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紅麹サプリ問題、遺族が問う(中) 実地確認を伴わない評価手法への疑問

 弟の死亡を受け、S氏は2024年3月29日、小林製薬が2度目の記者会見を行う3日前の3月26日の昼頃に、同社に電話をかけている。同事案を公表した最初の記者会見は同月22日だったが、その1週間以上前にはすでに弟は亡くなっていた。
 S氏は、紅麹サプリメントを飲んでいた弟が死亡した事実を伝えていたが、その日の記者会見でも、その後のメディア報道でも、弟のケースが公表されることはなかった。当時、報道では死亡者数が同26日「1人」、同27日「2人」、同29日「3人」、6月26日「5人」と変動しながら伝えられており、S氏は弟が2人目の死者に当たると考えていた。しかし、小林製薬に問い合わせたところ、報道に登場する主治医のコメントは弟のケースではないと説明され、自身のケースが統計上どのように扱われているのか、強い疑問と不信感を抱くに至った。

調査報告書への強い不信

 小林製薬との本格的なやり取りが始まるのは、その後のことである。
 2024年4月19日に同社から「調査のための同意書を提出してほしい」との連絡があったが、すぐには同意書を返信せず、総合病院より弟のカルテ一式を入手する手続の完了を待った後、5月11日に同意書を返信した。
 しかし、第1回目の調査報告書が届いたのはそれから約半年後、同年12月11日頃だった。その内容は、遺族の信頼を大きく損なうものだった。

 第1回報告書では、弟の病院受診時の状態について、入院初期段階から「慢性の疾患」があったかのような記載がなされていた。実際には、弟は入院初期の段階で慢性的疾患の診断を受けておらず、そのような事実関係はカルテにも存在しない。にもかかわらず、あたかも元々慢性疾患を抱えていたかのような書きぶりが採用されており、「印象操作を思わせる内容」(同氏)だった。また、最初に泌尿器科を受診し、その後、総合病院で心疾患や腎機能障害が判明した経緯について、医学的見解が盛り込まれていなかった。

 S氏は、小林製薬側に対して、初期症状から死亡に至るまでの医学的経過をきちんと記載し、その評価を明示するよう強く要請した。

 この要求を受け、小林製薬側は第2回報告書を作成することに同意した。25年1月22日に届いた第2回報告書は、遺族の期待を裏切るものだった。弟の死亡直前の状態についてのみ簡単な記述があるものの、初期の泌尿器症状から心疾患・腎機能悪化に至る経緯についての医学的説明は依然として欠落していた。第1回報告書で指摘した内容は、ほぼ全て無視されていたのである。

 S氏は再度抗議し、初期経過を含めた内容での報告書の作り直しを求めた。S氏は第2回報告書の内容に対して「病院訪問およびカルテ参照」、「通院初期時の因果関係判断の医学的説明」、「報告書の再作成」を小林製薬に強く求め、25年1月末に2回、2月中旬に2回、3月中旬に1回、電話で強く抗議した。しかし、報告書の作り直しが開始されることはなく、時間が過ぎていくだけだった。
 S氏は、3月中旬~7月中旬の間、小林製薬への連絡を一時的に止めていたが、7月下旬に連絡を再開し、電話で再度、強い抗議を行った。
 S氏が10月下旬に行った抗議の会話においては、小林製薬は第3回報告書について「第2回から変更点がないため文書としては作成しない」と伝えてきた。これは実質的に、追加の調査を行わず、現状の報告書を最終版と見なすとの宣言である。

実地調査なき評価の実態

 S氏が行った一連の抗議の中で、調査の実態に関する重大な事実も明らかになっている。同氏が第2回報告書を受け取った5日後、S氏が電話で1時間以上にわたり担当者を問い詰めた結果、小林製薬は弟のケースについて、一度も病院を訪問しておらず、カルテも直接閲覧していないことを認めたのである。同社が行っていると説明する調査とは、主治医に対するメールや電話でのヒアリングにとどまっていたようだった。
 「カルテに記録された血液検査の数値の一部は確認していたものと思われるが、症状の推移を実際に確認した上で因果関係を評価する、という本来求められる手続きは一切行われていなかったようである」という。

 これら調査の実施内容「病院訪問」、「主治医との対面でのヒアリング」、「カルテの直接閲覧」について、記者が小林製薬に確認したところ、同社は以下のように回答している。

 「死亡が関連するお問合せについては、遺族からの同意を取得した上で、亡くなった方に治療等を行った医療機関に対し、詳細情報の確認・調査を行っている。具体的には、『臨床試験等を受託している専門機関』を通じ、具体的事情に応じて、医療機関に対し質問事項への回答や診断書・診療記録・検査資料等の提出を依頼し、情報・資料を収集しており、これらの情報収集は、必要があれば複数回実施している。これら情報・資料の収集結果を踏まえ、死亡と紅麹コレステヘルプ等との関連性については、『当該専門機関に所属する医療専門家』からの意見を聞いた上、会社として判断している。なお、調査及び評価の客観性・公正性を確保すべく、上記専門機関との契約上、業務が客観的・中立的立場から行われるべきことを明示的に合意していることは、2025年3月25日に貴社から頂戴したご質問への回答のとおり(同年3月26日回答)」。

 ちなみに、小林製薬の言う26日回答とは、25年に記者との間で行った以下のやりとりとなる。
「①臨床試験を受託している専門機関と御社の関係についてご教示下さい。
⇒当社と当該専門機関は臨床試験等の委託契約を締結しておりますところ、死亡と紅麹コレステヘルプ等との関連性についての評価の客観性・公正性を確保すべく、両社間で、業務が客観的・中立的立場から行われるべきことを明示的に合意しております。
②当該専門機関に所属する医療専門家とは、上記臨床試験の受託機関の専門家を指すのでしょうか?
⇒ご認識のとおりです。
③調査の具体的な内容、例えば質問事項などをご教示下さい。
⇒各事例の具体的事情に応じて、医療機関に対し、対象となる方の症状・検査数値等に関する質問を行い、また、診断書・診療記録・検査資料等の提出を依頼し、症状などの情報を確認する方法で実施しております。」(原文ママ)

企業主導の判断構造

 小林製薬は、因果関係の判断に当たり「法律の専門家を交え、主治医の見解を聞き、しかるべき医療機関(外部の調査機関)に調査を依頼して総合的に判断している」と繰り返し説明している。しかし、その「しかるべき医療機関」とは同社が委託した機関であり、S氏がその委託先と直接1対1で話すことを希望しても、「守秘義務」を理由に拒否された。第三者性と透明性を欠いた調査枠組みの中で、企業自身が最終判断権を握っているとしか思えない構図である。

 数字の扱いにも疑問が残るという。厚生労働省が24年9月18日に開催した第1回紅麹ワーキンググループでは、死亡の申し出を行った366人中、紅麹サプリを摂取した109人が調査対象とされており、そのうち6人が継続調査中と報告されていた。この条件として、「プベルル酸が含まれる令和5年(2023年)7月以降に出荷された製品を喫食した可能性が高い者」、「近位尿細管障害を含め、何らかの腎障害がある又は疑われる者」が対象だったが、市の保健所経由で大阪市などに確認したところ、S氏の弟はカウントされていなかった。その時点で弟は無視されていたという。正式な最終報告書が遺族に届いていない段階で、企業側ではすでに「調査終了」として扱い、継続調査の対象から外していた可能性が高いのである。

 さらに、小林製薬のホームページには、死亡との因果関係について「継続調査中」の件数が掲載されていたが、小林製薬は自社の判断で数字を操作していたとの疑いが残る。
 S氏は、自身のケースが継続調査中であるならば、その1件をホームページ上の数字に反映するよう求めていたが、そのような扱いはされなかった。S氏は7月22日の夕方に小林製薬に対して「弟の死亡の因果関係を本当に調査しているならば、ホームページに記載されている「死亡が関連するお問合せ数」の「調査継続」に記載されている人数は0ではなく、1に修正して公表すべき」と主張してホームページ上の数字の修正を依頼していた。しかし小林製薬は「1に修正します」とは明言せず、あやふやな状態となっていた。

(つづく)
【田代 宏】

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