東大贈収賄事件、統治の課題浮上 内部通報機能不全、検証報告書が組織欠陥指摘
東京大学と日本化粧品協会を巡る贈収賄事件の初公判を前に、東大が公表したプロセス検証委員会報告書は、問題の本質を個別不祥事ではなく組織の構造的欠陥にあると位置付けた。内部通報への対応上の問題や初動の遅れに加え、危機意識の欠如や組織風土の問題が重なり、自浄作用が十分に機能しなかったと指摘している。国立大学として求められる統治と説明責任の在り方が改めて問われている。
初公判前に示された検証結果
きょう23日午前10時から、東京大学と日本化粧品協会による贈収賄事件の初公判が東京地方裁判所で開かれる。東京大学はこれに先立つ3月31日、プロセス検証委員会による報告書を公表し、4月8日には藤井輝夫総長が記者会見を行った。同委員会の委員長は、消費者庁の公益通報者保護制度実効性検討委員会委員を務めた山口利昭弁護士である。
同報告書は、収賄容疑による教員の逮捕という事態を受けて設置されたもので、事実関係の整理にとどまらず、大学の対応過程そのものを検証対象とした点に特徴がある。問題の所在を個々の行為ではなく、組織としての意思決定や対応プロセスに求めた点で、大学のガバナンスや危機管理体制の在り方に踏み込んだ内容となっている。
自浄作用が機能せず
報告書はまず、同事案を含む一連の問題に対し、大学が十分な自浄作用を発揮できなかったと評価した。問題を把握しながらも、組織として適切な是正措置につなげることができず、大学の信用を損なう結果を招いたとした。ここで示されたのは、個々の教員の行為の是非を超え、組織として問題に対処する機能が十分に働いていなかったという認識である。
とりわけ厳しく指摘されたのが、内部通報への対応である。報告書は、通報者との適切なコミュニケーションが行われなかった結果、通報情報を活用した早期の事案解明ができなかったとした。さらに、その対応の不備が外部への通報につながる結果を招いた可能性にも言及している。制度としての内部通報窓口が存在していても、それが実効的に機能していなければ、組織としてのリスク管理は成立しないことを示した格好である。
初動対応の遅れと構造要因
また、初動対応の遅れも問題視した。コンプライアンス総括責任者が直接調査を主導するのではなく、部局への調査要請に依拠する運用が取られたことにより、調査の初期段階で遅滞が生じたとしている。部局単位の対応に委ねる体制は、迅速性や統一性の観点から限界を抱えていたことが浮き彫りとなった。
こうした個別の対応の問題に加え、報告書はその背景にある組織的要因にも踏み込んでいる。大学本部における危機意識の不足、部局や研究室間で相互に干渉しない風土、手続きやプロセスを軽視する文化、そして自らの判断の誤りを想定しない意識といった点が、根本的な原因として挙げられた。これらはいずれも、特定の事案にとどまらず、大学運営全体に関わる構造的な問題として横たわる。
さらに報告書は、国立大学法人としての責任にも言及している。国立大学は高い公共性を有し、公的資金の支援を受ける立場にある以上、強固なガバナンスと説明責任が求められるとされている。その前提となる内部統制やコンプライアンス体制が、今回の事案において十分に機能していたのかが問われている。
国立大学の統治責任
委員会は再発防止に向けた提言として、組織風土の改革や内部統制の強化、コミュニケーションの改善などを挙げている。しかし、報告書が示した問題の本質は、個別の対応の巧拙ではなく、問題を早期に把握し、組織として一貫した対応を取るための仕組みそのものが十分に機能していなかった点にある。
今回の検証結果は、刑事事件や民事訴訟とは別の次元で、大学の統治構造そのものを問い直すものである。研究の自由と自治を基盤とする大学において、その前提となる信頼をいかに担保するのか。東京大学の問題は、個別の大学の問題にとどまらず、国立大学全体が抱える構造的課題を浮き彫りにしたといえるのではないか。
【田代 宏】
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