サプリの定義はどうあるべきか 唐木・東大名誉教授とGNG武田代表が論じ合う(前編)
サプリメントの法的な定義とはどうあるべきなのだろうか。健康食品の社会的な意義を認め、日本におけるその制度の在り方やリスクコミュニケーションへの問題提起を続ける唐木英明・東京大学名誉教授と、コンサルタントとして国内外の栄養・機能性食品産業を見つめる武田猛・グローバルニュートリショングループ㈱(東京都豊島区)代表に語り合ってもらった。
前後編の2回に分けて掲載する。また、対談の模様を収録した動画もあわせて公開する。
時代の変化に合わせて変わるもの
——そもそもサプリメントとは何だと考えますか。
武田 歴史を踏まえ、広い視野で考えるべきことだと思います。この30年を振り返ると、米国では1994年にDSHEA(ダイエタリーサプリメント健康教育法)が成立し、EUでは2002年にフードサプリメント指令が出されました。そしてASEANでも、2015年までにヘルスサプリメント規制の大枠が仕上がっていました。それぞれ定義があり、違いがありますが、その違いの理由を単に国・地域によるものと見ることにはあまり意味がない。社会的背景、技術、サイエンス、生活者ニーズの変化に合わせながら進化してきたというふうに見るべきです。
1994年の時点では、サプリメントは基本的には「食事を補うもの」という位置づけでした。それが2002年になると、「通常の食事を補足する目的で、栄養学的あるいは生理学的効果のある単独または複数の栄養素あるいはその他の物質を濃縮した形で含有」というふうになります。ここで注目されるのは、栄養や生理機能という概念が入ってきたことです。それが2015年にはさらに進化し、「食事を補完し、人の健康的な身体機能を維持、強化、または向上させることを目的とする」というふうに、Maintain(維持)、Enhance(強化)、Improve(向上)という言葉が取り入れられました。それぞれの定義は、それぞれの時代に合わせたサプリメントの社会的な役割を映していると思います。
もっとも、ASEANの定義からすでに10年ほどが経ちました。消費者から要求されるヘルスベネフィットも変わってきています。ですから、いまの時代に合った定義を改めて考える必要があるように思います。サプリメントにいま求められている社会的な役割には、いろいろな捉え方があると思いますが、私の感覚では、現代生活において生じるさまざまな健康上のギャップを補完するものです。いわゆる「状態管理」。英語で言えば、condition-specificでしょうか。
そう考えると、この先もサプリメントという言葉を使い続けて良いのかという問題提起も出てきます。「補う」「補完する」という意味がありますが、いまサプリメントに求められていることは、すでに存在する主体に対し、その不足を補うという概念だけでは説明しきれないように思います。
そもそも「健康食品」の定義がない
唐木 サプリメントとは何かを考えたとき、消費者庁が今回出してきた定義の案の目的(通常の食事による栄養摂取又は生理機能の調節を補助する)のところは、さほどおかしなことは言っていないと思います。
ただ、手元に消費者庁の資料(サプリの定義案が示された、2026年4月23日の食品衛生基準審議会新開発食品調査部会の配布資料=サプリメントに関する規制のあり方)があります。その8ページの目的のところにこう書かれている。「健康維持・増進」は「健康食品を表す本質であると考えられる」。私もそれが健康食品の正しい目的だと考えますし、消費者の多くもそう考えているだろうと思います。なにより、消費者庁や厚生労働省が健康食品の本質をそういうものだと捉えていることがここにはっきりと表れている。
そうであれば、健康食品とは健康維持・増進のためのものであると言えそうですが、そもそも健康食品には定義がないのですよね。その上で、資料にはこうあります。「健康維持・増進を(サプリメントの)法令上の定義として用いる場合には医薬品や保健機能食品との区別が困難」。医薬品との区別が困難というのは分かりますが、保健機能食品との区別が困難とはどういうことでしょうか。保健機能食品の目的は健康維持・増進である一方で、その他のいわゆる健康食品はそうではない。保健機能食品も、その他のいわゆる健康食品も、どちらも健康食品のはずですが、そのように分けて考えていることが見えてきます。
消費者庁の資料を見ると、サプリメントは、保健機能食品とそれ以外のいわゆる健康食品にまたがる形で存在するものであると整理されています。ですから、保健機能食品との区別が難しいという理由で健康維持・増進がサプリメントの目的だとは言わないことにして、「栄養摂取又は生理機能の調節を補助する」という表現にとどめた。いまの法律、あるいはいまの食品衛生行政の仕組みでは、これが限界だろうと思います。
ただ、ここで私は消費者庁と厚労省に求めたい。いわゆる健康食品をこれからどうしていくのでしょうか。今回の検討は、サプリメントをどうしていくかだけではなく、健康食品全体をどうしていくかを考える良い機会です。いまやらないと、このままズルズルと消費者に正しく理解されない現状が続いてしまう。

サプリのリスク評価は行われたか
──では、規制の在り方が検討される理由でもあるサプリメントのリスクをどう考えますか?
武田 リスクの定義が必要です。何をもってリスクと見るのかを整理する必要があります。今回の(規制の在り方を巡る)議論では、過剰摂取がサプリのリスクとして取り上げられています。ただ、過剰摂取の考え方も、現状を前提にしたものだけではいずれ足りなくなる。例えば、ナノ化技術の進化によって吸収率が大きく変化する。あるいはDDS(ドラッグデリバリーシステム)技術がさらに進化して極少量でも効くようになる。そうなると、いまの成分、あるいは技術を踏まえた過剰摂取の定義自体が成り立たなくなってしまうでしょう。技術も進み、生活習慣も文化も変わってきている中では、リスクに関する考え方もこれまでの延長線だけでは足りない。キャッチアップしていかないといけないと思います。
米国もまさに今、そういったことに直面しています。DSHEAでは、ダイエタリーサプリメントに含まれる成分の類型の1つとして、「食事摂取量を増やすことで食事を補完するために用いられる食事性物質(dietary substance)」を定義していますが、FDAは最近、このdietary substanceの範囲を再検討するための公開シンポジウムを開きました。例えば培養肉のように、1994年にはなかった技術で作られるものが続々と現れています。そうした中で、dietary substanceとは何かを改めて問い直す必要が出てきたということだと思います。食品とは何かということも合わせて考えないと、サプリメントの定義はできないということです。
唐木 今お話があったように、通常の食品にも、サプリメントにも、トクホ(特定保健用食品)にもリスクがあることは確かです。ただ、私たちリスク評価者、あるいはリスク管理者が注目するのは、ではどのくらいのリスクなのかということです。科学的なリスク評価の結果、リスクが高ければ適正に管理しなければならない。低ければ注意で終わらせればよい。そういうことになるわけですが、サプリメントに関するリスク評価が日本で行われたことはあるのでしょうか。私が知る限りありません。
何か事件が起こると、それだけでリスクが高いと判断してしまう。リスク評価をやらず、感情や思い込みだけで規制強化するかのようなやり方は、そろそろやめるべきではないか。紅麹サプリ事案にしても、紅麹自体にリスクがあったのではなく、(原材料の)製造工程上で青カビを混入させる失敗が原因であったことはほぼ明らかです。そうした失敗が生じるリスクをどう管理するか。そこが非常に重要なのですが、いま議論されているGMP(適正製造規範)だけで防げるのかといえば大いに疑問です。GMPで管理されている医薬品でも、製造工程上の失敗で死亡事故が起きています。ですから、サプリメントのリスク管理は、GMPの義務化以前の問題として、企業の『安全文化』の醸成が大前提であるはずです。そうした議論がないまま、GMP義務化だけですべてが解決するかのような話になっている。
ただ、リスク評価をきちんとやる必要はあるけれども、錠剤やカプセルなどのサプリ形状のリスクは通常の食品と比べて高いだろうという点については、だいたい我々のコンセンサスがある。特定の成分が濃縮されたり、精製されたりしたものを、飲みやすい形状で継続的に摂取するのだから過剰摂取が起こりやすい。これまでに生じた健康食品による健康被害の大半も、サプリ形状によるものです。その意味では、サプリメントの規制はやむを得ないと思います。行政が2003年から錠剤・カプセルなどのサプリ形状のGMP管理を業界に求めてきたことについて、私は同意します。
(『Wellness Monthly Report』2026年6月号より転載。後編に続く。)
【司会・構成=石川太郎】
【プロフィール】
唐木英明(からき・ひであき):農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て87年に東京大学教授、2003年に名誉教授。「食の信頼向上をめざす会」代表を務める。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。
武田猛(たけだ・たけし):アピ㈱、サニーヘルス㈱を経て2004年、㈱グローバルニュートリショングループ設立。国内企業の新規事業の立ち上げ、新商品開発、マーケティング戦略立案などのコンサルティングや海外市場進出の支援、海外企業の日本市場参入の支援を行う。
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