健康食品制度は一本化できるか 【唐木英明・東大名誉教授寄稿】主要国モデルから考える日本固有の障壁
唐木英明・東京大学名誉教授による寄稿連載「日本の健康食品制度を問い直す」第5回。前回は、特定保健用食品(トクホ)の安全性審査の必要性と、栄養機能食品制度の構造的問題が取り上げられた。今回は、健康食品制度の一本化を巡り、米国、EU、カナダ、韓国などの制度モデルを参照しながら、日本で実現を阻む行政構造、法体系、業界構造上の障壁を検討する。【編集部】
健康食品制度の一本化は可能であり、韓国・カナダが実証済みだが、日本固有の行政構造・法体系・業界構造が重大な障壁となっている。

一本化を巡る3つのモデル
モデルA:米国型「届出・事後規制」への一本化
全ての健康食品を単一カテゴリーとして法定義し、事前許可を廃止。安全性の事後監視に行政資源を集中するモデル。制度がシンプルになり産業参入障壁が下がるが、DSHEA施行後に粗悪品が急増し健康被害が多発した実績があり、規制が強化された。
モデルB:EU型「機能性クレーム許可リスト」への一本化
製品の許可・届出制を廃止し、表示できる機能性をリスト化するモデル。製品は自由に販売できるが、表示内容が厳格に規制される。製品規制から表示規制へのシフトにより行政の焦点が明確になるが、EFSAによるクレーム審査が厳格すぎ多くの伝統的機能性素材が排除され、批判がある。
モデルC:韓国・カナダ型「単一法律・リスク比例規制」への一本化
「健康食品法」(仮称)を制定し、現行の4カテゴリーを一本化する。ただし制度内部でリスクに応じた規制強度を設定することで、過剰規制と過少規制を同時に回避する。日本への適合性が最も高く、段階的移行が可能であり、韓国・カナダという実績のある参照モデルが存在する点で実現可能性が相対的に高い。さらに、このモデルに形状二分論を組み込むことで、サプリメント区分と機能性食品区分という二本柱構造を単一法律内に統合するアプローチが考えられる。
実現を阻む日本固有の3つの壁
(1)省庁縦割りの壁
最大の障壁は省庁縦割りである。消費者庁・厚労省・農水省・経産省にまたがる現行の権限分散を解消し、単一の主管省庁を確立しなければ、「健康食品法」の所管が定まらない。カナダのNHP規制がHealth Canada一省で所管できたこととは、行政構造が根本的に異なる。
(2)薬機法との境界問題
食薬区分の原則を維持したまま健康食品を一本化しても、「どこまでが健康食品でどこからが医薬品か」という境界問題は解消されない。抜本的一本化には薬機法の改正を伴う食薬区分の見直しが必要となる。
(3)トクホ既得権の問題
大手食品メーカーはトクホに多額の投資をしており、制度廃止・統合には強い抵抗が予想される。
漸進的改革という現実解
完全な一本化が困難であるとすれば、漸進的アプローチが現実解である。重要なことは、第一に、健康食品の利用に関する国家戦略を打ち立てることであり、それに向かって一歩ずつ前進することである。
日本の健康食品制度改革において重要な視座を提供するのが、サプリメント業界の国際組織であるIADSA(国際栄養補助食品業界団体連合会)による提言である。IADSAは「日本はサプリメントや健康食品を一律の制度下で簡素に扱うべきであり、その方向性をこれまでの『規制・取り締まり』から『国民のQOL向上と医療経済への貢献のための活用』へと舵を切るべきである」と指摘している。
少子高齢化が急速に進み、国民医療費が増大を続ける日本において、未病対策や予防医学における健康食品の役割は極めて重要である。しかし現行の4区分制度は、消費者の選択を阻害する「障壁(規制)」として機能してしまっている。IADSAの提言を実現するためには、「健康食品(サプリメント)」というシンプルかつ明瞭なカテゴリーを確立することで、消費者が自身の健康状態や目的に合った成分・製品を的確に「活用」できる環境を整備することが不可欠である。これは国民一人ひとりのQOL向上につながるだけでなく、医療費の適正化および医療経済への貢献をもたらす。
「国の審査」依存から民間での品質保証へ
(1)「国の審査」依存がもたらす限界
日本国内における健康食品の議論は、長年にわたり「国が個別に認可したトクホは信頼できるが、事業者が届け出た機能性表示食品は信頼性に欠ける」という、「国の個別審査の有無」に過度な焦点が当てられてきた。しかし国の形式的な届出審査や個別許可は「その場限り」であり、その後の製造現場における高度な品質管理や継続的な安全性をリアルタイムで保証するものではない。紅麹問題が露呈させたのは、製造管理の不徹底による原料段階での意図せぬ成分混入リスクであった。真に安全性を確保するためには、「国によるお墨付き」ではなく、国際的な科学基準に基づいた第三者機関による定期的かつ厳格な「実地の品質・安全性認証」へとシフトする必要がある。
(2)世界基準への適応
品質保証の仕組みは、日本独自のものであることは望ましくない。今後の健康食品市場の発展のためには、当然のことながら、世界をめざすことになるからである。その際には、安全性と品質に関する世界の基準に適応することが求められる。その候補の一つであるNSF(National Sanitation Foundation)認証は、世界180カ国以上で製品の安全性・品質・コンプライアンスを保証する「グローバルスタンダード」として機能している。健康食品・サプリメントの品質保証においてNSF認証を取得することには、実務的価値がある。
(第6回に続く)
【プロフィール】唐木英明(からき・ひであき):農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て87年に東京大学教授、2003年に名誉教授。「食の信頼向上をめざす会」代表を務める。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。
日本の健康食品制度を問い直す【唐木英明・東京大学名誉教授寄稿】
:【第1回】何が健康食品の活用を阻むのか 法的定義なき「健康食品」と46通知の壁
:【第2回】4分類が生む混乱 保健機能食品の外に残された「いわゆる健康食品」
:【第3回】トクホは本当に上位制度か 「国の審査」と「事業者届出」の実質的格差を問う
:【第4回】トクホの安全性審査は必要か 制度改革に向けた提言と栄養機能食品の構造的課題

