東京大学講座訴訟、新たな争点浮上 補助金・受託研究契約・公益通報へ審理拡大
東京大学医学系研究科「臨床カンナビノイド学講座」を巡る民事訴訟は、第5回(5月21日)および第6回(7月14日)の準備手続を経て、研究の実施状況や契約関係、研究試料の管理に加え、講座設置前後の資金計画、外部企業との契約経緯、さらに東京大学への公益通報への対応も新たな論点として浮上してきた。
原告である(一社)日本化粧品協会(JCA)側は、研究委託費や研究試料、ライセンス契約、研究成果物の管理などについて新たな主張を展開。これに対し、被告側も反論し、講座設置の経緯や研究計画、外部企業との関係について説明を補充している。
中でも新たに注目されるのが、LEAPホールディングス㈱(千葉県流山市、岡村徳久社長)
との受託研究契約、福島県の補助金申請、㈱新日本技研(福島県いわき市、田窪美彦社長)の関与である。東京大学側(被告)は、講座設置に至った経緯や資金原資を確認するため、原告側に対し、補助金申請や関係企業との関係について釈明を求めている。
「殺す」発言含む録音反訳を証拠提出
第6回準備手続では、吉崎歩被告側が、2024年8月30日に東京都中央区銀座の日本料理店で行われた会食の録音反訳(丁39号証の1)を証拠として提出した。被告側から当時の会話全体の録音反訳が提出されたのは初めてのこと。
同会食は、講座運営や研究の進捗、事業収益などを巡り、関係者間の対立が表面化した時期に行われたものである。
反訳では、佐藤伸一被告が「次殺すよ」と述べた後、吉崎被告が「殺すというのは終わってしまうということですね」と確認し、佐藤被告が「終わってしまう」と応じるやり取りが記録されている。
原告側は、この会食での発言について、害悪の告知を伴う恐喝に当たる内容だったと主張している。これに対し佐藤被告側は、「裏金」を要求した趣旨ではなく、講座研究費や契約更新に必要な資金を確保するよう強く求めた文脈だったと反論している。双方の主張は録音の意味付けについて大きく対立しており、発言の趣旨を録音全体の文脈からどのように評価するかが今後の争点となる。
研究試料と外注研究費巡り主張拡大
JCA側は第4準備書面で、研究試料の使用状況について、いつ、誰が、どの実験に、どれだけ使用したのかを明らかにするよう求めた。使用されずに残っている試料の有無や保管場所、本件講座以外の研究に使用された事実の有無についても釈明を求めている。
また、プロテオブリッジ㈱への外注研究費について、講座の研究活動に還元されないまま損害が発生したと主張。訴えの追加的変更申立書では、同社への受託研究費1,562万円と、「東大式科学的メイク理論」のライセンス契約に伴う55万円を新たな請求項目に加えた。変更後のJCA側の連帯請求額は5,325万4,401円とされている。
これに対し被告側は、プロテオブリッジ社との契約はJCAが大学の活動経費とは別に締結したものであり、社会連携講座の契約外の事柄であると反論。外部委託研究の成果を講座に統合する義務が大学側にあったとするJCA側の主張に対して争う姿勢を見せている。
LEAPとの1億円超契約、双方の主張対立
被告側の準備書面では、JCAとLEAPホールディングスとの受託研究契約も取り上げられている。
被告側によると、JCAは2024年1月、LEAP社との間で、大麻草の品種改良や成分分析、論文化、品種登録出願などを含む総額1億1,910万円の受託研究契約を締結した。契約書には、本研究は東京大学との社会連携講座設置契約兼共同研究契約に基づいて実施すると記載されており、被告側は、この契約は臨床カンナビノイド学講座で研究を実施することを前提とした内容だったと主張している。
また、東京大学は同契約の当事者ではなく、講座側も契約内容や金額を知らされていなかったと主張している。品種開発の具体的な研究体制が整う前に、東大講座で研究が進むかのような契約が締結されたとの見方である。
これに対しJCA側は、編集部の質問に対し、2023年12月13日にLEAP側から品種開発研究の依頼を受けたと回答した。契約や研究の進め方については、被告側の主張とは異なる認識を示している。
LEAP社との関係は、東京大学講座の名称や研究計画が外部契約の中でどのように位置付けられていたのかを検討する上で、今後の重要な争点の1つとなりそうだ。
補助金は2年連続不採択
東京大学側(被告)は求釈明申立書で、講座設置に至った経緯や目的、資金原資などについて原告側に説明を求めている。
本件講座は、当初3年間で総額9,000万円、中団連が年間2,950万円、JCAが年間50万円を拠出する契約だった。中団連側は、福島県の「地域復興実用化開発等促進事業費補助金」を主な資金原資として想定していた。
JCA側代理人は編集部への回答で、2022年度の補助金申請は不採択となり、計画を修正して2023年度にも申請したものの、再び不採択となった。「補助金はあくまで中団連側の資金調達手段の1つに過ぎず、当協会は独自に他の資金調達手段を確保し、それを中団連に貸し付ける形で資金計画を立てていた」と述べている。
中団連側は別の回答で、東京大学から2024年12月、2023年分2,950万円と2024年分3,000万円、計5,950万円、遅延損害金を求める支払督促状と請求書を受領したことを認めている。その上で、講座への出資金は福島県の助成金を原資とし、助成金が交付されるまで支払いが留保される前提だったと理解していたと説明している。
これに対し吉崎被告側は編集部の取材に対し、「契約原文と締結前メールに反する」と明確に否定している。講座設置時の審査では、補助金が活用できない場合は中団連が資金を拠出すると説明していたと主張している。
補助金の不採択がいつ、誰まで共有されていたのか、また東京大学が補助金の受給状況をどのように認識していたのかは、講座設置時の資金計画を検証する上で重要な論点となる。
申請主体・新日本技研は関与を否定
補助金申請を巡っては、新日本技研の名前も浮上している。
裁判資料などによると、同社を申請主体とする事業計画には、産業用大麻草の栽培・加工、CBD製造、商品開発、東京大学医学系研究科の講座構想、JCAの関与などが記載されていたとされる。事業経費全体は約7億9,900万円、補助金交付申請額は約5億3,270万円だった。
編集部が新日本技研の田窪社長に電話取材したところ、同社が補助金を申請したことは認めたものの、採択・不採択については福島県との秘密保持契約を理由に回答を控えた。2022年(令和4年)度の福島県公式採択一覧に掲載されていない理由について同氏は、「大麻栽培においては厚生労働省と、栽培地および、やってるかどうかというのは第三者に対して言うべきではないという書面ももらっている」と答えている。
また同社は、JCAとは契約関係がなく、社会連携講座への関与もないとも説明している。
JCA側は編集部に対し、新日本技研について「中団連を通しての知り合いだが、あまり存じない」と回答。補助金申請手続には直接関与しておらず、新日本技研が補助金申請にどのように関与したのかを示す資料はないとしている。なお、引地功一代表理事と田窪社長が中団連事務所で数回打ち合わせを行ったことは認めている。
補助金申請書上の計画と、各当事者が現在説明する関係には隔たりがある。東京大学側が求釈明を通じ、講座構想と補助金申請、新日本技研、中団連、JCAの関係をどこまで明らかにできるのかが注目される。
公益通報への対応も新たな争点
第6回準備手続では、佐藤・吉崎両被告らが東京大学へ公益通報を行った経緯を示す資料も提出された。
被告側は、岡村氏による公益通報に続き、2024年11月には佐藤・吉崎両被告側からも代理人弁護士を通じて公益通報を行ったものの、大学は十分な調査や対応を行わなかったと主張している。大学側の見解は現時点で明らかになっておらず、公益通報への対応経緯も新たな争点の1つとなっている。
講座設置の「入口」も審理対象に
訴訟はこれまで、接待や研究費の支出、研究停滞による損害、東京大学の使用者責任などを中心に進んできた。
しかし、第5回、第6回準備手続までに、研究試料や外注研究、ライセンス契約、LEAP社との受託研究契約、補助金不採択、新日本技研の関与、公益通報への対応など、講座設置前後を含む一連の経緯へと争点が広がっている。
原告側は、大学教授らの優越的地位を背景に接待や支出、契約を強いられたと主張している。これに対し被告側はこれを否定し、JCAや中団連側が東京大学の名称や講座の信用を外部事業に利用したと反論している。
裁判所は現在、双方の準備書面や証拠を基に争点整理を進めている。次回の第7回準備手続は10月6日午前11時に予定されている。
第5回、第6回準備手続を通じ、研究活動を巡る紛争だけでなく、講座設置前後の資金計画や外部契約、研究実態、公益通報への対応など、一連の経緯が新たな審理対象として浮上した。裁判所がこれらの争点をどのように整理していくのかが注目される。
【田代 宏】
関連記事:大麻草由来ビジネスが迷走 国内向けてんかん薬の治験「失敗」で暗雲か?
:日本化粧品協会が東大側を提訴か 【続報】臨床カンナビノイド学講座、泥沼化も
:高額接待問題、マスコミ各社が報道 JCA、来週にも民事提訴、近く記者会見も
:東大教授の接待強要疑惑の余波広がる 中小企業団体連盟も講座の継続求めJCAと連携へ
:東大教授の高額接待強要疑惑に思う 国立大学に問われる研究倫理と公的資金の適正運用
:東大のCBD講座巡り訴訟勃発 JCAと中団連、接待強要・講座閉鎖で教授と大学を提訴
:日本化粧品協会が東大と教授らを提訴 【動画公開】エスカレートする接待強要に困惑、記者会見で訴え
:東京大学と化粧品協会の訴訟開始 協会が研究講座閉鎖を巡り契約無効と損害賠償を主張
:東大、社会連携講座を全面改革へ 不適切行為受け倫理・ガバナンス強化を公表
:東京大学と化粧品協会の訴訟開始 協会が研究講座閉鎖を巡り契約無効と損害賠償を主張
:東大と化粧品協会の対立構図鮮明に 契約消滅の是非、接待・恐喝の真偽は?
:訴え一部取り下げでも争点は消えず 確認請求を整理、契約関係と相殺の可否は引き続き審理へ
:東大教授を収賄容疑で逮捕 臨床カンナビノイド講座設置巡り警視庁発表
:日本化粧品協会の引地代表を書類送検 逮捕・勾留はなく刑事手続き進行、代理人が事実認める
:東大医学部不祥事が示す医療界の欠陥 奨学寄付金の不透明運用と大学ガバナンスの脆弱性に焦点
:東大医学部不祥事の深層 刑事と民事が照らす研究資金制度の盲点
:東京大学講座問題、刑事初公判へ 民事は争点整理段階か、資金と物品巡り認識対立
:東大贈収賄事件、刑事初公判(前)【法廷ドキュメント】権力集中と接待構造が生んだ腐敗
:東大贈収賄事件、刑事初公判(中)【法廷ドキュメント】権力集中が生んだ接待強要と研究支配の実態
:東大贈収賄事件、贈賄側が記者会見 【会見動画】接待拡大と認識の齟齬、制度課題が浮上
:東大贈収賄事件、民事は争点整理段階へ 刑事判決目前、浮上する「社会連携講座」の構造問題
:東大贈収賄事件、吉崎被告に有罪判決 社会連携講座の構造問題にも言及、追徴約197万円命令

