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20年後の日本、認知症患者減少か 
一方で介護費増加が示唆 背景に格差の広がり 

 20年後の日本の認知症患者数は現在よりも減ることが予測されるとする研究結果を東京大学の研究グループがまとめ、27日までに発表した。

 個人レベルでの状態変化を将来予測するミクロシミュレーションの手法を用い、60歳以上の認知症とフレイル(虚弱)の有病率および医療介護費の将来推計を、近年の高齢者疫学データをもとに検証した。その結果、2043年の日本の認知症患者数は、人口の高齢化が進むにもかかわらず、2016年時点から約50万人減の465万人に減少すると予測されたという。

社会的弱者、高まるフレイル合併の割合

 一方で、介護費についてはむしろ増加することが示唆された。性別や学歴といった社会的格差が広がり、その影響を受ける層ではフレイルを合併する割合が高まると予測されたためで、より濃密なケアが必要になるため介護費の総額は逆に増加する可能性があるという。

 研究の結果、大卒以上では認知症患者数の減少は著しい一方で、大卒未満の男性や、学歴とは関係なく女性はむしろ増加すると予測された。

 研究グループは、今回の研究結果について、認知症対策には治療や予防など医学的技術開発に加え、「社会格差対策が必要であることを示唆している」と指摘。その上で、「将来の日本社会の維持可能性を高めるには、健康・機能状態の男女格差や学歴格差を縮小するための社会政策も重要な役割を果たしうることについて、科学的根拠を提示するもの」だとしている。

 国内の認知症患者数の推移に関する国の推計では、2040年には1,000万人近くまで増えると予測している。しかし、そうした従来の予測は、戦後生まれ世代の高齢者の健康状態や学歴が向上していること、高齢者の間で年齢・性・学齢による疾患罹患状況の個人差が拡大していることについて、「考慮されていなかった」と研究グループは指摘。そのため今回の研究では、健康状態などの向上や個人差の広がりを考慮に入れた将来推計を行った。

東大の研究グループが論文発表

 この研究を行ったのは、東京大学大学院医学系研究科の笠島めぐみ特任研究員と橋本英樹教授らの研究グループ。同大の生産技術研究所や高齢社会総合研究機構などの他、米スタンフォード大学と共同研究を実施し研究結果を論文にまとめた。論文は、公衆衛生関連の英国科学誌『The Lancet Pubic Health』のオンライン版に26日付で掲載された。

 研究グループは、今回の研究を実施するにあたり、年齢・学歴・併存症別に認知症およびフレイルの有病確立を併せて推計するシステムを用意。スタンフォード大学が開発したミクロシミュレーション「Future Elderly Model」をベースとする有病状態予測モデルを開発した上で、超大規模計算機環境を利用して4,500万人以上の60歳高齢者の健康状態をバーチャルで再現させ、半年ごとの有病状態の変化確立を計算しながら2043年までの変化を追跡するなどした。

 学歴や健康状態の向上に伴い年齢別の有病率が減少することは、これまでの欧米の疫学調査などで明らかにされていた。一方、認知症については。長寿化の影響で患者数そのものは増加するというのが「世界的な通念」だったと研究グループは言う。

 しかし今回の研究で導き出された日本の将来予測は、患者数の「減少」。この理由について研究グループでは、「人口縮小に加えて、日本の高齢者の健康状態や学歴の向上が国際的に比較して際立っていることなどの影響が表れた」と推察している。

【石川太郎】

(冒頭の画像:『The Lancet Pubic Health』に掲載された論文)

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