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神代から令和まで健康食品のルーツを探る~歴史から見えてくる課題は何か?(22)

(公財)食の安全・安心財団理事長 東京大学名誉教授 唐木英明唐木英明

<エノキタケ抽出物『蹴脂粒』と『蹴脂茶』>
 アベノミクスの一環として2015年に発足し、その経済効果が期待された機能性表示食品だが、発足早々、深刻な問題が起こった。
 体脂肪を減らす働きがあるというエノキタケ抽出物、蹴脂粒(しゅうしりゅう)は4月に消費者庁に届出が行われ、受理された。それ以前に蹴脂粒と同じ成分を含んだ蹴脂茶(しゅうしちゃ)のトクホ申請が行われ、その安全性を審査していた食品安全委員会が5月に「安全性を確認するデータが不足しているため、評価できない」と報告したのだ。その結果、「トクホとして安全性が認められない成分が、機能性表示食品として認められたのはおかしい」という、ある意味当然の議論となったのである。
 
 食品安全委員会による安全性の審査は極めて厳格だ。安全性試験だけでなく、理論的な作用機序に懸念があるときにも、これを払しょくする科学的根拠が不十分な場合は評価を行わない。蹴脂茶は、その作用機序から考えて、多くの臓器に影響がある可能性が指摘されたのだが、これに関するデータが不足していた。だから「安全性に問題がある」のではなく、「多少の懸念があるので、データを追加してほしい」というものだった。これが「安全性が認められなかった」、「危険性がある」と短絡的に解釈されたのである。

<消費者団体が制度に抗議>
 他方、機能性表示食品については、そもそも食品なので十分な食経験があれば安全性を認める立場であり、食経験が不十分な場合に安全性試験を行うことになっている。問題の発生を受けて消費者庁が健康被害情報を収集したところ、蹴脂粒と類似のエノキタケ抽出物は25年の流通実績があり、2000年以降、健康被害の報告はなかったという。
 
 8月になって蹴脂茶のトクホ申請は撤回され、蹴脂粒については、消費者庁長官が「安全性に問題がある結果が生じているとは認められない」という見解を示し、問題は一応解決して蹴脂粒は通販などで販売が始められた(18年8月に届け出が撤回された)。しかし、一部の消費者団体は機能性表示食品の安全性について制度上の大きな欠陥があるとして、制度の見直しを求める要望書を消費者庁に提出している。
 
 同じ機能性食品でありながら、トクホの安全性は食品安全委員会で厳しく審査され、機能性表示食品の安全性は食経験について企業が届け出るだけいいという大きな違いがあることは、消費者にとって極めて分かりにくい。この出来事を例にして、機能性表示食品制度には不備があるという議論が絶えない。とはいえ、ほとんどの消費者がトクホと機能性表示食品と、いわゆる健康食品の違いを認識していないのも事実である。このような状況のなかで、臨床試験に大きな経費をかける必要があるトクホの申請は減少し、論文を届け出るだけで済む機能性表示食品はその数を増やし続けている。

(つづく)

<プロフィール>
1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを歴任。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。

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