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「体感」から始まった研究開発 【大麦若葉末、免疫ケア表示の舞台裏(前編)】IgAからcDCへと至る道筋

 プラズマ乳酸菌に始まった日本の「免疫ケア(Immune Health)」市場の創出。健康な人の免疫機能の維持に役立つ──そう訴求する機能性表示食品の販売開始から約5年半。この間に、免疫ケア機能を届け出た機能性関与成分も増え、2026年5月末時点で9成分を数えるまでになった。その大半を乳酸菌等の「菌」が占める中で、ただ1つ、植物由来の成分がある。大麦若葉由来食物繊維。青汁の原料となる葉に含まれる栄養素の食物繊維に免疫ケア機能があるとは、かなり意外ではないか。どういう経緯で届出に至ったのか。

 大麦若葉由来食物繊維は、2026年5月末時点で最新の免疫ケア機能性関与成分だ。消費者庁が届出番号を付与して公開したのは同月8日だった。

 イネ科オオムギの出穂前の茎葉部を乾燥、微粉砕加工した大麦若葉末に含まれるのが大麦若葉由来食物繊維。機能性表示の内容は、「大麦若葉由来食物繊維はcDC(通常型樹状細胞)に働きかけ、健康な人の免疫機能の維持に役立つことが報告されています」とされている。

 プラズマ乳酸菌によって認知が高まったpDC(プラズマサイトイド樹状細胞)とは異なる樹状細胞、すなわち「免疫の司令塔」に働きかけるとされていることが目を引く。届け出たのは、サプリメントなど健康食品の受託開発・製造大手の東洋新薬(本部:佐賀県鳥栖市)だった。大麦若葉末は同社の独自素材。大麦若葉の管理栽培から微粉砕加工までを自社で手掛けている。

 同社の神谷智康・研究開発部統括マネージャーが、大麦若葉末の免疫ケア研究を始めたきっかけを振り返る。

 「もう5年以上になるのですが、大麦(若葉)100%の青汁を毎日飲んでいて、ある時ふと思ったんです。そういえば風邪をひかなくなったな、と。以前はよくひいていました。その話をたまたま上司にしたら、『そういえば私もだ』と。そこから始まったんですよね。(大麦若葉末に免疫維持機能があるとは)それまで想像すらしたことがなかった」

 トクホ(特定保健用食品)の関与成分から機能性表示食品の機能性関与成分まで、機能性の表示が認められた保健機能食品の領域に大麦若葉末を広げてきた同社。免疫機能に関する何らかの知見があって研究を始めたのだと予想していたが、いわゆる「体感」「実感」がきっかけだったという。「サイエンティフィックではまったくありませんが、嘘のような本当の話です」と同統括マネージャーは笑う。

 もちろん、体感があるというだけでは機能性表示食品の届出はできない。最初に科学的な検証を行ったのは、唾液中のIgA(免疫グロブリンA)が増えるかどうかだった。IgAとは粘膜免疫に関わる抗体の一種。口腔などの粘膜面で、ウイルスなど外来異物の侵入を防ぐ役割を担うといわれる。

 「かなり単純化して説明すると、腸内環境が整うとIgAが増える。そういう一般的な知見があります。それもあって、大麦若葉末が免疫機能に働くのだとすれば、その作用点は腸だろう、ならば唾液中のIgAが増えるのではないかと考えました。そこで、まずは簡易的なヒト試験を行いました。そうしたら、ビックリするほどIgAが上昇した。低用量、高用量ともはっきりと上昇しました。それはもう驚きました。実感とデータがばっちり結びつけられたのですから」

 当時、プラズマ乳酸菌の届出はすでに公開されていた(他の成分はまだ出ていなかった)。そうした中で、同社の大麦若葉末にはIgAの分泌を高める可能性のあることが、簡易なヒト試験ではあったが分かった。これを受け、機能性表示食品の機能性関与成分としての届出実績はもとより、トクホの関与成分として許可実績のある大麦若葉由来食物繊維について、免疫ケア機能性表示の実現をめざす研究を本格的に進めることになった。

 当初はIgAに着目して研究を進めた。それに全振りしたと言っても過言でなかった。「とにかく、(大麦若葉末を摂取すると)IgAが増えるという事実に興奮しましたし、調べれば調べるほど、ウイルス防御という観点から免疫の本丸はIgAだろうと」

 免疫機能に関する有識者らに技術的助言・指導を受けながら、IgA分泌促進機能の有無をマウス試験で検証したり、IgAの分泌が高まる作用メカニズムを掘り下げていったりした。「やはり、腸を経由して唾液中のIgAを高めていることが分かりました」

 ヒト試験も繰り返し実施。論文発表も行った。だが、「免疫の機能性表示を行うには、やはりIgAだけでは難しかった。そのため、当時は希望的観測しかありませんでしたが、樹状細胞にトライすることにしたんです」

 樹状細胞とは自然免疫と獲得免疫をつなぐ免疫細胞のこと。外部から侵入した異物をいち早く捉え、その情報をT細胞など他の免疫細胞に伝えて全体を動かす。そのため、「免疫の司令塔」などとも呼ばれる。複数の種類があるが、機能性表示食品の免疫ケアで先行したプラズマ乳酸菌は、プラズマサイトイド樹状細胞(形質細胞様樹状細胞、pDC)という、主にウイルスを感知する司令塔に働きかけることで健康な人の免疫機能の維持に役立つとされている。

 一方、大麦若葉由来食物繊維の場合、そもそもpDCを活性化させるとは考えられなかった。

 「pDCは、自分が取り込める小さなものに反応します。乳酸菌のような菌体ですね。ですが、食物繊維は大きすぎる。ダメ元で確かめてみましたが、実際ダメでした。そんなこんなで、免疫学の先生方ともディスカッションしながら行き着いたのがcDCです」

 cDCとはconventional dendritic cellの略称で、日本語では通常型樹状細胞。pDCとは性質の異なる樹状細胞だと言われる。同統括マネージャーが解説する。

 「そもそもcDCは『免疫の司令塔』と言えるのか、というところから検討を始めたのですが、免疫学の先生方の中には『むしろ本当の司令塔』とおっしゃるかたもいらっしゃるほどでした。pDCが主にウイルス感染時の応答に関わる樹状細胞であるのに対して、cDCはさまざまな抗原を取り込み、T細胞などに情報を伝え、免疫応答を方向づける役割を担います。その意味で、より幅広く免疫応答に関わる樹状細胞と考えられています」

 さらに調べていくと、cDCは多糖類を捉える受容体(Dectin-1)を持っていた。食物繊維は多糖類の一種である。「まだまだチャレンジの段階でしたが、『これは可能性がある』ということになって、cDCを活性化させるかどうかを確かめるマウス試験を富山県立大学とともに行いました。論文発表もしています。結論は、大麦若葉由来食物繊維はcDCを活性化する、です」

 そして、実際にヒトのcDCを活性化するか、また、かぜ様症状に及ぼす影響を検証するRCT(ランダム化比較試験)に駒を進めることになる。

(後編に続く)

【石川太郎】

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