消費者契約法改正、議論継続へ 解約料など中間案に修正意見相次ぐ
消費者庁は8月31日、第8回「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」(座長:山本隆司・東京大学大学院法学研究科教授)を開催した。事務局が示した中間取りまとめ案について約3時間にわたり議論。
消費者の多様な脆弱性に対応する「配慮規定」の実効性や継続的な契約からの離脱、解約料などを巡って修正を求める意見が相次いだ。特に解約料については、現行規定を見直さないとする案に異論が集中。山本座長は事務局に修正を求めた。
配慮規定、実効性巡り意見
中間取りまとめ案は、「消費者の多様な脆弱性への対応」、「消費者契約の各過程に関する必要な規律」、「『解約料』の実態を踏まえた実効的な仕組み」、「横断的な事項」の4つを柱とした。消費者契約法を従来の紛争解決を中心とする民事ルールだけでなく、健全な市場を実現するための市場ルールとして拡充する方向性を打ち出している。
焦点の1つとなったのが、消費者の多様な「脆弱性」に対応するための配慮規定である。
案では、消費者が適切な判断をすることが困難な状態に陥らないようにすることなどについて、事業者に配慮を求める仕組みを導入。具体的な行為を一律に定めるのではなく、プリンシプル(行動規範・行動原則)として法律に位置付け、行政が指針を策定するとともに、官民協議会を組織する方向を示した。
これに対し坪田郁子委員(全国消費生活相談員協会)は、消費生活相談の現場で活用できる制度にするためには、最低限守るべき基準として配慮義務を位置付ける必要があると主張。法令を守らない事業者に対して、プリンシプルだけで実効性を確保できるのかを疑問視。ミニマムスタンダードとしての配慮義務にすべきとした。
平井俊圭委員(全国社会福祉協議会)も大きな方向性には賛成しながら、重大かつ反復的な消費者被害が生じている場合には、消費者庁と所管行政庁が連携し、行政上の措置につなげる仕組みを検討課題として残すよう求めた。
片山銘人委員(日本労働組合総連合)からも、配慮規定違反が疑われる事業者に対する立入検査、指導、勧告、公表などの行政措置を求める意見が出た。
これに対し佐藤沙織委員(味の素)は、消費者の多様な脆弱性への配慮を努力規定として促す方向性に賛同。その上で、健全な事業者が萎縮しないよう、社会通念上期待される範囲の対応を求めるものであり、新たな法的責任や過大なコンプライアンス負担を課す趣旨ではないことを明確にすべきとした。
日弁連、法的義務化を要求
二之宮義人委員(弁護士)は、日本弁護士連合会が8月20日に公表した意見書を紹介した。
同意見書は、消費者契約法の目的に「消費者の脆弱性」への対応を明示するとともに、契約の勧誘から終了までの全過程で事業者が消費者の多様な脆弱性に対応する「配慮義務」を負うことを法律に明記するよう求めている。
日弁連は、事業者の自主的な行動を促すプリンシプルを示す必要性を認めながらも、消費者の脆弱性への配慮は健全な消費者取引市場を実現するために不可欠として、単なる努力義務ではなく法的義務とすべきとの立場を示している。
解約妨害の禁止を検討
継続的な契約関係からの離脱については、サブスクリプションサービスなどを念頭に、消費者が持つ解約権の行使を事業者が不当に妨げる行為を禁止する方向が示された。
対象として、不実告知、断定的判断の提供、退去妨害、不退去、解約申し入れの拒否や不当な遅延などを例示。解約後に本来返還すべき金銭を返還しないなど、解約によって実現されるべき状態を妨げる行為についても禁止する方向とした。
委員からは方向性を支持する意見が出る一方、生命保険などで顧客保護のために解約以外の選択肢を提示する行為まで「解約妨害」とならないよう明確化を求める意見や、適格消費者団体による差止請求との関係を整理すべきとの指摘があった。
契約変更時の個別通知についても、民法の定型約款に関する規定との整合性を求める意見が出たほか、契約更新時の通知について「通知疲れ」と表現することに対し、消費者が必要としている重要な通知まで不要と受け取られかねないとして修正を求める意見があった。
解約料「見直さない」に異論
議論が大きく動いたのが解約料である。
解約料を巡っては、現行法が「平均的な損害の額」を超える部分を無効としているものの、その立証が消費者には難しいことが課題となった。検討会では、事業者側に立証責任を負わせるA案と、解約料の性質に応じて消費者と事業者で立証責任を分けるB案、また山下純司座長代理(学習院大学)が提示した両案の折衷案を検討したが、いずれにも課題があり、委員間で共通認識には至らなかった。
このため、中間取りまとめ案では、消費者契約法9条1項1号「消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効等」について、現行規定そのものの見直しは行わず、解約料の説明に関する規律を拡充するとの方向が示されていた。
これに対し、各委員から異論が相次いだ――。
「座長代理案について、共通認識に至ってないことと、第9条第1項第1号を見直さないことについての共通認識が形成されていることとは別の問題」(平井委員)
「まだ議論は十分尽くされてないと思う。解約料の条項に関する規定について見直しは行わないと結論づけるのは、時期尚早」(片山委員)
複数の委員が、「山下座長代理案の内容を中間取りまとめに記載した上で、『引き続き検討する』旨の記述に修正すべき」とする中、二之宮委員は9条1項1号は民事ルールのため、「トラブルの防止には、事前防止だけではなく、発生したトラブルの速やかな解決も当然含まれている」とし、主張を展開した。
「現行の解約料規定は『平均的な損害の額』が不明確で、消費者と事業者双方にとって分かりにくいとして、より明確な基準を設ける必要がある」と指摘した。その上で、「立証責任を転換しつつ推定規定を設ける山下代理案について、双方に立証責任を実質的に公平に分配するもので、現行規定より分かりやすく、さらに検討する価値があるた。また、具体的な見直し案について委員間の共通認識には至っていないものの、現行の消費者契約法9条1項1号に問題があるとの認識は共有されているとして、見直しを行わないとの結論にも至っておらず、引き続き検討すべき」とした。
これらの意見に対して佐藤委員は解約料について、現行の説明に関する努力義務が前回の消費者契約法改正で設けられた経緯を踏まえ、さらに説明義務を拡充する必要があるのか、その検討経緯を中間取りまとめに記載するよう求めた。また、法目的を巡っては、デジタル化など社会の変化には消費者の脆弱性を顕在化させる側面だけでなく、利便性や選択肢を広げる側面もあるとして、双方をバランスよく記載するよう求めた。
議論を受け山本座長は、現段階で検討対象から落とす必要はないとの考えを示し、山下座長代理から示された案も含め、引き続き検討する趣旨が分かるよう中間取りまとめ案を修正する方向を示した。
中間取りまとめ、再修正へ
このほか、官民協議会に福祉、医療、権利擁護などの専門職や関係機関を位置付けることや、成年後見制度との関係、情報・時間・アテンションを提供する取引への消費者契約法の適用などについても意見が出た。
山本座長は会議の最後に、配慮規定の表現や効果、官民協議会、解約妨害、契約変更、解約料などについて、この日の議論を踏まえて修正するよう事務局に求めた。
事務局は中間取りまとめ案を修正・補充した上で、次回の検討会について委員に連絡するとした。中間取りまとめ後も検討会で議論を続ける方針で、消費者庁はその内容を踏まえ、消費者契約法の見直しを進めるとしている。
【田代 宏】
配布資料はこちら(消費者庁HPより)

