サプリの定義はどうあるべきか 唐木・東大名誉教授とGNG武田代表が論じ合う(後編)
サプリメントの法的な定義とはどうあるべきなのだろうか。健康食品の社会的な意義を認め、日本におけるその制度の在り方やリスクコミュニケーションへの問題提起を続ける唐木英明・東京大学名誉教授と、コンサルタントとして国内外の栄養・機能性食品産業を見つめる武田猛・グローバルニュートリショングループ㈱(東京都豊島区)代表に語り合ってもらった。
8月19日付で掲載した前編に続き、対談の後編を掲載する。
米DSHEAの定義、背景に「国民の健康」
──海外のサプリメントの定義にあり、日本の定義案にはないものは何でしょうか。
武田 EUはどちらかというと規制サイドの定義になっていると思います。そう考えると、やはり注目すべきは米国のDSHEAです。DSHEAは、単にダイエタリーサプリメントを法的に定義したのではないし、規制のためだけ、逆に規制緩和のためだけに定義したのでもありません。国民の健康に貢献するのだという大前提のもとで定義され、制度設計されました。
連邦議会が認定したDSHEAの立法事実の冒頭には、「米国民の健康状態の改善は、連邦政府の国家的優先課題の最上位に位置づけられる」とあります。国民の健康が国家的優先課題だと言っている。その次に置かれているのは「栄養の重要性、および健康増進・疾病予防に対するダイエタリーサプリメントの有益性は、科学研究においてますます明らかにされてきている」です。さらに、「消費者は、特定のダイエタリーサプリメントに関連する健康上の有益性についての科学的研究データに基づき、予防的健康管理プログラムを選択できるようにされるべきである」ともある。こういった、サプリメントを国民の健康や消費者の選択にどう位置づけるのかという前提、あるいは思想が日本の定義案にはないですよね。
唐木 前提なしで定義しようとしている。前提なしの定義を示されても、サプリメントの意義は消費者に伝わりません。そもそも消費者庁や厚労省は、米国のサプリメントの定義や制度を説明する際に、いま武田さんがおっしゃったDSHEAの立法事実までは引用していない。DSHEAが示している考え方は、そのまま日本にもあてはまるだろうと思います。ですから、サプリメントを規制対象としてだけ見るのではなく、国民の健康の維持にとってどういう意味を持つのかをきちんと示す必要がある。そのためにも、まずは正確な情報を出すことです。きちんとした情報を出したうえで議論すれば、きちんとした結果が出てくる。消費者庁と厚労省は、そこを避けずに示してほしいと言いたい。
思想と教育なき定義は根づかない
武田 規制だけが目的なのであれば、この定義案で良いと思います。しかし、国民の健康に貢献するのだという前提に立つのであれば、これではまったく不十分です。
DSHEAについてはもう1 つ、忘れてはならないことがあります。その原点には、市民運動があったんです。サプリに対する規制を強めるFDAに対し、業界と消費者が一致団結して抵抗した。1970年代後半から続いてきた「Health Freedom(健康の自由)」運動です。特に、1993 年から94 年にかけて連邦議会には、サプリメントの自由な購入を求める有権者から250万通を超える手紙やファックスなどが殺到したといわれます。
そのように草の根的な市民運動が大きくうねりになり、それを受けて政治家が動き、議員立法として成立されたのがDSHEAです。そしてその背景には、国民の健康改善・予防的健康管理・消費者の主体的選択・科学情報へのアクセス・医療費抑制・国家経済への貢献などといった思想がある。だからこそ、NIH(国立衛生研究所)にダイエタリーサプリメント専門の部局(Office of Dietary Supplements)が置かれ、毎年度大きな予算が付き、継続的な調査・研究、そして消費者への情報提供が行われているわけです。そうしたことは、米国のサプリメントの定義や制度の概要を知らせるだけでは決して伝わりません。
DSHEAは、業界と消費者が自ら勝ち取ったものです。当時の米国のサプリメント業界には、DSHEAが成立しなければ「業界が潰される」「業界の存続そのものに関わる」くらいの危機感がありました。それだけ規制されていたのです。それに対して日本の機能性表示食品制度は、DSHEAとは異なり、行政主導で制度設計された側面が強いでしょう。そのため、制度に対する業界の熱意であったり、使命感であったりが米国の業界とはかなり違うと思います。
唐木 米国の定義やDSHEAができた背景には、業界団体が必死で動いたことがある。では、日本でもサプリメントの定義が決められ、規制されようとしているいま、業界は何をやっているのでしょうか。規制され、それを受け入れるのであれば、そのメリットは何なのか。そういうディール、つまり交渉はトランプ大統領でなくても普通は行うはずです。
そもそも日本では、サプリメントの社会的な意義が消費者に伝わっていない。それはやはり、業界団体の情報発信力の不足ゆえだと思います。セルフメディケーションの観点から重要だと示すべきです。食品にメディケーションという言葉は使えないというのであれば、「健康維持・増進のために有効だ」でも構いません。有効であることをはっきりと発信すべきです。そうすれば、効果はさらに大きくなります。医師や薬剤師などから隠れて飲んでいるわけですよね。後ろめたさがある状態では、その効果に確信を持つことができない。効果を最大限に引き出すためにも、その効果を心から信じて、堂々と使える環境をつくることが重要です。その意味で、DSHEAに学ぶべきことは教育です。法律名にもEducationと入っている。ここは非常に大事な部分だと思います。

サプリは「第3のカテゴリ」である
──サプリメントは食品なのか、それとも食品とも医薬品とも異なる第3のカテゴリなのか。どう思いますか。
武田 世界的に見ても、サプリメントは食品か医薬品かのどちらかの法体系に置かれることが多いと思います。ただ、食品と医薬品の間にはグラデーションがあって、行政は「ない」と言っていますが、実質的には第3のカテゴリの位置付けで運用されています。
日本は食品の枠組みでサプリを定義しようとしているようですが、それはそれで良いと思います。ただ、例えばEUは一般食品とサプリメントを明確に分けているし、栄養成分を一般食品に添加することにも制限があって、川上でがっちり縛っています。一方、日本は、EUと比べると食品安全に対して比較的おおらかだと思いますし、一般食品と健康食品を区別する規制は表示法以外にありません。しかも、表示で区別されるのは保健機能食品だけで、その他の健康食品は一般食品として扱われています。そうした中でサプリを食品に組み入れることは、EUが同じことをするのとは事情がちょっと違うのではないでしょうか。
唐木 サプリメントを食品として取り扱うのは別に構いません。しかし、サプリは一般の食品とは違う。そもそも目的が違う。その意味で第3のカテゴリなんです。武田さんがおっしゃるように、欧米もそのような位置づけで運用している。私たちが第3と言っているのは、食品と医薬品という法律上の分類の話ではなく、運用の話です。法律上は食品として取り扱うのだとしても、海外のように第3のカテゴリに位置付け、運用すべきだと思います。
ところで、日本もすでにサプリを第3のカテゴリとして運用している部分があります。有効性(機能性)の評価試験についてです。トクホや機能性表示食品は、プラセボ対照試験で機能性を評価することが実質的に義務付けられています。しかし、プラセボ対照試験はもともと医薬品の有効性評価で用いられるものです。食品に対して医薬品と同じ有効性評価試験を義務付けているわけです。もう1つは、機能性評価試験における被験者です。原則として健康な成人が被験者でなければならないとされていますが、一部では境界領域の被験者、つまり軽度の病者を被験者とすることを認めています。ただし、食薬区分の建前から境界領域は「病者」ではないと言っていますが、実態は病者の治療試験です。
このように、試験方法の観点からみると、日本のサプリメントの運用は医薬品寄りです。しかし当然、医薬品として整理されているわけではありません。そうしたことを考えても、やはりサプリメントは食品でも医薬品でもない第3のカテゴリなのです。
武田 実際に医薬品の法律でサプリメントを運用している国もいくつかあります。ですから、どちらの法律で運用しても別に構わない。しかし、サプリメントは食品でも医薬品でもないということをはっきりさせるべきです。
サプリとは何かもっと議論を
──日本なりの、サプリメントの定義や制度の在り方をどう考えますか。
武田 まずサプリメントに対する思想や哲学があり、それをどう現実化するかという話だと思います。しかし、私は今回の定義の案を見て、これは「行政境界調整文書」だと受け止めました。日本が提唱した食の三次機能(生体調節機能)の考え方が目的に盛り込まれたことは歓迎しますが、医薬品行政や健康栄養政策など各方面に配慮した結果、こうしたわかりづらい定義案になったのだと思います。プロテインパウダーはサプリなのか、ニュートリションバーは一般食品なのかなど、サプリか否かの判別が困難な食品が次々と出てきそうです。
米国の場合、プロテインパウダーはダイエタリーサプリメントと一般食品の両方があります。サプリメントは構造機能表示が認められていますから、それを行いたい企業は厳しい管理を承知の上でサプリとして製造販売する。一方で、日本の場合は、サプリではなくても機能性を表示できる。そうすると、サプリに対する規制から逃れるために、より規制負荷の低い一般食品側で展開しようとする企業が出てくるかもしれない。ですから、サプリメントの管理を厳格化するのであれば、サプリメントであることのメリットも同時に打ち出していく必要があると思います。イノベーションを損なうような制度になってはなりません。
唐木 サプリメントの社会的な意義を公認し、第3のカテゴリであることをはっきりさせることです。技術的には、この定義案でやむを得ないところがあるのかもしれません。しかし、規制ありきではなく、サプリメントとは何であるのかをきちんと議論したうえで、こうした定義を示してもらいたい。サプリメントというものを国民に理解してもらうための説明を、厚労省と消費者庁にはしっかり行ってもらいたいですね。
──ありがとうございました。
(『Wellness Monthly Report』2026年6月号より転載。了)
【司会・構成=石川太郎】
【プロフィール】
唐木英明(からき・ひであき):農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て87年に東京大学教授、2003年に名誉教授。「食の信頼向上をめざす会」代表を務める。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。
武田猛(たけだ・たけし):アピ㈱、サニーヘルス㈱を経て2004年、㈱グローバルニュートリショングループ設立。国内企業の新規事業の立ち上げ、新商品開発、マーケティング戦略立案などのコンサルティングや海外市場進出の支援、海外企業の日本市場参入の支援を行う。
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