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DSHEA制定時の思想 【寄稿】法律の冒頭に刻まれた「国家の意志」

【武田猛・グローバルニュートリショングループ代表】

 DSHEA(Dietary Supplement Health and Education Act:ダイエタリーサプリメント健康教育法)を理解する上で、最も重要なのは、法律本文そのものよりも、むしろ冒頭に置かれた「Findings(議会認定事項)」である。

 ここには、1994年当時、米国連邦議会が「健康」「栄養」「セルフケア」「ダイエタリーサプリメント」をどのように位置づけていたのかが、極めて明確に示されている。

 日本では、DSHEAはしばしば「サプリメント自由化法」あるいは「規制緩和法」として語られることが多い。しかし、Findingsを実際に読むと、そこに書かれているのは単なる市場自由化ではない。

 むしろ、
・国民の健康改善
・予防的健康管理(Preventive Health Care)
・消費者の主体的選択
・科学情報へのアクセス
・医療費抑制
・国家経済への貢献
などを、国家政策としてどのように位置づけるか、という極めて包括的な思想である。

 DSHEAのFindingsでは、まず冒頭において、
“improving the health status of United States citizens ranks at the top of the national priorities”
すなわち、「米国民の健康状態の改善は、国家の最優先課題である」
と明記されている。

 これは非常に重要である。DSHEAは、産業育成や市場拡大を目的とした法律として始まったのではなく、まず「健康」が国家課題である、という認識から出発していたのである。

 さらにFindingsでは、良好な健康状態の維持および疾病予防の推進は、国民の健康改善だけでなく、
“containing the rapidly escalating health care costs of the United States”
 すなわち、「急速に増大する米国の医療費抑制」
のためにも極めて重要であると述べられている。

 ここで注目すべきなのは、DSHEAが、ダイエタリーサプリメントを単なる“栄養補給”として位置づけていたわけではないことである。

 むしろ、食習慣、栄養、セルフケア、疾病予防、健康維持を、「国家的な健康戦略」の一部として捉えていた。

 またFindingsでは、食事と健康との関連性に関する科学的知見が急速に蓄積されつつあることにも言及されている。特に、心血管疾患、骨粗鬆症、癌などの慢性疾患と食生活との関連について、科学研究が進展していることが認識されていた。

 ここには、「病気になってから治療する」という20世紀型の医療モデルだけではなく、「病気になる前に健康状態を維持・支援する」という、予防的健康管理(Preventive Health Care)への思想転換を見ることができる。

 つまりDSHEAは、「食品」と「医薬品」の間に、新たな健康管理領域が広がりつつあることを、国家として認識し始めた時代の法律でもあった。

 さらに注目すべきなのは、「消費者」の位置付けである。

 Findingsでは、消費者には、自らの健康維持・増進のためにダイエタリーサプリメントを選択する権利があること、そして、そのためには、正確で、科学的根拠に基づき、誤解を招かない情報へアクセスできる必要があることが明記されている。

 ここには、「政府が全てを決める」のでも、「完全な自己責任」に委ねるのでもない、第三の考え方が存在している。

 すなわち、「消費者が、適切な科学情報に基づいて主体的に健康管理を行う」
という、“情報に支えられたセルフケア社会”という思想である。

 これは、後にNIH(National Institutes of Health:米国国立衛生研究所)内にODS(Office of Dietary Supplements:ダイエタリーサプリメント局)が設立され、国家予算を用いた研究支援、消費者教育、医療関係者向け情報整備などが進められていく背景とも深く関係している。

また、DSHEAのFindingsでは、ダイエタリーサプリメント産業が米国経済へ重要な貢献を行っていることにも言及されている。

 しかしここでも、単純な産業保護ではなく、消費者アクセス、安全性、安定供給、適切な規制枠組みとのバランスが重視されている点が重要である。

 つまりDSHEAは、「自由化か規制か」という単純な二項対立ではなく、
・国民の健康
・科学
・消費者主体
・セルフケア
・安全性
・産業
・医療費
を、どのように統合的に設計するか、という思想の上に構築されていた。

 そして、この思想を実際の制度・研究・教育・安全性監視へ落とし込んでいく役割を担ったのが、次回で述べるNIH ODSであった。

(次回に続く)

【プロフィール】武田猛(たけだ・たけし):アピ㈱、サニーヘルス㈱を経て2004年、㈱グローバルニュートリショングループ設立。国内企業の新規事業の立ち上げ、新商品開発、マーケティング戦略立案などのコンサルティングや海外市場進出の支援、海外企業の日本市場参入の支援を行う。

DSHEA制定から30年【寄稿】武田猛・グローバルニュートリショングループ代表
第1回 ダイエタリーサプリメント制度の実像 なぜ米国民の健康インフラとして育てられたのか

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