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睡眠と排尿、2つの機能性表示なぜ? ヤナギラン由来エノテインBの届出資料を読み解く

 2026年4月14日付の機能性表示食品の届出情報検索データベース更新。消費者庁が新たに届出番号を付与・公開した9件の届出の中に、これまでに届出実績のない新規の機能性関与成分があった。ヤナギラン由来エノテインBである。

 同成分について届け出られた機能性表示は、「睡眠の質の低下が気になる方の夜中の中途覚醒時間を減らす機能があると報告されています」

 いわゆる「睡眠の質ケア」に分類できる機能性表示であり、この点に新しさはない。同様の機能性表示の届出は、これ以前から複数の機能性関与成分について行われていた。

 一方で、翌月22日のデータベース更新で公開された同成分として第2弾の届出によって、この新規の機能性関与成分の新規性が大きく高まることになった。届け出られた機能性表示の内容が次のとおりであったためだ。

 「トイレが近いと感じている方の、トイレにいくことによる日常生活におけるわずらわしさをやわらげる機能があると報告されています」

 いわゆる「排尿ケア」。それ自体は、ほかの複数の機能性関与成分でも届出実績がある。だが、「睡眠の質の低下が気になる方の夜中の中途覚醒時間を減らす」という最初の届出の機能性表示とセットで捉えたとき、いずれの機能性表示文言でもうたわれていない言葉を想起できるはずだ──「夜間頻尿」である。

日本では「非医」、欧州では薬用ハーブ

 ヤナギラン由来エノテインBとは、日本語では「柳蘭」と記述されたり、欧米では「ファイアウィード(fireweed)」などと呼ばれたりするアカバナ科の多年草植物、ヤナギランに含まれるポリフェノールの一種。具体的には、強い抗酸化機能を持つとされるエラグタンニンの一種である。特定のヤナギラン抽出物に含まれるものとして届け出られた。

 日本におけるヤナギランの食薬区分例示リスト上のステータスは現在、「非医」(医薬品的効能効果を標ぼうしない限り医薬品と判断しない成分本質)。学名は「Epilobium angustifolium L.」、部位は「葉」と説明されている。

 他方、欧州では、ヤナギランの葉など地上部が、いわゆる薬用ハーブと位置付けられている。欧州医薬品庁は2015年、その伝統的な使用を認めた。医薬品と比べて薬効がマイルドな伝統的なハーブ医薬品として位置付けたもので、その主な用途は、前立腺肥大症に伴う下部尿路症状の緩和など、いわゆる排尿トラブルである。伝統的ハーブ薬としてだけでなく、欧州の一部の国ではサプリメント(フードサプリメント)の原材料としても利用されているとされる。

 「ノコギリヤシ(果実エキス)に近いですよね。欧州での実績もある。とても面白い素材だと思いました」。ヤナギラン由来エノテインBを届け出るとともに、同成分を含む特定のヤナギラン抽出物を独自素材として新たに取り扱うことになった健康食品受託開発・製造の㈱東洋新薬(本部:佐賀県鳥栖市)の研究開発部統括マネージャーが話す。

SRの土台に残った「夜間頻尿」

 当該ヤナギラン抽出物に欧州等での流通実績はあったものの、同社は安全性評価をあらためて国内で実施。復帰突然変異試験、小核試験、急性毒性試験、亜急性毒性試験(28日反復経口投与毒性試験)を行い、陰性、または毒性は認められないことを確認した後、ヒトを対象にした長期・過剰摂取試験を実施。そして、機能性を検証するための臨床試験を行った。

 本稿の冒頭に引いた2つの機能性表示の科学的根拠として同社が届け出たシステマティックレビュー(SR)では、それぞれ異なる文献(論文)が採択されている。

 「夜中の中途覚醒時間を減らす機能」のSRのPICOS(P=対象者、I=介入、C=比較対象、O=評価項目、S=試験デザイン)を見ると、Pは健常成人、Iはヤナギラン由来エノテインBの摂取、Cはプラセボの摂取、Oは中途覚醒時間を減らす機能を有するか、SはRCT(ランダム化比較試験)とされている。

 一方で、採択した論文のタイトルは、「ヤナギラン抽出物含有食品が夜間頻尿に関するQOLへ及ぼす影響─ランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験─」とされているとともに、その評価項目(O)は、夜間頻尿に関するQOL及び中途覚醒時間を改善する機能を有するか?──この試験の資金拠出者は同社であり、この論文タイトル等からは、もともと同社はこの臨床試験を通じて、エノテインBを含むヤナギラン抽出物の摂取が夜間の中途覚醒時間に及ぼす影響を検証するだけでなく、夜間頻尿改善機能も評価する目的であったことがうかがえる。

 そのことは、作用機序(メカニズム)に関する説明資料からもうかがえる。当該箇所を引用する。

 「エノテインBを含有するヤナギラン抽出物はヒトにおいて夜間に感じる尿意の頻度への有効性を示す報告がある。例えば病者を対象とした試験において、エノテインBを含有するヤナギラン抽出物の摂取により、夜間の排尿に行く回数が減少したことが報告されている。さらに、日本人健常成人男女を対象とした試験において、エノテインBを含有するヤナギラン抽出物の摂取により『夜トイレに行きたくて目が覚める不快感』が減少し夜間の排尿に関するQOLが改善したこと、並びに同一被験者集団にて中途覚醒時間が減少したことが報告されている」

 ここで言及されている「日本人健常成人男女を対象とした試験」とは、前掲SRの採択文献におけるRCTのことだ。その上で、作用機序説明資料はこう締め括られている。

 「ヤナギラン由来エノテインBは生体内の酸化ストレスからの保護を介して、夜間に感じる尿意の頻度を減らすことにより、夜中の中途覚醒時間を減らすと考えられる」

「チャレンジは、しました」

 なぜ、「睡眠の質の低下が気になる方の夜中の中途覚醒時間を減らす」の機能性表示に、「夜間に感じる尿意の頻度を減らす」という作用メカニズム文言がないのだろうか。作用機序としてではなく、ヤナギラン由来エノテインBに報告された機能としてその旨を盛り込むことも出来たのではないか──同統括マネージャーは取材にこう答えた。

 「チャレンジは、しました」

 医薬品医療機器等法の壁を越えるような「新規」は生まれ得ない。時代や社会の変化に合わせて医薬品該当性の判断基準が多少変わる可能性はあるにせよ、「ダメなものはダメ」の制度運用は今後も変わらないに違いない。それでも、「頭皮環境を整えるのに役立つ」という機能性表示に届出番号が付与される現実もある。科学的根拠に基づく「チャレンジ」は決して無駄ではないのだ。

(つづく)

【石川太郎】

機能性表示食品、「新規」はどう生まれるか 過去記事
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