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「いわゆる健康食品」をなくせるか 【唐木英明・東大名誉教授寄稿】サプリメント定義と形状二分論の必要性

 唐木英明・東京大学名誉教授による寄稿連載「日本の健康食品制度を問い直す」第6回。前回は、健康食品制度の一本化をめぐり、主要国の制度モデルと日本固有の障壁が検討された。今回は、法律上の定義を持たない「いわゆる健康食品」をなくすために、サプリメントの法的定義、GMP義務化、原材料の安全性評価、形状に応じた制度設計の必要性を論じる。【編集部】

「いわゆる健康食品」をなくす条件

 欧米には法律上の定義が存在しない「いわゆる健康食品」という曖昧な領域が存在しない。法的な定義を明確に整備することで「サプリメント」を一般食品や医薬品とは区別した独立カテゴリーとして確立し、一元的に規制・管理している。この実効的な管理体制を築いたのは、以下の3つの方策による。

方策1:法律上「サプリメント」という第三のカテゴリーの確立
 米国では1994年制定のDSHEA(栄養補助食品健康教育法)により、従来の「一般食品」や「医薬品」とは異なる「Dietary Supplement」という第三のカテゴリーを法律上定義した。EUでも「フードサプリメント指令(Food Supplements Directive)」に基づき、形状(カプセル・錠剤・丸剤・粉末等)や販売基準が法的に厳格に規定されている。法的カテゴリーが明確であるため、定義から外れた製品が「いわゆる健康食品」として法の網の目をかいくぐる隙間が存在しない。

方策2:サプリメントGMPの全面義務化
 米国をはじめとする主要国では、サプリメント形状の製品に対してGMPに準拠した管理体制を敷くことを例外なく法律で義務付けている。これが、製造品質を担保できない劣悪なメーカーがサプリメントを市場に供給することを実質的に不可能にしている。日本でも1971年の「46通知」により、サプリメント形状の製品は原則として医薬品とみなされていたが、2001年にこの形状規制が撤廃され、現在のサプリメント市場が爆発的に拡大する基盤となった。2024年の改正でサプリメント形状の機能性表示食品へのGMP義務化が実現したが、「いわゆる健康食品」のサプリ形状製品にはいまだ適用されていないという根本的な制度的空白が残る。

方策3:国・公的機関による原材料の事前安全性評価(ポジティブリスト方式)
 EUでは、サプリメントとして使用できるビタミン・ミネラルの種類および許容量を「ポジティブリスト」で管理するほか、新規食品原料(ノベルフード)については欧州食品安全機関(EFSA)が事前に厳格な安全性確認を行う。米国では、構造・機能表示を行うサプリメントについて、販売開始後30日以内にFDAへ通知する義務がある。医薬品的効能に該当すると判断された場合はFDAから即座に反対通知(レター)が届き、流通停止・回収措置が取られる。

 日本が「健康食品一本化」を実現するためには、現在の保健機能食品の表示ルールを混ぜ合わせるだけでは不十分である。欧米のように「いわゆる健康食品(グレーゾーン)」を根本的になくし、「法律上のサプリメント定義の確立」「全サプリメントへのGMP義務化」「原材料の安全基準の統一」をセットで行うことが、透明性の高い健康食品市場を構築するための条件である。

形状で異なるリスクプロファイル

 錠剤・カプセル・顆粒等のサプリ形状と、ヨーグルト・飲料・一般加工食品等の明らか食品型は、以下のすべての側面において本質的に異なるリスクプロファイルを持つ。

 これらの差異は、規制強度・GMP適用水準・届出要件・医薬品との関係において異なる対応を正当化する。サプリ形状製品を食品と同一の規制枠組みで扱うことは、過少規制(サプリに対して)と過剰規制(明らか食品に対して)を同時にもたらす。

主要国に見るサプリメントの定義

(1)米国DSHEA(栄養補助食品健康教育法)
 米国は形状による区分を最も明確に制度化している国の一つである。DSHEAは「Dietary Supplement(栄養補助食品)」を、「錠剤・カプセル・粉末・ソフトゲル・ジェルキャップ・液体等の補助的形状をとるもの」と定義し、形状そのものが規制カテゴリーへの該当要件となっている。通常の食事として消費されるヨーグルトや飲料は、原則としてDietary Supplementではなく通常食品として扱われ、別の規制枠組みが適用される。

(2)EU食品補助食品指令(2002/46/EC)
 EU指令は「Food Supplement」を「濃縮された栄養素または他の物質を、用量形態(dose form)で提供するもの」と定義し、「用量形態」として錠剤・カプセル・トローチ・粉末・アンプル・滴下ボトル等を例示している。「形状+濃縮性の組み合わせ」で規制対象を画定するアプローチは、明らか食品型の製品との区分を明確にするうえで優れた方法論である。

(3)韓国健康機能食品法
 韓国は健康機能食品法において、錠剤・カプセル・粉末・顆粒・液状・丸等の形状は「健康機能食品」として規制対象とし、ヨーグルト・飲料等の明らか食品形状については別途「一般食品の機能性表示」制度で対応する二本立て体制を構築している。この二分論は日本にとって参考になる。

 日本の現行制度は形状について明示的な規定を持たず、以下の矛盾が生じている。

・機能性表示食品・トクホのいずれも、ヨーグルト・飲料・錠剤がすべて同一制度に混在し、同一の届出要件・審査プロセスが適用されている

・「いわゆる健康食品」は形状を問わず保健機能食品のような個別制度による規制を受けず、医薬品と外観上ほぼ区別できない錠剤・カプセル形状のサプリが、スーパーの一般食品と同じ緩い規制枠組みで流通している

・薬機法との境界について、錠剤・カプセル形状は「医薬品的形状」として薬機法に抵触するリスクがあるとされているが、食品として販売される場合の扱いが曖昧であり、行政の恣意的判断に委ねられている

 この結果、最も厳格な製造管理が必要なサプリ形状の健康食品が、最も規制の薄い枠組みで流通しているという制度上の深刻な歪みが生じている。

形状二分論の利点と課題

 健康食品の一本化において「サプリ形状」と「明らか食品型」を区別することは、制度設計上の必要条件である。この形状二分論を採用することにより、以下の制度的利点が生まれる。

・健康被害の大部分を占めるサプリ形状製品に安全性届出とGMPを義務付けることで、規制の空白の実質的大部分を埋められる

・「錠剤・カプセル形状=医薬品的形状」という曖昧な食薬区分の運用を改め、サプリ形状を健康食品法の管轄として明示的に定義することで、食薬区分の境界を形状基準で明確化できる

・「食品にGMPを義務付けるのは過剰規制」という業界の反論に対し、「サプリ形状は濃縮・均一投与を前提とする製造物であり、食品GMPではなく医薬品GMPに準じた管理が必要」という根拠を与えられる

 一方で、課題もある。

(1)「明らか食品形状だが実質的にはサプリ」という問題
 グミ・チョコレート・クッキー形状の高濃縮健康食品が近年急増しており、「明らか食品形状だが有効成分の濃縮度はサプリと変わらない」という製品が出現している。形状のみによる規制では、この形状偽装に対応できない。したがって「形状+有効成分の濃縮度・1回摂取量あたりの用量」の組み合わせによる複合的な判断基準が必要である。

(2)液状製品の境界問題
 ドリンク剤・アンプル飲料は「明らか食品」か「サプリ形状」かの判断が難しい。EU指令が導入した「用量形態(dose form)」概念、すなわち「1回摂取量として設計されているか否か」という基準を導入することで、この問題に対応できる。

(3)既存製品の再分類コスト
 現在「明らか食品型機能性表示食品」として届出済みの製品と「サプリ形状機能性表示食品」を同一制度内で扱っているメーカーは、制度二分化によって異なる規制要件への対応コストが生じる。十分な移行期間の設定と経過措置により、既存業者への急激なコスト負担を回避する配慮が必要である。

(第7回に続く)

【プロフィール】唐木英明(からき・ひであき):農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て87年に東京大学教授、2003年に名誉教授。「食の信頼向上をめざす会」代表を務める。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。

日本の健康食品制度を問い直す【唐木英明・東京大学名誉教授寄稿】
【第1回】何が健康食品の活用を阻むのか 法的定義なき「健康食品」と46通知の壁
【第2回】4分類が生む混乱 保健機能食品の外に残された「いわゆる健康食品」
【第3回】トクホは本当に上位制度か 「国の審査」と「事業者届出」の実質的格差を問う
【第4回】トクホの安全性審査は必要か 制度改革に向けた提言と栄養機能食品の構造的課題
【第5回】健康食品制度は一本化できるか 主要国モデルから考える日本固有の障壁

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