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「この紅麹」を米FDAならどう評価する NDI新ガイダンスによる安全性評価のシミュレーション(前編)

 米国のFDA(食品医薬品局)が10月19日に公表した、新規ダイエタリー成分(NDI)の届出に求める同一性や、求められる安全性の根拠に関する最終ガイダンス。
 その内容を紹介するとともに、FDAが事業者によるサプリメント原材料の安全性評価をどう支えているのかを考察する㈱グローバルニュートリショングループ代表の武田猛氏による寄稿を10月26日付と同27日付で掲載した。
 今回掲載する同氏の寄稿はその続編である。FDAの新ガイダンスに示された評価方法を日本のサプリメント原材料に適用した場合、どのような検討が可能になるのだろうか──前後編に分けて掲載する。

(編集部)

【はじめに】
 本稿では、2024年に発生した小林製薬の紅麹関連製品による健康被害問題を題材に、問題となったサプリメント用紅麹原料の安全性を、FDAのNDI Final Guidanceに沿って評価するシミュレーションを試みる。健康被害の原因物質や製造工程における汚染の経緯とは別に、市場参入時の原料安全性評価に焦点を当てる。FDAの新ガイダンスによって事件を防止できたかどうかを検証するものではなく、評価の方法と必要な科学的根拠を検討する試みである。

 検討の対象は、健康被害が発生する以前の原料安全性評価である。

 10月10日発刊の『Wellness Monthly Report』100号のインタビューで、この事件について語る機会があった。その際、私が問題提起したのは、「そもそも、この紅麹原料は、どのような科学的根拠に基づいて、食品として安全に使用できると判断されたのか」ということだった。あえて『この紅麹』という言葉を使った。

 紅麹には長い食経験がある。しかし、同じ紅麹という名称であっても、使用菌株、製造方法、成分組成、摂取量などが異なれば、安全性の評価も変える必要があるのではないか。伝統的な紅麹の安全性と、特定の紅麹原料の安全性は、区別して考える必要があるのではないか。

 「この紅麹」は、どのような科学的根拠に基づいて、食品原料として安全に使用できると判断されるべきだったのだろうか──。

 本稿は公開資料に基づく検討であり、小林製薬が保有していた非公開の試験データや社内の安全性評価記録を網羅したものではない。

 確認できない事項については、その限界を明示し、FDAの考え方では何を確認する必要があるのかを説明する。また、米国で当該原料がNDIに該当するか、ダイエタリーサプリメントとして販売できるかという法的判断と、NDI Guidanceに示された科学的な安全性評価方法は区別する。

 また、このシミュレーションの前提についても、あらかじめ説明しておきたい。モナコリンKは医薬品成分であるロバスタチンと化学的に同一であり、米国FDAは、ロバスタチンを添加または増強した紅麹製品について、ダイエタリーサプリメントとして販売できないとの立場を示している。したがって、当該紅麹原料が米国のNDI制度の対象となることを前提とするものではない。
 
 本稿の目的は、米国における法的な市場参入の可否を判断することではなく、FDAが2026年に示したIdentityとSafetyに関する科学的な評価方法を、日本の食品原料に応用することである。そして本稿ではNDI制度の法的な適用可能性をいったん切り離し、FDAの新ガイダンスに沿って「この紅麹」の安全性を評価した場合に、確認できることと判断に必要な情報を検討する。

【1.最初の問い ― 評価すべき「この紅麹」とは何か】
 FDAの新ガイダンスが安全性評価の出発点として重視するのが、Identity(原料の同一性・特性)である。
 安全性を評価するためには、まず評価対象となる原料が何であるのかを明確にしなければならない。原料の名称だけでなく、由来、製造方法、化学的・物理的特性、組成、規格、分析方法などを確認する必要がある。
 この考え方を紅麹に適用すると、評価対象の特定という課題が生じる。
 紅麹は、日本やアジアで長く利用されてきた発酵食品である。しかし、伝統的な食品用紅麹と、特定の成分を高める目的で開発された紅麹原料が、同じIdentityを持つとは限らない。

 2026年10月23日付の『ウェルネスデイリーニュース』は、小林製薬を相手取った訴訟の第1回口頭弁論について報じている。記事によれば、小林製薬側は、食品用紅麹原料とサプリメント用紅麹原料が異なる製品であることを認めている。また、食品用原料「5P-D」とサプリメント用原料との菌株や製法の違いも、当事者間で問題となっている。
 食品用原料とサプリメント用原料が区別されていたことは、FDAのIdentityの考え方からも検討に値する。
 仮に食品用原料とサプリメント用原料が異なる特性を持つのであれば、一方の安全性情報を他方に適用できるかどうかを検討する必要がある。単に両者が「紅麹」と呼ばれているだけでは、同一の安全性根拠を利用できるとは判断できない。
 さらに、特許JP5283363B2には、モナコリンKの生産性を高める目的で、紫外線による変異処理と選抜を経て取得されたMonascus pilosusの菌株「NITE BP-412」が記載されている。

 ただし、公開資料からは、健康被害が問題となったサプリメント用原料に、この菌株が実際に使用されていたかどうかは確認できていない。
 NITE BP-412が当該原料に使用されていたかどうかは確認できないため、本稿では使用菌株と断定しない。安全性評価では、対象原料に実際に使用された菌株を特定し、その情報を既存のEvidenceと照合することが求められる。
 FDAの考え方に従えば、少なくとも使用菌株、培養条件、製造工程、成分組成、規格、ロット間のばらつきなどを確認し、評価対象のIdentityを明確にすることが出発点となる。
この段階で必要な情報が不足していれば、後に検討する食経験や安全性試験を、その原料に適用できるかどうかも判断しにくくなる。

【2.伝統的な紅麹の食経験は、そのまま使えるのか】
 次に検討するのが、History of Safe Use(安全な使用の歴史)である。
 FDAの新ガイダンスでは、食経験に基づいて安全性を説明する場合、長年使用されてきたという事実に加え、使用されてきた原料の特性、摂取量、摂取頻度、摂取期間、対象集団などを検討する考え方が示されている。
 新ガイダンスでは、食経験だけを主要な根拠とする場合、一般に少なくとも25年間にわたる広範な使用が、1つの目安として示されている。ただし、これは一律の法的要件ではなく、使用期間が短くても、他の適切な安全性情報によって評価を補強できる。

 では、伝統的な紅麹の食経験を、当該サプリメント用紅麹原料に適用できるだろうか。それを検討するためには、少なくとも次の比較が必要となる。
・伝統的な紅麹と対象原料で、使用菌株や製造方法はどの程度異なるのか。
・モナコリンKなどの生理活性成分や、その他の代謝産物の組成・含量は同等なのか。
・従来の食品としての摂取量と、サプリメントとして毎日継続摂取する量は比較可能なのか。
・食品としての使用経験は、対象となる摂取集団や摂取期間に適用できるのか。

 原料全体の摂取量とともに、安全性に影響する可能性のある成分の摂取量も比較する必要がある。例えば、伝統的な紅麹とサプリメント用原料のモナコリンK含量が異なるのであれば、同じ重量を摂取しても、その生理学的な意味は異なる可能性がある。
 また、通常の食事の一部として摂取することと、特定成分を含むサプリメントを毎日継続して摂取することも、同じ使用条件とは限らない。
 このような相違がある場合、FDAの考え方では、従来の食経験をそのまま安全性の根拠とするのではなく、相違点が安全性に与える影響を説明し、必要に応じて追加の安全性データを提示することになる。

 現在の公開資料だけでは、これらの比較を十分に行うことはできない。したがって、この段階で「伝統的な紅麹の食経験があるから安全である」とも、「食経験を適用できないから危険である」とも結論づけることは適切ではない。明らかにすべきなのは、伝統的な紅麹の食経験を「この紅麹」に適用するために、どのような科学的な橋渡しが必要なのかということである。

【3.既存の安全性試験は「この紅麹」を評価しているのか】
 食経験だけで安全性を十分に説明できない場合、FDAの新ガイダンスでは、Other Evidence of Safety(その他の安全性に関するEvidence)を用いて安全性を評価する考え方が示されている。ここには、遺伝毒性試験、動物を用いた毒性試験、ヒトでの安全性に関する研究、その他の科学的情報などが含まれる。2026年の新ガイダンスでは、適切な場合に利用できる代替的な評価手法についても言及している。

 安全性試験を評価する際には、試験が存在するという事実に加え、その試験原料と評価対象との対応関係を確認する必要がある。試験結果を対象原料の安全性の説明に利用できるかどうかは、この対応関係を踏まえて検討することになる。例えば、紅麹原料を用いた動物試験が存在していたとしても、その試験原料と当該サプリメント用原料について、菌株、製造工程、成分組成、規格などが異なる場合、試験結果をそのまま適用できるとは限らない。

 FDAの新ガイダンスでは、試験に使用された物質と実際に通知する原料が異なる場合、両者の定性的・定量的な比較を行い、既存の試験結果を利用できる理由を説明する考え方が示されている。このシミュレーションでも、まず確認すべきなのは、どのような安全性試験が実施されていたかという点である。そのうえで、試験原料のIdentityと、実際に販売されたサプリメント用原料のIdentityを比較する必要がある。

 公開情報からは、対象原料に適用できる安全性試験の全体像や、その試験原料との同等性を十分に確認できていない。ただ、公開資料から試験の全体像を確認できないことは、試験自体が存在しなかったことを示すものではない。FDAの考え方に照らせば、安全性試験の有無とともに、その試験結果を「この紅麹」の安全性評価に適用できる理由を説明する必要がある。

【4.摂取量と安全域をどのように評価するのか】
 FDAの新ガイダンスでは、原料の安全性を評価する際、実際の摂取量と毒性学的な情報を結びつけて検討することが重視されている。例えば、動物試験からNOAEL(無毒性量)が得られている場合、適切な不確実係数を用いてヒトにおける許容摂取量を検討したり、想定される摂取量に対する安全域を計算したりすることが考えられる。

 一般的な計算の考え方は、次のとおりである。
 ADI(許容一日摂取量)= NOAEL ÷ 不確実係数
 Margin of Safety(安全域)= NOAEL ÷ 推定一日摂取量

 ただし、これらは計算の基本形であり、実際の評価では、毒性試験の種類、対象となる有害影響、単位の整合性、動物とヒトの違い、試験期間、感受性の高い集団などを考慮する必要がある。また、すべての原料についてADIを設定できるわけではない。

 当該紅麹原料については、原料そのものの摂取量に加えて、モナコリンKなどの成分の摂取量も重要な検討対象となる。モナコリンKは、医薬品成分であるロバスタチンと化学的に同一である。したがって、その含量や摂取量、薬理学的な作用、安全性に関する既存情報を無視して、紅麹原料全体の食経験だけで評価を完結させることは適切ではない。
 欧州では、紅麹由来モナコリン類について安全性上の懸念が示され、2022年には一日摂取量が3 mg以上となる製品が禁止された。これは、3 mg未満であれば安全性が保証されるという意味ではない。

 今回のシミュレーションでは、対象原料の正確な成分含量、想定摂取量、適用可能な毒性試験データなどを十分に確認できていないため、安全域を数値として算出することはできない。
 ただ、数値を算出できない場合にも、不足している情報を明らかにすることで、評価を進めるための課題を整理できる。
 FDAの方法に従えば、どの情報が不足しているために安全域を計算できないのか、また、どのような追加情報が得られれば評価を進められるのかを明確にできるからである。安全性評価では、想定する使用条件において安全性をどこまで科学的に説明できるかを検討し、その判断の根拠と限界を明確にすることが求められる。

【5.Safety Narrativeは、どのように構築されるのか】
 FDAの新ガイダンスでは、安全性に関する情報を整理し、提案する使用条件において合理的に安全であると期待できる理由を説明するSafety Narrativeが重視されている。
 Safety Narrativeでは、食経験や毒性試験の結果を列挙するだけでなく、それぞれのEvidenceが評価対象の安全性をどのように裏づけるかを説明する。

 評価対象のIdentityを明確にしたうえで、既存のEvidenceがその原料に適用できるかを検討し、摂取量、安全域、潜在的な有害影響、不確実性などを総合的に評価する必要がある。

 そこで、「この紅麹」についても、公開情報に基づいてSafety Narrativeの構築を試みる。

 まず、伝統的な紅麹に食経験が存在することは、安全性評価の出発点となる。しかし、対象原料との同等性を確認しなければ、その食経験をどこまで適用できるか判断できない。次に、既存の安全性試験が利用可能であれば、その試験原料と対象原料との関係を確認する必要がある。
 また、モナコリンKなどの生理活性成分について、含量と摂取量を把握し、既存の安全性情報と照合する必要がある。そして、これらの検討を経ても残る不確実性について、追加試験、使用条件の変更、摂取対象者の限定など、どのような対応が必要かを考えることになる。

 現時点で確認できた公開資料だけでは、対象原料について、安全性を合理的に期待できると結論づける十分なSafety Narrativeを完成させることは難しい。
 この段階では、公開情報から当該原料の安全性を否定することも、製造企業が必要な評価を行っていなかったと判断することもできない。今回のシミュレーションが示しているのは、安全性の結論を出すために、何を確認し、どのようなEvidenceを結びつけ、どのような不確実性を解消する必要があるのかという評価の過程である。

(後編につづく)

関連記事:【GNG武田氏寄稿】米DSHEA制定から30年
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