消費者被害回復までの期間短縮化を図る 高居良平・消費者庁表示対策課課長、正々堂々と事業を行ってほしい
昨年10月1日、改正景表法が施行された。改正のポイントを改めて整理し、改正に至った背景を踏まえて、消費者庁表示対策課高居良平課長(=写真)に話を聞いた。23年10月に施行された「ステマ規制」。事業者からは数多くの質問が来ているという。高居課長は、違反にならないぎりぎりを攻めるのではなく、消費者に正しい情報を提供するというスタンスで広告を行ってほしいと話す。(聞き手・文:藤田 勇一)
事業者の自主的な取り組み
――まず確約手続の導入についてお聞きします。事業者の自主的な取り組みの促進がその背景にあるようですが、もう少し具体的に説明してください。
高居 改正前の景品表示法では、不当表示に該当するケースに対して、消費者庁としましては、その調査を行い、違反を認定した場合に措置命令、課徴金納付命令を行う、もしくは違反の恐れがある場合に行政指導を行うかの2つしかありませんでした。
もちろん、悪徳事業者や意図的な違反行為を行う事業者についてはこれまで通り対応します。しかし、なかには意図せず不当表示に該当することになってしまい、それを速やかに是正し再発防止策を講じる、消費者に対して被害回復を図るなど、自主的・積極的に動く事業者もあり、そうした事業者を評価する制度がこれまでありませんでした。迅速に問題を改善させることと、消費者庁側にとっての法執行の効率化が目的です。
個別事件において確約手続を活用するかどうかは、昨年の4月18日に決定された確約手続の運用基準に則り、基本的には総合的にさまざまな要素を勘案して判断することになります。
――確約手続の流れの中で、「事業者が確約計画を自主的に作成・申請」とあります。消費者庁では、その内容を事前に確認、場合によっては指導をされるのでしょうか。
高居 事業者としっかりとコミュニケーションを図ることが重要であり、いきなり通知を送りつけて申請するかどうか決めて下さいではなく、事業者が確約手続を希望する場合は、しっかりと相談を受け、どういう計画を作れそうなのかなど、事前のコミュニケーションを図ります。指導というのは少し語弊があります。相談に応じた上、計画案の修正などのアドバイスを行うことはあります。
――「課徴金制度における返金措置の弾力化」が盛り込まれました。その背景について説明をお願いします。
高居 特定の消費者に対して一定の返金を行った場合に、課徴金額から当該金額を減額するという自主返金制度が、課徴金制度の一環として平成26年11月改正で導入されました。しかしながら、これまでの利用件数は4件しかなく活発に利用されているとは言い難い状況です。そこで、不当表示による消費者の被害回復を充実させるため、事業者の利用が促進されるように返金の仕組みを改善する必要があったというのが背景です。
これまで、返金方法は金銭に限られておりましたが、消費者の承諾を得た上で、いわゆる電子マネーによる返金も許容するということになりました。
――効果はあるでしょうか?
高居 どの程度実効性があるのかは、現時点ではなんとも言えません。あくまでも選択肢を増やすことで、より柔軟な対応が取りやすくなるのではないかという判断です。
――違反行為に対する抑止力の強化として、課徴金制度の見直しが盛り込まれました。
高居 消費者庁が行う課徴金調査において、帳簿書類の一部が欠落しているなどの理由で適切に売上額が報告できないというケースがあります。この場合、課徴金計算の基礎とすべき事実が正確に把握できないため、課徴金納付命令までに要する期間が長期化するという事態が発生することが想定されます。課徴金納付命令の長期化は、消費者の被害回復の遅れに直結しますので、そうした観点から「売上額の推計規定」を新設いたしました。
その他、「課徴金額の加算に関する規定」、「優良誤認表示・有利誤認表示に関する直罰規定」を新設しました。一定の抑止力にはなるのではないかと期待しています。
2023年10月「ステマ規制」が施行
――事業者から質問・相談、消費者からの情報提供は来ていますか?
高居 はい、日々相談を受け付けております。質問の多い項目は「ステルスマーケティングに関するQ&A」として公表をしています。消費者から「この広告はステマに該当するのではないか」などといった情報提供もあります。
また、このステマに該当する不当表示についても、改正景表法の確約手続きの対象です。
――昨年11月、サプリメントの広告宣伝でステマを行っていたとして、消費者庁は、大正製薬㈱に対して景表法に基づき再発防止などを命じる措置命令を行いました。施行されて以降、違反認定は3例目、サプリメントでは初となりました。
高居 この事例では、同社のホームページに「Instagramで注目度上昇中」と、あたかもInstagramで自然発生的に注目度が上昇しているように思わせる表示をした上で、そこに同社が対価を提供して依頼したインフルエンサーの投稿を転載していました。もちろん、本当に自然発生的なものであれば良いのですが、このケースはそうではありません。同社が広告代理店を通じてインフルエンサーに依頼したものを掲載していたことから、ステマだと認定しました。
消費者は、「Instagramで注目度上昇中」とあるので、販売会社が依頼した投稿とは思わないと思います。
――販売会社が依頼したとは思わないでしょうか?
高居 もちろん、そう思う人がいないとは言い切れません。しかし、一般消費者がどう思うかが法律上の要件なので、「Instagramで注目度上昇中」と書かれているにもかかわらず、これは事業者が嘘をついていると一般消費者が普通に考えるかということです。ほとんどの人が、これはきっと企業が頼んだに違いないと思うのであれば違反にはならないと思いますが、大正製薬のケースは、そのように評価できるものではありません。
――昨年9月、消費者庁は「No.1表示に関する実態調査報告書」を取りまとめ公表しました。引き続き定期的に調査し報告するのでしょうか。
高居 いいえ、そうではありません。この実態調査に基づき行政指導を行い、悪質なケースは行政処分を行うということです。典型的なものは指導し、スピーディーに修正を促すということ。案件の大きさによっては確約手続の対象ですが、場合によっては指導し、是正されればそれで終わりというケースもあります。
――事業者に対してメッセージをお願いします。
高居 さまざまな場で繰り返し言っておりますが、あえて広告であるかどうかを分かりにくくするなど、そういうぎりぎりの線を攻めるのではなくて、消費者が正しく選択できる、正しい情報を発信していただきたいです。
「こういう場合はどうなのでしょうか、違反でしょうか」、「こういう場合なら大丈夫でしょうか」といった質問が、事業者から結構な頻度で寄せられます。また、全く問題ない広告を出しているにもかかわらず、「グレーの部分について何とか教えてほしい」といった要望が来ることもあります。そういったスタンスではなく、より望ましいもの、違反のラインのずっと上の水準で広告を制作していただきたい。
例えば税の世界で「節税以上脱税未満」のようなことを指南する人がいるようですが、広告の世界でもそういういわゆるグレーゾーンをアドバイスするという話があると聞きます。そのような姿勢で事業をしていると、当然、騙されたという人も出てきますし、 長期的に見ると信頼を失うのではないでしょうか。事業者にしてみれば、そんな綺麗ごとではないということかもしれませんが、下のラインよりずっと上のラインをキープし続けることで、本当の信頼を獲得できるのではないでしょうか。

――最後に、消費者へのメッセージもお願いします。
高居 法律を執行する立場ですので、あまり消費者に対して強く言えず、そこは消費者教育推進課に任せます。しかし、あえて言うならば、「消費者もしっかり勉強しましょう。疑ってかかることが大切です」ということです。
――ありがとうございました。
<プロフィール>
1996年公正取引委員会事務局(現事務総局)入局後、在アメリカ合衆国大使館一等書記官、官房国際課企画官、東北事務所長、審査局訟務官などを歴任し、2023年7月から現職。