SNS勧誘、特商法で厳格規制に向け議論 ダークパターン排除と健全な市場構築へ
デジタル取引の利便性が飛躍的に高まる一方で、その裏に隠れた影の部分が深刻さを増している。SNSでの執拗な勧誘や、巧妙に設計された「ダークパターン」による不当な誘導など、従来の特定商取引法では対応しきれない事態が続発している。これを受け、消費者庁では現在、「デジタル取引・特定商取引法等検討会」が急ピッチで議論を進めている。
所管する消費者庁取引対策課の遠藤幹夫課長への取材、そして第4回まで実施された検討会から見えてきたのは、悪質な事業者を市場から徹底的に排除し、健全な事業者の未来を守ろうとする覚悟。
「法の網の目を巧妙にすり抜ける、より複雑な手口が次々と現れている」と遠藤課長。現在の状況に強い危機感を持つ。特に深刻なのが、SNSやチャットを通じた勧誘。これまでの通信販売は、消費者がカタログやテレビを見て自発的に申し込む「プル型」を想定していた。しかし、今の主流はダイレクトメッセージ(DM)等で直接消費者に勧誘する「プッシュ型」が主流となりつつある。
検討会の議論では、SNSチャットによる勧誘が、その密室性と執拗さから、従来の「電話勧誘販売」や「訪問販売」に近い「不意打ち性」を持つと指摘されている。実際に、SNSのチャット勧誘で購入した人の約3分の2が「実は不要だった」と感じているというデータも示された。これに対し事務局は、SNSチャットに関しても、販売目的の明示義務やクーリング・オフの適用といった、電話勧誘販売と同等の厳しい規制を導入する案を提示している。
「ダークパターン」という名の見えない手
次に議論の焦点となっているのが、消費者の意思決定を不当に操作するユーザーインターフェース(UI)、いわゆる「ダークパターン」。「例えばカウントダウンタイマーなどは、システムのバックエンドを調査すればその真実性を客観的に判断できる」と遠藤課長は断言する。虚偽の緊急性をあおり、冷静な判断を奪う手法は、もはや「不当な広告勧誘」の域に達しているという。
検討会では、OECDの分類に基づき、「インターフェース干渉」「社会的証明」「緊急性」「執拗な繰り返し」といった類型を具体的に規制する方向で検討が進んでいる。特に、日本では定期購入トラブルがダークパターンの温床となっており、初回無料を強調しながら2回目以降の高額支払いや厳しい解約条件を隠す手口が後を絶たない。これを是正するため、最終確認画面の表示義務のさらなる厳格化や、システムの真実性を突く「デジタル技術を駆使した法執行」の可能性も示唆されている。
業界全体に求められる「透明性」のアップデート
議論は、契約成立後のアフターフォローにまで及んでいる。第4回検討会では、契約内容を記載したメールやPDFの交付を義務付ける提案がなされた。いわゆる「言った・言わない」のトラブルを防ぐためだ。これには、証拠保全の観点から賛成意見が相次ぐ一方で、事業者側からは「全ての契約内容をメール本文に書くのは現実的ではない」といった運用上の課題も噴出している。
また、不合理な「返品特約」の乱用にもメスが入る見通しだ。「いかなる理由でも返品不可」といった特約を盾に、事業者側の非を認めない悪質な事例を是正処分の対象とすることが検討されている。
事業者側からは、「真っ当な商売ができなくなるのではないか」、「一部の悪質な事業者のために、多くの健全な事業者の負担が増え続けている」という声も上がっている。しかし、遠藤課長は「規制の基本方針は、大多数の健全な事業者に過度な事務負担をかけることではない。あくまで、意図的に消費者を欺こうとする悪質な事業者とその不透明な取引に焦点を当てることにある」と強調する。
悪質な事業者を市場から退場させることは、結果として誠実にビジネスを行う事業者の利益を守ることにつながる。これを「締め付け」と捉えるのではなく、自社のサービスが消費者の自律的な選択を阻害していないか、真の意味で「選ばれるビジネス」になっているかを問い直す好機とすべき、という前向きに捉える業界関係者の声も聞かれる。
「第5回デジタル取引・特定商取引法等検討会」は、来週5月18日、午後2時から開催される。会議の様子は、消費者庁のウェブサイトにある「傍聴登録フォーム」から申し込むことで、当日、ライブ配信で傍聴することができる。
【藤田勇一】
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