動体視力の維持、QOLの維持に翻訳 eスポーツから広げた発想、もともと日本にあった知見活かす
機能性表示食品の受託開発・製造を手がける㈱東洋新薬(本部:佐賀県鳥栖市)が過去に届出実績のない「新規」を連発している。
同社製の大麦若葉末に由来する食物繊維として初の「免疫ケア」表示を筆頭に、「動体視力の維持」、「スムーズな血液の流れの維持」、「頭皮環境を整える」といった、既存の機能性関与成分による新規の機能性表示。さらに、N-アセチルマンノサミン、ヤナギラン由来エノテインBといった新規の機能性関与成分もある。いずれも2026年1月から6月までに届出番号が付与・公開された。これらの「新規」はどう生まれたのか──同社の研究開発部に取材した。
健康維持・増進にどう結びつけたか
「加齢とともに低下する中高年の方の動体視力(遠方から近づいてくるものをはっきり見る力)の維持に役立つ機能が報告されています」
消費者庁が2026年2月下旬に情報公開した届出に記載された機能性表示の一部だ。動体視力に対する機能性を訴求する届出が公開されたことはこれまでなかった。
実はこの届出、新規の機能性表示を行うにしては思いのほか早く届出番号が付与された。届出公開までの差し戻しは「1回」だったという。届出者である東洋新薬の研究開発部統括マネージャーが話す。「(届出番号の付与・公開は)秋頃だろうと計画を組んでいたのですが……驚きました」
研究開発に着手したのは約4年前だったという。動体視力に着目したきっかけは何だったのか。そもそも、動体視力の維持を訴求する機能性表示が行えると考えた理由は何か。
まず、研究開発のきっかけは、動体視力を含む視覚機能が問われるeスポーツに着目したことだった。「世界的には大きな市場がある。(健康食品にも)チャンスがあるのではないかと考えました」(同)。
とはいえ、eスポーツプレイヤーを主な摂取対象者とするような機能性表示食品の届出は、当時も、今も、現実的ではないに違いない。同社としても、「(eスポーツプレイヤーはもとより)若い人のゲーム能力のようなところを攻めるのも難しい」(同)と考えていた。
それでも、研究開発を前進させたのは、動体視力を維持することと健康維持・増進の連関を、見いだすことが出来たからだったという。「動体視力の低下は、実は自動車の運転に影響したり、高齢者の転倒リスクにつながったりすることが知られています」(同)。
このあたりのことを同社は、届出資料のうち「表示しようとする機能性の科学的根拠に関する補足説明資料」の「表示しようとする機能性が健康維持及び増進に資すると判断した理由」で詳しく説明している。少し長いが引用する。
「動体視力の中でも直線的に前方より近接する物体を明視できる能力は KVA(Kinetic Visual Acuity)と称されている。動体視力(KVA)は車の運転やその他の日常生活活動時における質の高い視覚機能と関連があると考えられており、視覚機能の低下は日常生活動作、姿勢制御、転倒リスク、幸福度など、生活の質(QOL)に影響することが知られている。
近年では、高齢者の運転免許更新時の講習において、運転適性検査に動体視力(KVA)の測定が含まれるなど、動体視力(KVA)を維持することの重要性が認識されている(以下略)」
以上のとおり、動体視力を維持することは健康の維持増進につながると考えられる──同社は届出資料でそう説明しつつ、動体視力の維持に役立つ機能性関与成分として、緑茶に含まれることでお馴染みのポリフェノールの一種、エピガロカテキンガレート(EGCG)を届け出た。
緑茶のポリフェノールに辿りついた理由
なぜ、EGCGだったのか。
動体視力の維持を訴求する機能性表示食品の届出はあり得る。健康維持・増進との関連性を説明できるのだから決して無謀ではない。「確信も自信もあったわけではないのですが」(同)、同社はそのように見立て、動体視力に対する機能性を示し得る食品素材(機能性関与成分)の探索を進めた。
そうした中で、ある国内研究機関の研究報告を見つける。
「大阪大学が研究を行っていたのです。EGCGの摂取が動体視力の改善に寄与すると。in vivo(動物試験)で報告されたものでした。大阪大学による研究ですから、これはかなり有望なのではないかと」(同)。
この大阪大学蛋白質研究所による研究報告(論文)は、神経科学分野の国際学術誌『Neuroscience』に2022年、「Effect of Green Tea and Tea Catechin on the Visual Motion Processing for Optokinetic Responses in Mice」のタイトルで掲載されたものだ。「Optokinetic Responses」とは一般的に「視運動性反応」と訳される視機能の1つである。動体視力そのものではないが、動く対象を捉える視覚機能に関連する指標として用いられるとされる。
この論文に着目した同社は、大阪大学蛋白質研究所に連絡を取り、「いろいろとご相談させてもらったり、さまざまなアドバイスをいただいたりしました」(同)。その上で、ヒト試験の実施を決める。同研究所などの助言を受け、動体視力の中でも直線的に前方から近づいてくる物体を明視できる視覚能力を意味する KVA(Kinetic Visual Acuity)を、EGCGがヒトの動体視力に機能するかどうかの指標とすることにした。
この指標がなければ、動体視力に言及する機能性表示は不可能であったと思われる。同社はKVAについて届出資料でこう説明している。
「動体視力の測定には、KVAが多く用いられている。これまでに1000~2000人規模の日本人を対象に KVAを測定した報告があり、スポーツ分野や交通分野などにおける査読付き論文においても、 KVAが動体視力の指標として用いられており、幅広い分野での先行研究がある。
また、警察庁より平成31年に発行された通達では、運転免許更新時の高齢者講習やその他の講習において、動体視力の検査として KVAの測定を定めている」
ヒト試験のデザインは、健常成人男女40人(40歳以上80歳未満。男性18人、女性22人)を被験者とするランダム化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験。試験結果を報告する論文は2025年6月、海外のオープンアクセス誌『Food and Nutrition Sciences』に掲載された。
そして同社でシステマティックレビューを作成、消費者庁へ届出を行い、2026年2月24日、同庁が行った届出情報検索データベースの更新で公開に至る。
アイケアではなくQOLケア
この届出を見て、EGCGで同様の機能性表示へのチャレンジを考えた事業者もいるかもしれない。
だが、EGCGで同様の機能性表示を行うのは容易でない。EGCGを有効成分として含有する動体視力向上用組成物に関する特許(第7367956号)を大阪大学が取得しているとともに、同特許の専用実施権を東洋新薬が保有しているためだ。従って同社は、この発明を活用した機能性表示食品などの製品開発を独占的に進められる立場にある。
アイケア(目の健康)に関する新たな機能性表示。「動体視力(遠方から近づいてくるものをはっきり見る力)の維持に役立つ」に対し、業界関係者の多くはそう捉えるだろう。しかし同社は必ずしもそう考えていない。
「動体視力の低下を顕在的に気にしている消費者はあまりいないと思うのです。ですが、動体視力の低下は、生活の質の低下にもつながると考えられています。だから(動体視力の維持に役立つ旨の機能性表示には)社会的な意義は確かにある」(同)
アイケアではない。だとしたら何ケアだろうか。
「まだ顕在化していない潜在的な市場があるというふうに考えています。答えになっていないと思いますが、(動体視力は)運転や転倒リスクなど、日常生活の安全や自立に関わる領域へつなげて考えやすい。それに、わりと簡単に測定できる。そこが強みになると考えています。例えば、免許返納を考える世代へのサポートなど、社会的意義のある活用も期待できます。
一方で、現在の『加齢とともに低下する中高年の方の動体視力(遠方から近づいてくるものをはっきり見る力)の維持に役立つ』旨の機能性表示文言では、誰向けにどういった価値を提供できるのかを十分に伝えきれていないと感じています。今後はこれらの点を解決できるような対策を講じられればと考えています」
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社会的意義のある活用──それは動体視力の維持を訴求できるEGCGに、例えば、認知機能領域の機能性関与成分を組み合わせたりすることだろうか。2026年1月、認知機能領域などにおける新規の機能性関与成分の届出が公開された。成分名は「N-アセチルマンノサミン」。届出者は東洋新薬である。
(つづく)
【石川太郎】

