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しげよし、仕出し現場で賃金未払い 衛生崩壊や資金処理に疑義、元従業員が証言

 三重県の仕出し・宅配料理会社「寿美家和久」(現ノコト)を巡り、長年勤務していた元従業員が、給与未払いをはじめとする深刻な実態を証言した。経営悪化の中で廃棄物処理や電力料金の未払いが発生し、衛生管理や健康診断も停止。さらに、既製品の流用や税金未納、従業員による立替負担など、事業運営の基盤そのものが揺らいでいた可能性が浮かび上がった。労働問題にとどまらず、消費者への影響や制度上の課題も問われている。

給与未払いから退職へ

 長年にわたって同じ職場に勤め続けるということは、その場所への信頼と愛着の証でもある。配達員、調理補助・盛り付け・洗い物担当として勤務していたAさんとBさんの2人は、決して短くない歳月をその仕出し会社に捧げてきた。しかし彼女たちが最終的に職場を去ったのは、自らの意志による転職ではなく、給与の未払いという、労働者にとって最も基本的な権利の侵害によるものだった。

 その会社とは、三重県を拠点に展開していた仕出し・宅配料理会社「寿美家和久」――のちに「ノコト」へと社名変更された企業である。昨年8月、2人も寿美家和久からノコトへ転籍している。

 「料亭の味をご家庭へ」というコンセプトを掲げ、葬儀会社との提携や一般向け宅配を手掛けてきたこの会社の内側では、表向きのブランドイメージとはかけ離れた現実が静かに、しかし確実に進行していた。

 2人が記者のインタビューに応じたのは、単に自分たちの未払い給与を取り戻したいという思いからだけではない。長年の勤務の中で目撃してきた数々の不正行為、そして今もなお続いているとみられる経営の実態を、社会に伝えなければならないという使命感があった。その証言は、一企業の経営破綻の物語にとどまらず、日本の労働環境と食品衛生行政の盲点を鋭く照らし出すものとなっている。

支払い滞納が示す経営悪化

 職場の異変に最初に気付いたのは、ある日突然ゴミ収集業者が来なくなったことだった。飲食業において廃棄物の適切な処理は衛生管理の根幹をなすものであり、その収集が止まるということは、単なる業務上の不便にとどまらない深刻な問題を意味する。やがて明らかになったのは、会社がゴミ収集業者への支払いを滞納していたという事実だった。

 しかしそれは氷山の一角に過ぎなかった。電力会社への支払いも滞り、ある時点で電力会社そのものを乗り換えるという事態が発生した。おそらく、旧来の電力会社との契約が維持できなくなったためとみられる。さらに、店舗の大家が直接取り立てに訪れるようになり、野菜などの食材を納入する資金も底を突きかけていた。従業員たちは、そうした実情を目の当たりにしながら、日々の業務をこなし続けるという異常な状況に置かれていた。

 この頃、民放テレビの情報番組「ミヤネ屋」や地方の夕方のニュースでも会社に関連する報道がなされており、それが職場の雰囲気を大きく変えるきっかけになったという。報道をきっかけに、それまで見えていなかった経営の実態が少しずつ表面化し始めた。ベテランの料理長や上位職の社員が相次いで退職したのもこの頃であり、内情を知る立場にある人間ほど早期に離脱していったことが、後になって振り返ると1つの警告サインだったと2人は語る。

衛生管理の崩壊と業務変質

 飲食業において、食品衛生の管理は法律によって義務付けられた最低限の責務である。従業員の健康状態を確認するための検便は、かつてこの職場でも毎月実施されていた。しかし経営が傾き始めた頃を境に、その検便が突然実施されなくなった。さらに、毎月定期的に行われていた衛生管理の外部検査も来なくなり、社会保険に加入している従業員に対して義務付けられているはずの健康診断も行われなくなった。

 これらの措置が停止されてから、少なくとも1〜2年が経過していたとみられる。食中毒などの実害が発生していなかったとしても、衛生管理の義務を怠ることは食品衛生法に抵触する可能性があり、消費者への潜在的なリスクを放置し続けていたことになる。
 さらに深刻だったのは、提供する料理の内容そのものの変質だった。かつては専門の料理長が腕を振るい、信頼できる食材業者から仕入れた素材を使って調理していたこの職場では、経営が行き詰まるにつれて業務スーパーやディスカウント系の食品卸店で購入した出来合いの総菜をそのまま容器に詰めて提供するという行為が常態化していった。葬儀会社との提携によって提供していたお寿司の盛り合わせについても、回転寿司チェーンで購入したものを並べ替えて出すという行為が行われていたという。

 「料亭の味をご家庭へ」というキャッチコピーのもとで販売されていた商品の実態が、業務用の既製品や外部購入品であったとすれば、それは消費者に対する重大な裏切り行為であり、食品表示や景品表示法の観点からも問題をはらむ行為といえる。従業員たちは、そうした行為に加担せざるを得ない立場に置かれながらも、内心では強い葛藤を抱えていたと明かす。

賃金未払いと労務管理の破綻

 2人が最終的に職場を離れる直接の引き金となったのは、給与の未払いだった。昨年12月分の給与が翌1月末の支払い日に振り込まれず、その後も「明日払う」、「●日に払う」という約束が繰り返されては反故にされ続けた。社長との直接のやりとりは一切なく、すべては店長を介した伝言ゲームのかたちで行われた。店長自身も社長から正確な情報を得られておらず、「社長が直接電話する」という言葉も実行されることはなかった。

 2026年2月初旬、2人を含む6名の従業員は、ほぼ同時に出勤をやめた。12月分から2月初旬までの給与が未払いのまま、彼女たちは職場を去ることを余儀なくされた。退職後も離職票は発行されず、社会保険の資格喪失手続きも行われなかったため、国民健康保険への切り替えすらできない状態が今も続いている。

 ハローワークを通じた離職票発行の手続きについても、「手続きを始めた」、「届き次第連絡する」という言葉が繰り返されるだけで、実際には何も進んでいなかった。

 さらに衝撃的だったのは、年末調整による還付金の未払い問題だ。11月分の給与明細には還付金が記載されていたにもかかわらず、実際の振込額はその分だけ差し引かれた金額だった。通帳の記録と給与明細を照合することで、この事実が明確に確認できた。会社が従業員に支払うべき還付金を意図的に差し引いていたとすれば、そこには不適切な資金処理が行われていた可能性がある。

税・資金流用の疑い

 さらに深刻な問題として、市区町村民税の問題がある。給与から天引きされているはずの住民税が、実際には自治体に納付されていなかったことが、役場への問い合わせによって判明した。従業員の給与から控除しておきながら、その税金を納付せずに会社の運転資金として流用していたとすれば、これは法令に抵触する可能性がある。ところが、税務署に相談したところ、税務署側でできることはなく、会社との直接交渉を求められたという。

 給与未払いという問題の陰で、もう1つの深刻な実態が浮かび上がる。従業員たちが、会社の運営資金を自腹で立て替えていたという事実だ。ゴミ袋1枚を買う現金すら会社が用意できない状況の中で、従業員たちは食材の購入費用や高速道路の通行料を自ら立て替え、業務を継続させていた。

 配達業務に不可欠な高速道路の利用についても、会社のETCカードやガソリンカードはすべて利用停止となっており、現金での支払いを余儀なくされていた。その現金すら会社が出せないため、従業員が立て替えるという構造が常態化していた。

救済制度とその限界

 しかし、2人は泣き寝入りを選ばなかった。労働基準監督署への相談を経て、監督署側は書類送検の手続きに移行する意向を示したという。ただし送検が実際に行われるかどうかは確約されておらず、その結果を知るためには自ら新聞やインターネットで検索し続けるしかないと告げられた。監督署としてできることはそこまでであるという説明を受け、2人は次の手段を模索し始めた。

 簡易裁判所への相談も行い、民事訴訟の手続きについての説明を受けた。提訴できる期限についても確認済みだという。現時点では、(独)労働者健康安全機構が実施している「未払賃金立替払制度」の活用も視野に入れながら、状況を見守っている段階だ。

 一方、倒産を望む気持ちと望まない気持ちが複雑に交錯しているとも2人は語る。取引先の1社は大きな未払いを抱えており、倒産となれば回収の見込みはほぼ消える。長年にわたって会社を支えてきた業者や、善意でサービスを利用してきた消費者のことを思うと、単純に倒産を望むことができないという複雑な心境が、彼女たちの言葉の端々ににじんでいた。

 入社以来、1度も顔を見たことがない社長。謝罪の言葉はおろか、状況の説明すら届かないまま、給与を奪われ、税金を横流しされ、衛生義務を無視した職場で働き続けることを強いられた従業員たち。その経験は、日本の労働環境における構造的な脆弱性を鮮明に映し出している。

 会社の規模や知名度に関わらず、労働者が自らの権利を守るためには、給与明細と銀行通帳の照合、住民税の納付確認、社会保険の適用状況の把握といった、地道な自己防衛が不可欠であることをこの事例は示している。そして同時に、そうした確認作業を労働者個人に委ねるだけでは不十分であり、行政による実効性のある監視と介入の仕組みが求められていることも明らかだ。

 「許せない」という言葉を2人は繰り返した。その怒りは、単に自分たちへの仕打ちに向けられたものではない。だまされ続けた消費者への申し訳なさ、見て見ぬふりをせざるを得なかった自分たちへの悔しさ、そして何の説明もなく姿を消し続ける経営者への根本的な不信感――それらが複雑に絡み合った感情の表れだった。彼女たちの証言が、同様の被害に苦しむ人々への1つの道しるべとなることを願いたい。

※本記事は、元従業員への取材をもとに構成したものです。登場する人物名・店舗名の一部は、プライバシー保護の観点から名を伏せてあります。YouTube動画におきましても、個人の特定を避けるため表情はモザイク、音声は変えてありますのであらかじめご了承ください。

【田代 宏】

(冒頭の画像はイメージです)

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