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腸活市場が目指す次世代のウェルネス 科学的根拠とパーソナライズ化の融合

 「腸活」という言葉は、現代人のライフスタイルにおいて不可欠な健康指標となった。かつての便秘解消という悩み解決の枠組みを超え、免疫力維持やメンタルヘルス、美容など、その目的は多様化の一途をたどっている。㈱矢野経済研究所(東京都中野区、水越孝社長)の調査によれば、乳酸菌を主成分とした整腸訴求の健康食品市場は底堅い需要に支えられ、2023年度は267億6,500万円(前年度比0.2%増)、24年度は270億円(同0.9%増)、25年度には274億円(同1.5%増)に達する見込みとしている(26年1月時点)。市場が成熟を迎える中、企業は科学的根拠の追求とデータ活用を通じ、新たな価値創造を図っている。

 「腸活」への関心が高まる中、消費者が求めるベネフィットは具体化・高度化している。矢野経済研究所フード&ライフサイエンスユニットの主席研究員・飯塚智之氏は、「機能性表示食品における免疫訴求市場は、24年度288億円(前年度比9.5%増)、25年度356億6,000万円(同23.8%増)の見込みと大きく拡大している」と指摘する。
 また、同社が25年11月に実施した消費者アンケート調査によると、健康・美容食品の摂取目的として「整腸・便通改善・腸内の健康維持」を挙げた人は、女性の20~30代で20.9%、男性の60代以上で21.1%と高い割合を示した。プロテインを中核に「腸美容」を提案するブランドが好調に推移するなど、健康と美容を統合した付加価値を求める傾向が強まっている。

研究者が警鐘と期待を寄せる「腸活」のあり方

 腸内細菌叢研究の急速な進展により、腸活市場はパラダイムシフトの渦中にある。京都府立医科大学大学院医学研究科教授の内藤裕二氏は、「現在の市場はエビデンスの有無で二極化している。現行の制度下では、多額の費用をかけた臨床データに基づく信頼性の高い製品と、そうでない製品を消費者が判別するのは極めて困難だ」と日本の表示システムが抱える構造的な課題を指摘する。その上で、「今後は代謝物に注目し、個体差に左右されないポストバイオティクス研究を進めることで、より確実なアプローチが可能になる。科学的誠実さを持たない企業は、この市場に参入すべきではない」と警鐘を鳴らす。

 (国研)医薬基盤・健康・栄養研究所副所長の國澤純氏は、「今は『宿主(人)』と『腸内細菌』、そして『食事』を一体で考えなければならないステージにある」と定義する。國澤氏は、「単一の菌で説明するのではなく、菌同士が協力し合う『菌のチーム』という考え方が今後の主流になる。メカニズムを理解し、最新の研究知見をキャッチアップし続ける姿勢が企業の信頼性を高める」と説く。さらに、「トイレットペーパーに検査機能を付けるなど、排便習慣の可視化が日常に溶け込む未来を目指している」と研究の社会実装に向けた展望を語る。

 大妻女子大学家政学部食物学科教授の青江誠一郎氏は、メカニズム解明の重要性を強調する。「『食べた、効いた』という結果論だけでなく、成分が体内でどう作用しているかの証明を避けては、いずれ消費者の信頼を失う。動物実験を避け、メカニズムが不透明なままでは国際競争力を失う」と指摘する。さらに、個人の腸内環境に合わせたパーソナライズ化が進む未来に対し、「サプリメントは補助と捉え、海藻や根菜、発酵食品を取り入れた地に足のついた食生活をベースにすることが、最も確実で健康的な近道だ」と助言する。

排便データの活用が拓く次世代の健康管理
 
 市場において独自のアプローチを展開する事業者の存在も見逃せない。ウンログ㈱(東京都渋谷区、田口敬社長)もその1社。同社が提供するアプリ『ウンログ』は、排便記録をデジタル化することで健康管理の可視化を支援する。累計ダウンロード数は120万件に達し、健康意識の高い経営者やアスリートの利用も増加している。 同社は、蓄積された排便データを活用し、食品メーカーのマーケティング支援、商品開発におけるモニター募集などBtoB事業を展開する。今後は医療機関との連携を強化し、医師による診察動線へ排便データを活用する仕組みの構築を目指す。さらに、生成AIとの連携や排便センサーを活用した自動記録により、パーソナルヘルスケアのさらなる精度向上を図るとしている。

 ㈱KEAN Health(東京都港区、山路恵多社長)は、今後数年で「パーソナライズ腸活」の社会実装が本格化し、自身の腸内環境に適したものを見極めて選択するスタイルが一般化すると予測している。同社は『chatFLORA G』を通じて、詳細な検査技術を生活者が使いやすい情報へと翻訳・還元し、「検査」と「実践」を繋ぐ架け橋となることを目指している。今後は法人向けの専用支援システムの開発なども進め、個人だけでなく企業における健康施策の立案や商品開発まで、科学的で信頼性の高い腸活市場を牽引していく方針。

 AuB㈱(東京都中央区、鈴木啓太社長)は、トップアスリートの腸内細菌データを基盤として10年にわたり研究と社会実装を続けている。同社は腸内環境を「特別な人のためのもの」ではなく、全ての人の「ベストコンディション」を支える土台と定義する。科学的知見を「摂る・育てる・守る」という生活者が日常で実践しやすい形に翻訳し、サプリメントや医療機関向けブランド『aub for medical』を通じて提供している。また、サイキンソー社と提携した検査キット『GUT PARTNER』を通じ、自身の腸内環境を知る機会を提供しつつ、「検査して終わり」ではなく、その後の食事や生活習慣の改善といった行動変容へつなげる重要性を説く。今後は、睡眠や栄養管理などと組み合わせた「総合的なコンディショニング」の土台として腸活を普及させ、誰もが自分のコンディションを自ら整えられる「自走する健康」の実現を目指す方針。

臨床試験が支える「腸活」の科学的根拠

 健康食品市場の拡大に伴い、確かなエビデンスを可視化する臨床試験の重要性も増している。臨床試験受託の専門機関であるCPCC㈱(東京都中央区、大川勝社長)では、腸内環境だけなく脳機能やフレイル、肌の状態などを複合的に評価する試験デザインが増加しているという。同社は、短鎖脂肪酸や水分量、免疫指標であるIgAなど多角的な評価指標を導入。特にフレイル対策として「腸から始まる抗老化」という観点からの研究に注力し、高難度な試験を成功へ導く徹底した環境管理で業界を支援する。

 また、㈱TESホールディングス(東京都台東区、林明男社長)も、食品臨床試験を通じ次世代の健康社会の実現を後押しする。同社では「腸と肌」「腸と認知機能」の相関といった作用機序を組み合わせた試験の依頼が急増しているという。メタボローム解析など高度な解析手法を駆使し、クライアント企業の研究目的に応じた最適な評価を提案。機能性表示食品の届出までを一貫してサポートし、データの信頼性を担保するオペレーション体制の構築で、クライアントの製品開発を強力に支える。

 ㈱アイメックRD(東京都中央区、大澤裕樹社長)も、食品CRO機関として腸活市場を支える一社。同社は、単なる便通改善だけでなく、認知機能や肌など、腸との関連性を踏まえた研究テーマの受託が増加していると話す。素材の特徴や依頼者の意向に合わせ、試験デザインの計画段階から伴走する姿勢を重視しており、機能性表示食品制度の浸透や厳格化する評価基準の中で、科学的根拠の構築をトータルでサポートしている。

 腸活市場は今後、より質の高い科学的根拠とパーソナライズ化が求められるフェーズへと突入する。既存企業も新規参入企業も、一過性のブームに踊らされることなく、製品の背景にあるメカニズムを誠実に解明し、透明性を持って消費者に提示することが持続的なブランド構築への道だと言える。今後も、専門的な知見と技術革新を融合させた、現代社会が必要とするウェルネスの新しい形の提案が求められる。

(藤田 勇一)

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