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「つぎはぎ」にしないサプリ制度を 【GNG武田代表寄稿】米DSHEAの理念から日本の制度設計を考える

 これまで日本には、サプリメントの法的な定義も、それに基づく制度もなかった。いま、安全性確保の観点から、「サプリメント食品」の名称と定義が生まれ、制度化されようとしている。グローバルニュートリショングループ(GNG)の武田猛代表が、1994年のDSHEA制定にあたって米国議会が示した問題意識を下敷きに、日本のサプリメント制度の在り方を問う。(編集部)

米国議会が30年以上前に指摘した問題

 1994年、米国でDietary Supplement Health and Education Act(DSHEA)が制定された。その法律の冒頭に置かれた議会の認定事項(Congressional Findings)には、現在の日本にとっても示唆に富む一文がある。

 「サプリメントに関する現行の場当たり的で、つぎはぎの規制政策に代わる、合理的な連邦規制の枠組みを確立する必要がある」

 DSHEAのSection 2、第15項(B)に記された言葉である。原文では、当時の規制政策を ad hoc, patchwork regulatory policy と表現している。

 米国では、1938年のFederal Food, Drug, and Cosmetic Act(FD&C Act)を基礎として、1976年のProxmire Amendment、1990年のNutrition Labeling and Education Act(NLEA)、1992年のDietary Supplement Actなどを経て、サプリメントをめぐる規制が形成されてきた。

 こうした歴史の中で、なぜ米国議会は「つぎはぎ」という表現を用いたのだろうか。この問いは、日本で進められているサプリメント規制の見直しを考えるうえでも、一つの出発点になると思う。

日本で進む「サプリメント食品」の定義

 2026年10月、消費者庁の食品衛生基準審議会において、食品衛生法に基づく「サプリメント食品」の定義案が示された。定義案では、通常の食事による栄養摂取や生理機能の調節を補助する目的に加え、成分の濃縮、錠剤・カプセル剤・液剤・粉末剤などの形状、過剰摂取のおそれといった要素が挙げられている。

 この定義は、GMPの遵守を義務付ける対象を明確にするという観点から検討されている。安全性を確保するため、製造管理が必要な食品の範囲を定めようとする考え方は理解できる。

 一方で、この定義を日本のサプリメント制度全体の出発点として捉える場合には、別の検討が必要になるのではないだろうか。

 サプリメントは、生活者が健康の維持や栄養補給などを目的として利用する製品でもある。製造管理上のリスクに着目した定義と、生活者にとっての製品カテゴリーとしての定義は、必ずしも一致するとは限らない。また、食品衛生法に基づいてサプリメントを規制することと、サプリメントに適した制度を構築することは、必ずしも同じではない。

「サプリメント食品」は海外でどう理解されるのか

 今回の定義案について考える中で、もう一つ気になっていることがある。「サプリメント食品」を英語でどのように説明するかという問題である。

 米国には Dietary Supplement、EUには Food Supplement という法的な製品カテゴリーがある。また、ニュージーランドでは Supplemented Food という用語が使われている。しかし、これらは同じ意味ではない。

 例えば、EUのFood Supplementは、通常の食事を補完することを目的とする製品カテゴリーである。一方、ニュージーランドのSupplemented Foodは、成分を添加した一般食品・飲料などを含む、異なる制度上の概念である。

 日本の「サプリメント食品」をFood Supplementと訳した場合、EUと同じカテゴリーであるかのように理解される可能性がある。Supplemented Foodと訳せば、別の意味になってしまう。
英訳が難しいという問題の背景には、今回の日本の定義が、国際的に使われている製品カテゴリーとは異なる観点から設計されているという事情があるように思う。

 もちろん、各国の制度が完全に一致する必要はない。しかし、日本企業が海外市場に展開し、海外企業が日本市場を理解するうえで、制度上のカテゴリーがどのような意味を持つのかを説明できることは望ましい。

 国内の法律に整合するだけでなく、国際的にも理解しやすい制度であるかという視点を持ちたい。

DSHEAは独立した法律なのか

 日本では、米国にはDSHEAというサプリメント法があるのだから、日本にも独立したサプリメント法が必要だという議論が見られる。ただし、DSHEAの法的な構造は、少し丁寧に理解する必要がある。

 DSHEAは1994年にPublic Law 103-417として制定された、独立した名称を持つ連邦法である。一方、サプリメントに関する主要な規定は、既存のFD&C Actを改正することによって整備された。つまり、DSHEAは既存の食品・医薬品法制から完全に切り離された、独立のサプリメント法典を創設したわけではない。

 この点は、日本の制度改革を考えるうえでも興味深い。独立した名称の法律を制定することと、既存法から独立した規制体系を設けることは異なる。また、既存法を改正する方法であっても、サプリメントに特化した制度体系を構築することは可能である。

 米国議会が求めたのは、単に新しい法律の名称を設けることではなく、それまでの規制政策に代わる合理的な枠組みを確立することだったと読むことができる。日本においても、独立法を制定するかどうかという形式論だけでは、制度設計の本質を捉えきれないのではないだろうか。

安全性規制の先にあるもの

 サプリメントの安全性を確保することは、制度に求められる基本的な役割の一つである。原材料の安全性評価、適切な製造管理、健康被害への対応などは、今後も強化していく必要があるだろう。しかし、サプリメント制度に求められる役割は、それだけではないと考えている。

 生活者は、健康の維持や改善を期待してサプリメントを利用する。その期待に対して、企業がどのような科学的根拠を示し、どのような情報を提供し、生活者がどのように判断できる環境を整えるのか。また、科学的な研究成果を適切に商品開発につなげ、責任ある企業の取り組みが評価される市場をどのようにつくるのか。

 こうした課題は、製造工程の安全性を確保するための規制だけでは十分に扱えない。

 現在の日本では、食品衛生法、食品表示法、健康増進法など、複数の法律が健康食品に関係している。複数の法律が存在すること自体が問題なのではない。それぞれの制度が、どのような目的と考え方に基づいて設計され、相互にどのように結び付いているのかを考える必要がある。

 安全性、品質、表示、科学的根拠、市場参入、市販後の監視などを、生活者と事業者の双方にとって理解しやすい体系として整理できないだろうか。

日本は何を目指すのか

 今回の「サプリメント食品」の定義案は、食品衛生法に基づく安全性規制を進めるための一つの対応として理解できる。

 ただし、それをもって日本のサプリメント制度の全体像が完成するわけではない。今後、個別の課題に対応するための規制を追加していくことが、結果として新たな「つぎはぎ」を生む可能性についても考えておきたい。

 1994年の米国議会が示した問題意識は、30年以上を経た日本に対して、改めて問いを投げかけているように感じる。

 私が目指したいのは、安全性の確保を前提としながら、生活者が適切な情報に基づいて商品を選択でき、科学的根拠を重視する企業が正当に評価され、国際的にも理解される制度である。そのためには、行政だけでなく、業界、研究者、医療・栄養の専門家、そして生活者の視点を取り入れた議論が必要になるだろう。

 問われるべきは、サプリメント法を制定するか否かではなく、サプリメントにふさわしい一貫した制度体系を構築できるかどうかではないだろうか。

【後記】米国で触れたDSHEAの原点

 2026年10月、米国ラスベガスで開催されたSupplySide Globalに参加し、長年交流を続けてきたUNPA(United Natural Products Alliance)会長のLoren Israelsen氏と個別に意見を交わす機会を得た。Loren氏は、1994年のDSHEA制定に深く関わった人物であり、米国のサプリメント産業と制度の発展を長年支えてきた。

 今回の出張では、UNPA最後のメンバーミーティングにも出席した。会場では、DSHEA制定の歴史を振り返るドキュメンタリー『The Battle for Health Freedom』が上映された。消費者が自らの健康について選択する自由を守るため、業界関係者や市民が力を合わせた歴史が描かれていた。そして会の最後には、参加者全員が立ち上がって拍手を送り、Loren氏も涙を拭っていた。その光景は、私にとって忘れられないものとなった。

 今回の論考で取り上げたDSHEA制定時の15項目のFindingsには、国民の健康、消費者の選択、科学的知見、合理的な規制体系の必要性などが示されている。その背景にあった人々の思いに触れ、「自由を勝ち取った米国」と「自由を与えられた日本」という対比が、私の頭に浮かんだ。もちろん、両国の歴史を単純に比較することはできない。しかし、共通の利益があるから協力するのか。それとも、共通の信念があるから協力するのか。今回の経験は、業界が1つになることの意味を改めて考える機会となった。

 日本では現在、紅麹問題を契機として、サプリメントの定義やGMP義務化に向けた制度整備が進められている。安全性と品質の確保は欠かせない。一方で、日本には1991年のトクホ制度以来、食品の健康機能を科学的に評価してきた独自の歴史と蓄積がある。海外の経験から学びながら、私たちはサプリメントを通じて何を実現したいのか。その共通の理念を考え、日本の実情に即した制度の将来像を描いていくことが、今求められているように思う。

【プロフィール】武田猛(たけだ・たけし):アピ㈱、サニーヘルス㈱を経て2004年、㈱グローバルニュートリショングループ設立。国内企業の新規事業の立ち上げ、新商品開発、マーケティング戦略立案などのコンサルティングや海外市場進出の支援、海外企業の日本市場参入の支援を行う。

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関連記事:【GNG武田氏寄稿】米DSHEA制定から30年
:第1回 ダイエタリーサプリメント制度の実像 なぜ米国民の健康インフラとして育てられたのか
:第2回 DSHEA制定時の思想 法律の冒頭に刻まれた「国家の意志」
:第3回 NIH「ODS」の役割 「情報に支えられたセルフケア社会」を支える科学基盤
:第4回 FDA「ODSP」の役割 「自由市場」を支える規制と執行(Enforcement)の基
:第5回 米国モデルの本質 「自由か規制か」を超えた動的な信頼インフラ
:最終回 日本への示唆 「規制」だけではなく、「知識基盤」をどう構築するか

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