FDA「ODSP」の役割 【寄稿】「自由市場」を支える規制と執行(Enforcement)の基
【武田猛・グローバルニュートリショングループ代表】
前回述べたNIH ODS(Office of Dietary Supplements:ダイエタリーサプリメント局)が、「科学」「研究」「教育」を担う組織であったとすれば、もう1つの重要な車輪が、FDA(Food and Drug Administration:米国食品医薬品局)内のODSP(Office of Dietary Supplement Programs:ダイエタリーサプリメントプログラム室)である。
ODSが「知識基盤」を担う存在であるのに対し、ODSPは、「規制」「法執行(Enforcement)」「市場監視」を担う組織として機能している。
この二層構造は、DSHEA後の米国モデルを理解する上で極めて重要である。
日本ではしばしば、
「米国のサプリメント市場は自由化されており、行政関与が弱い」
というイメージで語られることがある。
しかし実際には、米国では、科学・教育を担うNIH ODSと並行して、FDA側でも専門部局の強化が継続的に進められてきた。
その象徴が、2015年に行われた組織再編である。
もともとFDAでは、ダイエタリーサプリメント行政は、CFSAN(Center for Food Safety and Applied Nutrition:食品安全・応用栄養センター)の中の一部門(Division)として扱われていた。
しかし、市場規模の急拡大、製品数の爆発的増加、国際サプライチェーンの複雑化、オンライン販売の拡大などを背景に、FDAは2015年12月、ダイエタリーサプリメント行政部門を「Office(局・プログラム室レベル)」へ格上げし、現在のODSPを設立した。
これは単なる名称変更ではない。
市場の巨大化と制度運用の高度化に対応するため、FDAがダイエタリーサプリメント行政を「専門領域」として本格的に位置づけ直したことを意味している。
実際、DSHEA成立当時、米国のサプリメント市場は約4,000製品、約40億ドル規模であったとされる。しかし現在では、市場規模は500億ドルを超え、製品数も数万規模へ拡大したと推定されている。
さらに近年では、AmazonをはじめとするEC(電子商取引)市場が急拡大し、海外製品を含む膨大な商品がオンライン上で流通するようになった。
つまりFDAは、1994年当時には想定されていなかった市場環境への対応を迫られることになったのである。
その中でODSPが担っている役割は、大きく3つに整理できる。
第1は、安全性監視(Safety & Surveillance)である。
FDAは、AERs(Adverse Event Reports:健康被害報告)を通じて、有害事象の収集・分析を行っている。特に、医薬品成分が混入した違法製品、過剰量成分を含む製品、汚染物質を含む製品、虚偽表示製品などに対しては、Warning Letter(警告書)、輸入停止、リコールなどを通じて市場介入を行っている。
さらに重大な違反案件については、FDAは米国司法省(DOJ:Department of Justice)と連携し、製品押収や民事・刑事訴追などの強力な執行措置を講じる権限も有している。
ここで重要なのは、FDAが「サプリメントそのもの」を否定しているわけではないことである。
むしろ、違法製品や悪質事業者を市場から排除することで、「市場全体の信頼」を維持しようとしている。
第2は、NDI(New Dietary Ingredient:新規ダイエタリー成分)制度の運用である。
DSHEAでは、1994年10月15日以前に米国市場で販売実績のなかった成分を「NDI」と位置付けている。
企業が新たなNDIを市場投入する場合、発売75日前までに、安全性データをFDAへ通知(Notification)しなければならない。
ここで重要なのは、「Notification(通知)」であり、「Approval(承認)」ではない点である。
この違いは、日本ではしばしば誤解される。
FDAは医薬品のような事前承認制度を採用しているわけではない。しかし同時に、「完全放任」でもない。
ODSPは、提出されたNDI通知について、安全性根拠の妥当性や不足を精査し、必要に応じて懸念を表明している。
つまり米国は、「事前承認」でも「完全自由化」でもない、中間的な安全性管理モデルを構築してきたのである。
第3は、品質管理(cGMP)と表示適正化である。
FDAは、ダイエタリーサプリメント専用のcGMP(Current Good Manufacturing Practice:現行適正製造規範)を運用している。
これは医薬品GMPとは異なるものの、原料管理、製造工程管理、異物混入防止、規格適合性、ラベル表示、トレーサビリティなどについて、極めて詳細な要求事項を定めている。
さらにFDAは、査察(inspection)やWarning Letterを通じて、これらの遵守状況を継続的に監督している。
ここから見えてくるのは、米国モデルが、単純な「自由市場」ではないということである。
むしろ、
・NIH ODSによる研究・教育・知識基盤
・FDA ODSPによる規制・安全性・執行基盤
を両輪として、市場全体を支えている。
そして近年、FDA ODSPが最も重視しているテーマの一つが、「Modernization(現代化)」である。
FDA自身が繰り返し指摘しているように、現在の市場は、DSHEA制定当時とは大きく異なる。
オンライン販売、グローバル流通、AI活用、新たなバイオテクノロジー素材など、1994年当時には想定されていなかった市場環境が急速に拡大している。
こうした背景の中でFDAは、Mandatory Product Listing(製品リスト登録制度)の導入など、「Modernizing DSHEA」を現在進行形で議論している。
ここで重要なのは、FDAがDSHEAそのものを否定しているわけではない点である。
むしろFDAは、「DSHEAの基本思想」を維持しながら、市場環境変化へどう適応させるかを模索している。
つまり米国は、「30年前に制度を作って終わり」ではない。
市場、技術、流通、消費者行動の変化に合わせて、「制度そのものを動的に更新し続ける」という姿勢を取り続けているのである。
そして、この
・NIH ODSによる科学・教育基盤
・FDA ODSPによる規制・執行基盤
という二層構造こそが、DSHEA後の米国モデルの核心の一つとなっている。
(次回に続く)
【プロフィール】武田猛(たけだ・たけし):アピ㈱、サニーヘルス㈱を経て2004年、㈱グローバルニュートリショングループ設立。国内企業の新規事業の立ち上げ、新商品開発、マーケティング戦略立案などのコンサルティングや海外市場進出の支援、海外企業の日本市場参入の支援を行う。
DSHEA制定から30年【寄稿】武田猛・グローバルニュートリショングループ代表
:第1回 ダイエタリーサプリメント制度の実像 なぜ米国民の健康インフラとして育てられたのか
:第2回 DSHEA制定時の思想 法律の冒頭に刻まれた「国家の意志」
:第3回 NIH「ODS」の役割 「情報に支えられたセルフケア社会」を支える科学基盤

