サプリメント定義は消費者に届くか 【唐木英明・東大名誉教授寄稿】理解の助けに「サプリマーク」の検討を
唐木英明・東京大学名誉教授による寄稿連載「日本の健康食品制度を問い直す」第11回。前回は、サプリメントの制度化を「大きな前進」と評価しつつ、それが健康食品制度改革の終着点ではないことを論じた。今回は視点を消費者理解に移し、新たに定義される「サプリメント」が製品選択に役立つのかを検討する。著者は、トクホ、栄養機能食品、機能性表示食品、いわゆる健康食品という4分類制度の限界を踏まえ、消費者に届く情報伝達の在り方を問い直す。【編集部】
4分類制度が抱える消費者理解の限界
「サプリメント」という用語に法令上の定義が与えられるのだが、このことが日本の健康食品制度の改革という観点からどのように評価されるのかについて、厳しい検証を行った。規制の変更は、安全性の向上のために重要な役割を果たすが、忘れてはいけないことは、それが消費者に理解されるのか、そして消費者の製品選択に役立つのかである。そこで、今回はサプリメントの定義が、健康食品に対する消費者の理解・判断・行動にどのような影響を与えるのかについて検証する。
前提として確認すべきは、「サプリメント」という用語を付け加える以前に、特定保健用食品(トクホ)、栄養機能食品、機能性表示食品、いわゆる健康食品という4分類制度が消費者に理解されていないという事実である。消費者庁が公表した令和7年度「食品表示に関する消費者意向調査」では、制度の理解不足が改めて浮き彫りになっている。民間の調査に至っては、機能性表示食品について約8割が「定義がわからない」と回答している。
見落としてはならないのは、トクホマークの認知度が高く、消費者がこれを見て「国が認めたもの」と受け取っている事実である。しかしそれは制度の理解ではなく、マークという単純な手がかりへの依存にすぎない。マークを持たない機能性表示食品と、そもそも機能表示のできない「いわゆる健康食品」との区別は、大半の消費者にとって曖昧なままである。
4分類が理解されにくい根本的な理由は、それが「誰が効果を保証したか」による区別だからである。国が個別審査したのか(トクホ)、事業者が届け出たのか(機能性表示食品)、規格基準に適合していると事業者が判断したのか(栄養機能食品)、何もないのか(その他)。これは生産者側・行政側の区別であって、消費者のメリットとは無関係である。消費者が知りたいのは「これは安全か」「効くのか」「どう摂ればよいか」であるのに、4分類はそれには答えない。理解されないのは消費者の怠慢ではなく、分類の軸が消費者の関心とずれている結果である。
行政は消費者に4分類を理解することを求めている。その理由は、2つの立場と結びついているのだが、いずれも慎重な検討を要する。
第1に、トクホ至上主義である。これには日本弁護士連合会、一部の消費者団体と業界団体が賛同し、国が事前審査するトクホこそが望ましい健康食品の姿としている。事前審査という手続の厳格さを最重要とする立場である。ただし、見落としてはならないのは、トクホが安全性と効果において他の保健機能食品より優れているという根拠が示されていないことである。国による審査の有無は手続上の差であって、最終的な製品の安全性・有効性が他分類より高いことを意味しない。したがって「4分類を理解してトクホを選ぶようにする」ことを消費者のメリットに据えることは、実証されていない序列を前提にすることになる。
第2に、「いわゆる健康食品」は玉石混交であり、何の根拠も示さない実態不明の製品が混じっているので避けるべきとする意見である。そして、この批判は一部正しい。しかし、いわゆる健康食品は健康食品全体の7割を占める多数派であり、そのすべてにリスクがあるわけではない。法律上は何の問題もないいわゆる健康食品を識別して、これを避けることを消費者に求めることなどは、勿論、不可能である。
このように、健康食品の安全上の懸念、とりわけサプリ形状の製品の過剰・継続摂取への対応は、4分類の理解を求めることでは解決できない。そこで今回の規制が行われたのだ。

4分類を横断する「サプリメント」
「健康食品」は法律上の定義を欠くのだが、何を健康食品とするのかが決まらない限り規制はできない。紅麹関連製品の事案が直接の引き金となり、サプリメント形状、すなわち濃縮・剤形製品に固有のリスクが顕在化したこと、そして事案対応が消費者庁と厚生労働省の二省庁に割り振られ、両者が共有できる名前を要したことが、「サプリメント」という語の採用を後押しした。
国際的にも、米国のDSHEA(1994年)やEUの食品補助食品指令(2002年)など、諸外国は既にサプリメントの法的概念を持っており、日本のみがこれを欠いていた。
消費者理解の観点から重要なのは、この用語が日常語として既に流通しているという点である。「サプリメント」「サプリ」は、一般消費者にとって「健康によさそうな錠剤・カプセル」を指す言葉として定着している。
サプリメントという用語が日本でも公式の用語になり、その定義も諸外国と大きな齟齬がないことは、ガラパゴス化していた日本の4分類を改革する第一歩として評価できる。
消費者理解を考えるうえで決定的に重要なことは、サプリメントが4分類に加わる5番目のカテゴリではない点である。消費者委員会は「サプリメント食品」を、特定保健用食品・栄養機能食品・機能性表示食品、あるいはその他のいわゆる健康食品等、多様な形で販売されている実態があるとし、保健機能食品と残余の双方にまたがる概念として用いている。
つまり、健康食品の4分類にサプリメントを付け加えるのではなく、4分類のそれぞれがサプリメントとそれ以外に分割されるのだ。
消費者理解にとって、この措置は致命的である。4分類にサプリメントを足すのであれば、認知負荷は「4+1=5」の足し算で済む。ところが4分類をさらに分割すれば、消費者が向き合う区別は「4×2=8」の掛け算になる。4分類ですら定義を答えられなかった消費者に、8種類を見分ける作業を期待することは不可能であろう。それではどうしたらいいのだろうか。
サプリメントの定義が作られた理由は、営業届出、製造施設のGMP、そして健康被害情報の報告という安全規制の義務を課す対象を画定するためである。その引き金は紅麹関連製品の事案であり、審議の場は食品衛生に関わる部会であった。さらに、規制の最大のターゲットは、健康食品の7割を占める「いわゆる健康食品」であり、そこに厳しい規制を行うことで、問題がある製品を排除することが狙いである。
この事実は、消費者理解の戦略に重大な帰結をもたらす。これまでは、消費者に求められている理解は、安全とは直結しない4分類の区別であった。しかし、たとえトクホであってもサプリ形状のものを高用量、継続摂取すれば過剰摂取のリスクはある。保健機能食品であることを見分けることは、その製品を漫然と摂り続けることの危うさを何も教えない。
「サプリメント・マーク」が必要な理由
これからの戦略は、4分類の理解ではなく、サプリメントの定義が安全のために作られたことの理解に転換すべきである。安全に直結する問いが2つある。一つは、製造工程が信頼できるか、もう一つは、サプリ剤形の製品を継続して過剰摂取していないかである。そしてこれらの問いに対応する軸こそ、サプリメントか否かである。
サプリメントという呼称の最大の効用は、「GMP準拠」という製造工程の信頼度と、「濃縮された剤形を継続摂取するなら注意」という形状ベースの危険信号の両方を届けることである。もしこれができれば、この語は4分類が達成できなかった安全行動の改善を、実際にもたらしうる。
求められるのは、安全確保という目的に照らして理解の焦点を絞り込み、消費者に求める第一の理解を「4分類の区別」から「サプリメントか否か」へ置き換えることである。4分類は、有効性の裏づけを詳しく知りたい消費者のための二次的な情報として残せばよい。第一義的に、すべての消費者に届けるべきは、安全に直結するただ一つの区別に絞った情報である。
方向転換を実効あらしめる手段として、サプリメント・マークの採用が有効である。その根拠は、消費者は4分類の制度の定義を理解して食品を選んでいるのではなく、トクホマークのような単純な視覚信号を手がかりにしているという事実である。定義の理解を求めても無視されるが、マークは理解を要求しない。マークは、「理解困難=無視」という既定の傾きを迂回する数少ない手段である。
サプリメント・マークは、安全に直結する軸を、購入の意思決定が行われるまさにその瞬間、店頭で製品を手に取る瞬間に、低い認知負荷で提示する。これは、4分類の言葉による説明が一度も達成できなかったことである。
マークが伝えるべきは、制度上の分類ではなく、摂取の方法である。すなわち「これは濃縮された剤形の製品であり、通常の食品と違って、量と期間に注意して摂るべきものである」という、行動に翻訳可能なメッセージである。
参照すべきは、アレルギー表示や栄養成分表示、あるいは注意喚起の図記号である。「GMPに準拠しているから良いものだ」だけではなく、「これは扱いに注意が要るものだ」と読ませる。ここは、リスクコミュニケーションの専門的知見が最も必要とされる部分である。
サプリメント定義の意義と残された課題
改めてサプリメントの定義の意義についてまとめる。
第1は、一般食品以上の規制が困難であったサプリ形状のいわゆる健康食品に、GMP準拠をはじめとする厳しい規制を課すことになったことである。2000年までは、薬事法(現・薬機法)と46通知によりサプリ形状の食品を厳しく規制していたが、形を変えてこれを復活したとみることができる。今後は、サプリ形状のいわゆる健康食品の安全性が一段と向上することが期待されるとともに、その多くが機能性表示食品に移行することが望まれる。
第2は、消費者への情報伝達の中心を、消費者には理解困難で、しかも理解しても実利がない4分類の理解から、理解が容易で、安全性とリスク防止の実利があるサプリメントの理解に移すという、パラダイムの転換である。その目的を達成するために、サプリメント・マークの新設が望ましい。
第3は、通常食品形状の健康食品が定義から外れることであり、その取扱いは別途検討が必要である。その際に検討すべきは、濃縮・高用量・長期反復摂取という危害の本体は、形状ではなく摂取パターンの属性という点である。同じ摂取パターンは、粉末、液体、ゼリー、菓子形状など形状を変えて容易に実現できる。たとえば、エナジードリンクは高カフェイン、反復摂取、若年層の利用などのリスクプロファイルはサプリメントと変わらないが、「水分補給目的の飲料」として除外を主張しうる。これが飲料形状というだけで除外されるのであれば、規制の合理性そのものが問われる。サプリメントの定義に、形状条件だけでなく、濃度条件も加えるべきである。
最後に、今回のサプリメントの法制化は、評価すべき前進である。しかし、重要な点は、今回の措置が安全面の規制の強化にとどまる点である。健康食品制度の本丸は、①機能性の根拠の管理(有効性の担保)、②表示・広告の適正化、③産業の振興、④所管の一元化にあるのだが、今回の法制化は、これらには届かない。安全の網は広がったが、有効性の根拠をどう担保するのか、誇大な表示・広告をどう抑えるのか、1兆円規模の産業をどう育てるのか、そして消費者庁と厚生労働省に分かれた所管をどう束ねるのか、本丸はいずれも手つかずのままである。これらの問題は前回詳しく述べた。
したがって、サプリメントの法制化は、健康食品法(仮称)を不要にするどころか、その必要性をむしろ高めた。食品でも医薬品でもない「第三のカテゴリ」として健康食品を正面から定義し、市民のセルフケアを支える基盤として位置づけ、安全・有効性・表示・広告・産業振興・所管を一つの法体系のもとに束ねること。それこそが、今回の措置が指し示す次の課題である。
(第12回に続く)
【プロフィール】唐木英明(からき・ひであき):農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て87年に東京大学教授、2003年に名誉教授。「食の信頼向上をめざす会」代表を務める。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。
日本の健康食品制度を問い直す【唐木英明・東京大学名誉教授寄稿】
:【第1回】何が健康食品の活用を阻むのか 法的定義なき「健康食品」と46通知の壁
:【第2回】4分類が生む混乱 保健機能食品の外に残された「いわゆる健康食品」
:【第3回】トクホは本当に上位制度か 「国の審査」と「事業者届出」の実質的格差を問う
:【第4回】トクホの安全性審査は必要か 制度改革に向けた提言と栄養機能食品の構造的課題
:【第5回】健康食品制度は一本化できるか 主要国モデルから考える日本固有の障壁
:【第6回】「いわゆる健康食品」をなくせるか サプリメント定義と形状二分論の必要性
:【第7回】日本に欠けた健康食品戦略 トクホと米国DSHEA、制度設計の分岐点
:【第8回】「無効有害論」は科学的か プラセボ対照試験の限界と健康食品の価値
:【第9回】「健康食品の機能をどう評価すべきか 「無効有害論」を超える新たな試験設計日本の健康食
:【第10回】サプリメント制度化は終着点か 食衛法の限界から考える健康食品法の必要性

