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サプリ制度再設計の核心問う (後)規制強化か競争力強化か、岐路に立つ日本

 サプリメントの定義を巡る議論において、もう1つ重要な視点がある。それは、カプセルや錠剤という「形態」によってサプリメントを定義する時代はすでに終わりを迎えているという認識だ。

「形」ではなく「成分」で考える時代へ

 アメリカでは、グミサプリやチョコレートタイプのサプリメントが急増しており、日本の検討会でも「グミをどう扱うか」という議論が紛糾した。しかし「この問いの立て方自体が、すでに時代遅れの発想に基づいている」と武田氏。
 重要なのは形態ではなく、どのような成分をどれだけ使用しているかという点というのだ。機能性関与成分を後付けで添加し、一定量以上含む製品であれば、それがグミの形をしていてもサプリメントとして扱うべきであり、逆に機能性成分を含まない安全量の製品であれば、それはお菓子の範疇に留まる。

 この観点から見ると、GMP義務化の議論も本質的な問いに立ち返る必要がある。GMPとは「同じものを正しく作る」ための仕組みであり、その中には当然、原料の受け入れ管理も含まれる。原料メーカーへのGMP義務付けの是非を論じる前に、サプライチェーン全体をどのように管理するかという設計思想こそが問われるべきだ。アメリカのダイエタリーサプリメント規制では、100%の同一性確認試験(受け入れ原料の100%同一性確認試験)が義務付けられており、これはまさにサプライチェーン全体の管理責任を企業に課すものだ。

 武田社長が提唱する「サプリメンティッドフード(Supplemented Food)」という概念は、こうした時代の変化を反映したものだ。かつてニュージーランドで使用されていたこの言葉は、カプセル・錠剤に限定されない、人為的に設計された食品全般を指す。機能性食品と呼ばれるものも含め、健康維持増進を目的として設計された食品を包括的に捉えるこの概念は、現代のサプリメント市場の実態により即したものと言えるだろう。

日本制度の構造的問題「結果主義」の限界

 日本の食品安全行政の根本的な問題として、武田社長が指摘するのは「結果主義」の体質だ。食品衛生法をはじめとする日本の食品関連法規は、「何々してはならない」という禁止規定が中心であり、「何々しなさい」という積極的な安全設計の要求が乏しい。HACCPの導入も、指定成分制度の創設も、何らかの事故や問題が発生した後にその対策として強化されてきた歴史がある。

 これに対してアメリカのFSMAは、予見できる危害を防ぐだけでなく、予見できないリスクまでも想定した安全設計を企業に求める。すなわち、既知または合理的に予見可能な危害を分析し、予防管理することが求められる。企業責任は重くなるが、その分だけ食品全体の安全水準が底上げされる。EUのポジティブリスト制度は、問題が起きてから対処するのではなく、使用可能な成分を事前に限定することで源流から安全を担保する。

 日本が今後サプリメント制度を設計するに当たって、こうした海外の思想的背景を無視して表面的な規制項目だけを輸入しても、「屋上屋を架す」結果にしかならない。保健機能食品制度ひとつを見ても、特定保健用食品(トクホ)は健康増進法、機能性表示食品は食品表示法、栄養機能食品は食事摂取基準と連動するなど、ある種法的バックグラウンドがまちまちな制度が並立している。ここにさらにサプリメントの規制を重ねれば、制度の複雑さは増すばかりで消費者は混乱するだろう。

 また、日本の機能性表示食品制度が「商品単体で機能を完結させる」という設計思想を持つ点も、国際的な潮流とは異なる。アメリカのヘルスクレーム制度では、特定の成分や食品が健康に寄与するという表示は、その商品だけで必要量を満たすことを求めていない。バランスの良い食生活という大前提の中で、その食品の役割を位置付ける発想だ。日本の制度は、ある意味で消費者に対して過剰な「完結性」を求めており、それが制度と消費者の実態との乖離を生んでいる。

業界・行政・消費者、三者の対話なき現状

 制度設計の問題は、行政だけの課題ではない。業界団体と消費者団体の関係性、そして政治との連携という観点からも、日本のサプリメント行政は深刻な課題を抱えている。

 アメリカでDSHEAが成立した背景には、消費者運動の力があった。1990年代初頭、FDAによる規制強化の動きに対し、消費者が「選択の自由」を掲げて大規模な反対運動を展開し、250万通を超える意見が議会に寄せられた。この政治的圧力を背景に、サプリメントは食品に位置付けられつつも独自の制度枠組みを与えられ、規制と自由のバランスの上にDSHEAが成立したという経緯がある。業界が政治に働きかける前に、消費者が声を上げ、それが立法につながったという歴史である。
 日本では業界団体と消費者団体が対立関係に置かれることが多く、共通のビジョンを描く対話の場が極めて乏しい。業界団体が行政に対して要望を出すことはあっても、「どのような制度になれば消費者にどのようなメリットがあるか」という問いに答えるビジョンを持てていないという指摘は、業界の自己点検として重く受け止めるべきだろう。

 非営利組織や業界団体が真に機能するためには、自組織の活動実績ではなく、社会に対してどのような成果をもたらしたかで評価される文化が必要だ。アメリカの業界団体UNPAの幹部が「業界にとっての最大の脅威は無法なプレイヤーと経営者の関心低下だ」と語ったという事実は、日本の業界関係者にとっても他人事ではない。
 米国ダイエタリーサプリメント制度ができてすでに30年。当時は規制と自由を巡る対立の中で制度が形づくられたが、現在の経営者にとってはそれが当たり前となっている。我が国でも機能性表示食品制度が施行されてから早や10年。「もっといい制度にしよう」という当時の熱は薄れ、ビジョンを語る関係者も減っている。

日本発の世界商品を生み出すために

 武田社長が最終的に描くビジョンは、規制の強化や緩和という二項対立を超えたところにある。日本が持つ優れた研究技術と優秀な研究者を活かし、世界で通用する日本発のサプリメント・機能性食品を生み出すこと——それが目指すべき方向だという。
 そのためには、規制緩和ではなく競争力の強化が必要だ。安全性においても有効性においても、海外市場で通用するレベルの製品を作り上げる環境を整えることが、結果として強い商品と産業を育てる。ぬるま湯の中では競争力は育たない。厳しい基準をクリアした製品こそが、グローバル市場での信頼を獲得できる。

 この観点から、武田社長は研究開発者向けのマーケティング講座を2026年6月から開始する。研究の成果を消費者に正しく伝えるための「翻訳」能力を研究者が身につけることで、優れた研究成果が市場で正当に評価される商品へと結実する道筋を作ることが目的だ。研究部門とマーケティング部門の間に存在する「見えない壁」を取り除き、開発の段階からマーケティング的視点を組み込む——この発想の転換こそが、日本のサプリメント産業が次のステージへ進むための鍵となるだろう。

 サプリメント規制の議論は、今まさに重要な岐路に立っている。定義なき規制の矛盾を解消し、消費者の期待に応え、かつ世界で競争できる産業を育てるためには、過去の制度の模倣ではなく、日本独自の食品安全思想を根本から問い直す勇気が求められている。

<武田 猛 氏 プロフィール>
麻布大学環境保健学部卒業、法政大学大学院経営学専攻修士課程修了。
アピ㈱、サニーヘルス㈱を経て2004年1月、㈱グローバルニュートリショングループ設立、現在に至る。国内企業の新規事業の立ち上げ、新商品開発、マーケティング戦略立案などのコンサルティングや海外市場進出の支援、海外企業の日本市場参入の支援を行う。現在まで、国内外合わせて800以上のプロジェクトを実施。
経 歴:1986年 麻布大学 環境保健学部卒業、1986年 アピ株式会社入社、1997年 法政大学大学院 社会科学研究科経営学専攻修士課程修了(MBA)、1998年 サニーヘルス株式会社入社、2004年 (株)グローバルニュートリショングループ設立後、現在に至る。
著 書:「健康食品ビジネス大全」(パブラボ社、2011年10月)、「健康食品ビジネス大事典」(パブラボ社、2015年8月)、共著「ヒットを育てる!食品の機能性マーケティング」(日経BP社、2017年4月10日)
活 動:2014年度、消費者庁委託事業として栄養表示義務化および機能性表示創設に伴う消費者教育に関するワーキンググループ委員。同16~18年度にかけ、農林水産省委補助事業「第6次産業化促進技術対策事業」および「食産業における機能性農産物活用促進事業」の検討委員会委員長を歴任。
2018年 機能性表示食品届出指導員養成講座 講師、2019年~21年 機能性表示食品普及推進協議会 会長、一般社団法人通販エキスパート協会 認定スペシャリスト、機能性表示食品届出アドバイザー養成講座 認定講師。

(了)
【田代 宏】

関連記事:サプリ制度再設計の核心問う(前) 米欧ASEAN比較で見える制度の前提
    :サプリ制度再設計の核心問う (後)規制強化か競争力強化か、岐路に立つ日本

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