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厳格なデータ管理と安全性の追求 【時代を読み、事業で応える】創薬グレードの知見で築く「食のエビデンス」

㈱トランスジェニック 臨床本部取締役本部長 富田晋平 氏

 健康食品産業が機能性表示食品制度の浸透により大きな変革期を迎える中、科学的根拠(エビデンス)の質が問われている。超高齢社会の進展や消費者の本物志向を背景に、単なる流行ではなく、医薬品開発に近い厳格なデータ管理と安全性の担保が不可欠となった 。遺伝子改変マウスによる基礎研究からヒト臨床試験までを一貫して受託する同社。CROの立場から見た業界の課題と未来への戦略について話を聞いた。

医薬品レベルを追求する「創薬グレード」の矜持

――機能性表示食品制度の普及により、サプリメント業界でも「エビデンス重視」が当たり前になりました。臨床試験を支えるCROの立場から、現在の潮流をどう見ておられますか。
富田 確かにエビデンスの重要性は増していますが、私はあえて「健康食品のエビデンスは、そのままでは医薬品レベルにはなることはない」という認識を持っております。医薬品は厳格な動物実験を経てヒトでの有効性と安全性を多段階で検証しますが、食品業界では愛護の観点から動物実験を避ける傾向にあります。また、SR(システマティックレビュー)による届出が主流であることも、医薬品レベルとは異なり、健康食品は健康食品でのエビデンスの取り方がどうなっていくのかという変化時期の途中と考えています。
 SRは既存の論文から広くデータを集めることで普遍的な傾向を掴めるという大きなメリットがあります。しかし、自社製品そのもので試験を行う臨床試験とは意味合いが異なります。他方、臨床試験も1回有効性が得られたことで普遍的に効果があるのか、というのは少々疑問も残ります。今後は臨床試験とSRを組み合わせる手法や、より質の高い学術誌への論文掲載など、多角的な証明が求められる時代になるでしょう。

――貴社は「創薬グレードの知見」を健康食品開発に転用できる稀有な体制をお持ちですが、具体的にどのような強みがあるのでしょうか。
富田 弊社組織には動物実験を主とした体制も構築している部門があります。GLP体制で毒性試験を行う部門を主とし、薬効薬理試験についてもマウスからサルまでの実施が可能な部門があります。また、遺伝子改変動物の作出サービスも行う部門もあり、本来はヒト臨床試験を行う前に、動物実験によって「なぜ効くのか」という作用機序の解明をお勧めしたいところです。細胞試験(in vitro)だけでは、生体における複雑な吸収や代謝のプロセスを完全には評価しきれません。生体内で成分がどう動き、どう作用するかという裏付けがあるからこそ、ヒト試験の設計もより精度の高いものになります。とはいえ、現在の主流は動物実験を控える傾向にあり、弊社としては外部の専門機関と提携し、in vitro、メタボロミクスなどの提案も行える体制としております。 

 また、国内メーカーからのお問い合わせは少ないですが、機能性成分の「体内動態(血中動態)」についても、私たちは重視しています。体内に吸収されることで効果を示すと考えられる機能性成分がどれだけ吸収され、どれくらいの時間血中に存在するのかを把握することは、科学的な信頼性の土台となるデータかと思います。欧米では食品でもこの体内動態はデータとして示されており、日本企業が今後海外展開を見据えるならば、避けては通れない視点になるはずです。

――データの信頼性を担保するための具体的なプロセスについても伺わせてください。
富田  私たちには非臨床分野のGLP(Good Laboratory Practice、優良試験所規範)という、医薬品、医療機器等の開発における極めて厳格な文化をバックボーンに持っています。臨床試験スタッフの半数は非臨床分野からのスタッフで構成されており、この文化を臨床試験の現場にも持ち込み、標準業務手順書(SOP)を策定して、担当者の教育から資料作成、データエントリーなどの手順までを細かく定めています。

 例えば、データの移管について、データは原データから報告書までのステップで人によって入力、転記がされており、人為的ミスを防ぐためにそれぞれのステップで正確性が担保されるべきです。当社では各検査項目のデータについて、データが移管されるステップをダブルエントリー等で実施、保管することを規定しております。さらに、モニタリング活動を重視しており、計画書の作成、モニターによるSDV体制を敷き、委託者に対して正確なデータを提出することを最大に優先しております。なお、近年は正確性に加え、不正に対する意識も重要と考えております。そのためには、極力原データあるいは途中データへの人為的操作が入らないようにと考えております。現在、毒性チームではDIに対する取り組みを進めており、我々グループも検討しております。紙資料から電子資料への移管もその取り組みの1つと考えております。

――昨今の紅麹問題などを受け、消費者側の「安全性」への関心もかつてなく高まっています。臨床現場ではどのような配慮をされていますか。
富田 有効性試験を実施したとしても、安全性が確認された上で初めて意味が出てくると思います。弊社ではウェブ日誌を最大限に活用し、試験参加者の方々に対して自由記載欄を多く設けるようにしています。単に「異常なし」とチェックするだけでなく、「今日は少し食べ過ぎた」、「激しい運動をした」といった些細な自覚症状や生活習慣の変化を速やかに拾い上げるためです。
 これにより、万が一臨床検査値に異常が出た際、それが製品の影響なのか、それとも前日の暴飲暴食や激しい運動といった外部要因によるものなのかを、速やかに事実に基づいて冷静に分析することが可能になります。こうした地道な情報の積み重ねこそが、消費者の不安を解消するリスク評価につながると考えています。

質の高い試験を追求、マーケティングを支える

――被験者の管理についても独自の基準があると伺いました。
富田  はい。「試験に参加される方の質」の管理は徹底しています。試験参加は原則自由参加ではあるのですが、試験参加への意識が低い方が混じると、データの信頼性が根底から揺らいでしまうからです。そのため、本試験の前に「前観察期間」を設け、連絡が滞るような参加者や、ルールを守れない方をあらかじめ選考段階で排除する「ふるい分け」を行うことを推奨しております。誠実な試験参加者によって得られたデータこそが、製品の真の価値を証明すると考えます。

――一方で、中小規模のメーカーにとっては試験コストが大きな壁となります。効率化と精度の両立についてはどのようにお考えですか。
富田 正直に申し上げますと、精度重視なのかもしれません。私たちは他CROから比べると試験コストは少々高めかもしれません。私たちの試験は1社1社のニーズに合わせたオーダーメイド型であり、標準的なprotocolはありますが、多くの試験で変則的な項目の追加などもあり、実態としては高めです。これに質を下げてまで安く受注することは可能なのかもしれませんが、結果的に自社の首を絞め、ひいてはクライアントの製品の信頼性を損なうことになると考えております。ただし、極めてパイロット的な段階の試験を低コストに行いたいというケースもあり、その際は例外的に低コストで実施させていただくことはございます。
 なお、もしコストを最優先されるのであれば、大規模で効率化が進んだ他社様を紹介することもあります。

――現在、特に注力されている試験分野や、今後の戦略について教えてください。
富田 約20年体脂肪試験を実施してきており、やはりそこは中心のサービスとなっております。理由としては、多くの試験参加者を組み入れても単施設でCT、DEXA等の測定を行うことができる点、結果として、ボランティアバンクもBMIが高めの方を多く登録している点です。この10年間は、運動生理学の専門家とのネットワーク、そして40歳以上の中高年層を中心とした豊富な試験参加者リソースを活かし、身体機能関連の試験に注力しています。特に、単にサプリを飲むだけでなく、「運動負荷+サプリメント摂取」といった、健康維持にアクティブに取り組む層をサポートする試験モデルに大きな可能性を感じています。
 逆に、苦手なジャンルがあることもお伝えしております。認知機能や免疫機能といった、アウトプットが難しい試験系については、現時点では無理に手を出さず、自社の得意領域で確実に質の高いデータを提供することに専念しています。

――最後に、今後に向けて、健康食品業界はどのように進化していくべきでしょうか。
富田 我々は健康食品の機能性、安全性を第三者的に評価する位置でしかありませんが、健康食品は日常生活での健康的な行動をより良い方向に増強できる位置付けの開発が良いのではないかと考えます。例えば、高齢者等の身体機能試験ではほぼ実施しておりますが、試験参加者には適切なトレーニングを依頼し、トレーニングによる恩恵を健康食品によって増強できるか、というような位置づけが良いのではないかと考えます。この方法は、個人間で制御をしづらい側面もあり試験としての難易度は上がってしまいますが、介入されるすべての試験参加者にも恩恵があり、疾患を直接治療するような医薬品と異なる価値を見出すことができるのではないかと考えております。機能性表示食品だからこそできる方向性ではないかと考えます。我々は従来からの試験で得た、こうすると良かった、この切り口だと違ったものが見れるのでは、という経験を有しておりますので、ご相談いただければと思います。

――ありがとうございました。

【聞き手・文:藤田勇一】

(月刊誌「Wellness Weekly Report93号」(2026年3月10日刊)より転載、取材日:2月12日)

【プロフィール】 富田晋平(とみた・しんぺい):工学部応用化学科。ELISA開発など分析関係を主としていたが、同社で非臨床チームとして小動物を対象とした薬効薬理試験10年、臨床試験CRO業務10年以上実施。それぞれ経験した結果、生物統計学を少しでも自分のものにしたいと思いながらも苦労中。

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