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通販王国「九州」の消長 【九州・沖縄】「単品リピート通販」からの脱皮 新たな復権目指す

 全国の1割経済とされる九州地区は、健康食品・化粧品通販において、かつて売上高が100億円を超える企業が目白押しだった。通信販売王国などと呼ばれ、福岡県を中心に各社が覇を競っていた。ところがその後、幾たびかの消長を経て、トップランナーが入れ替わった。新たな企業が台頭する中、九州エリアの市場形成も様変わりしてきたといえる。

単品リピート通販の元祖

 記者が九州を拠点として取材活動を開始した2000年初頭、売上高トップを誇っていたのは㈱やずや(福岡市南区)である。『熟成やずやの香醋』のヒットで05年には売上高が340億円、翌年は400億円を突破する。「まずい! もう一杯」のテレビCMでケール原料『青汁』が大ヒットしたキューサイ㈱(福岡市中央区)は当時、青汁だけで135億円、全体で367億円を売り上げていた。『伝統にんにく卵黄』の健康家族、『皇潤』のエバーライフも同時期に100億円を超えている。ほかにも、「自信があるから電話しません!」のキャッチフレーズで売り出した㈱アスカコーポレーション、『ドモホルンリンクル』の㈱再春館製薬所(熊本県上益城郡)、『緑効青汁』のアサヒ緑健(福岡市博多区)、モップの販売から始まった㈱メディア・プライス(福岡市、現・はぴねすくらぶ)などはすでに100億円企業の常連に名を連ねていた。一方、『えがおの黒酢』を売り出し、一時300億円にまで達した㈱えがお(熊本市東区)は、㈱ロフティという社名で当時は30億円前後。今は飛ぶ鳥を落とす勢いの㈱新日本製薬(福岡市中央区)も60億円ほどの売上に過ぎなかった。
 当時の100億円企業はいずれも、抜きんでた看板商品で売上をけん引する単品リピート通販を展開。いわば、単品通販成功ストーリーのシンボリックな存在として、後を追う新興勢力の良き手本とされていた。「あれぐらいなら俺だってできる!」九州ではそう豪語して独立する起業家が後を絶たなかった。こうして、単品通販なら九州、九州は通販の元祖、通販は単品リピート通販という図式が定着した。

対面で培った独自手法

 九州エリアの通販企業が急成長を果たしたのは、通信販売という業態に特化したからである。九州では石鹸のヴァーナルが全国に先駆けて30分のテレビCMを通信販売に導入するなど、独創的な商法が実験されていた。通販に特化した九州各社は常に東京の商圏を視野に入れ、訪問販売で培った対面型コールセンターで独自のオペレーションを展開した。さらに単品通販という独自の手法を組み合わせることで、短期間に急成長を果たすことができた。総合通販から単品通販へという時代の流れに乗ったのが九州通販急成長の追い風となった。一方、単品通販の落とし穴も存在する。やずやは06年7月、『熟成やずやの香醋』の広告表現が不適切だとし、公正取引委員会から排除命令を受けた。同品の売上高は総売上高420億円のうち240億円にも上っていた。似たようなケースは他企業でも起きており、その都度、トップランナーが入れ替わった。


 九州では古くから、大衆を前にして行われる実演販売が盛んだった。宣伝講習販売の伝統も根強く残されていた。通販はカタログ・チラシ・DMを中心に、訪販はテレマーケティングやネットワークビジネスを駆使して展開した。九州の有力企業はその双方をバランスよく取り込み、さらに「アウトバンド」と呼ばれる購入後の顧客フォローをきめ細かく実践した。具体的には、購入回数によって顧客をランク分けし、商品購入の際のサービスに差を付けるというシステム。サービス内容には、メールによる情報発信、健康相談に関するテレフォンアポイントメントなど多彩だった。
 11年になると、えがお(旧ロフティ)260億円、エバーライフ190億円、新日本製薬180億円、悠香150億円と新興勢が成長し、九州通販の全盛期を目前にする。全盛期、九州の通販企業の総売上は概算で3,000億円を超えていたと推定される。その頃、全国の市場規模が4兆円だった(12年度5兆円)。それに比べて現在、通販の市場規模が10兆円を超えるまでに成長したにもかかわらず、九州地区の通販企業の売上は推定2,000億円そこそこにとどまっている。原因は何か?

行き詰まる単品リピート通販

 2000年代初頭にすでに、健康食品市場にはかげりが見えていた。「がんに効く」などと標ぼうして販売されていたキノコ素材をターゲットにした取り締まり。人気の健康番組でねつ造報道が問題となり、番組が打ち切られた。健康食品による健康被害を受けて健康食品の安全性に関する国民的な議論が高まり、広告規制が強められることになる。さらに10年には、大手企業が販売するトクホの安全性が指摘され、同品は販売中止に追い込まれることになる。度重なる不祥事が続いた業界はそれ以降、長い低迷期に入ることになる。


 通販市場ではリーマンショック、東日本大震災を経て、大手はもちろん異業種からの参入も増えたことで、これまで先導してきた有力企業が苦戦を強いられることとなった。販売の基本とされていた「単品リピート通販」が、類似商品の氾濫に伴う低価格化の影響で行き詰まりを見せる。

さらにここ数年、大手食品・製薬メーカーをはじめ、新規参入企業の増加による競争の激化、法規制強化などで踊り場的状況にあり、最近ではいわゆる「送りつけ商法」、「お試し購入」の多発にともない、通販そのものの風評被害による失速が続いた。そうした状況からか、九州の通販企業各社にも業績に明暗が出始めたようだ。
 今後、景品表示法、特定商取引法などの販売規制に関わる法律が強化されることで、一層、ヒット商材が出にくい環境が訪れることだろう。九州の地場通販は過去において、表示規制のあいまいさにかえって助けられてきた。グレーゾーンで一気に駆け抜ける短距離走で小刻みに売上を稼いできた。かつて大手通販の代表者が言い放った言葉「50億まではブラック、100億まではグレーで、100億超えたら社会貢献」を今も引き継いでいる企業がいるとは思えないが、今後は一層、商品の中身と消費者に寄り添った売り方が問われてくる。

九州市場の実態

 100億企業の常連だった健康家族は80億円前後、400億円まで上り詰めたやずやが200億円を割り込むなど、2000年初頭にトップランナーを務めた企業の多くが今は低迷している。現在、トップランナーとして九州をけん引するのは、オールインワン・スキンケア商品を中心に昨年340億円を売り上げた新日本製薬である。九州通販では唯一の東証一部上場企業として注目されている。大半の企業が売上を落とす中、新たに台頭してきた企業もある。㈱ハーブ健康本舗(福岡市中央区)は福岡で最も元気な企業の1社だろう。過去2度にわたる措置命令を受けながらもその都度、軌道修正を行いながら、今では100億円を超えるまでに成長した。サジー商品を扱う㈱フィネス(福岡市博多区)からも目が離せない。


 九州では売れない商品に見切りをつけ、他の商品にシフトする企業が増えている。特に食品系、ペット系に引き合いが多い。「健康食品がある程度落ち着き、化粧品にシフト。次は食品や雑品に移行している」(企画会社)という。例えば、JAS認定のインスタント味噌汁やラーメン、チャコールコーヒー、お茶など。エチケット商材を中心に売上を拡大してきたグリーンハウス㈱(福岡市中央区)は産直事業に注力している。
 これは販売手法の変化にも表れている。単品通販を主流としてきた九州通販だが、最近ではネットショップから参入する企業も増えている。ECサイトの拡大によって急成長している通販市場の全国的な波が九州にも押し寄せている。確実なLTV(継続率)を確保するために必要な準備(先行投資)を整えるより、すでにあるモールを利用する手軽さも手伝っているようだ。


 規制が強まる中、売りづらくなった健康食品をいかに売るか。唯一残されているのが一定の効能を表示できる機能性表示食品である。機能性表示食品制度発足当初は、どちらかというと制度に対して後ろ向きだった九州企業だが、今ではほとんどの企業が機能性表示食品を届け出ているというのが実情。その裏には、㈱久留米リサーチ・パーク(福岡県久留米市)のような支援機関の地道な活動があるようだ。本州の大手受託企業も食指を伸ばしている。したたかな「いぶし銀」企業が集積する九州地区。単品リピート通販から脱皮した新たな通販企業の復権に期待したい。

【田代 宏】

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