中で、全身浮腫に加えて特に特徴的だったのが脱毛である。亡くなる前には頭皮の毛がほとんど残っておらず、サイドの部分にわずかに髪が残る程度だった。脱毛の開始時期については、同居していた家族がショックから口を閉ざしてしまい、当時の詳細な状況を語ろうとしないため、正確な時期を特定できていない。全身浮腫については、弟が異常なほど水分を欲しがっていたことを家族が証言している。それは2023年12月頃からだったと聞いているが、2リットル入りの麦茶を購入しても、なくなるペースが極端に早かったという。このような脱毛や浮腫を生じる症状は、他の紅麹被害事例でもみられており「いとう王子神谷内科外科クリニック」の伊藤院長が診察した女性患者のケースでも、脱毛の症状が報告されている

(つづく)


【田代 宏】

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