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神代から令和まで健康食品のルーツを探る~歴史から見えてくる課題は何か?(20)

(公財)食の安全・安心財団理事長 東京大学名誉教授 唐木英明唐木英明

<伸び悩むトクホ市場>

 (公財)日本健康・栄養食品協会(JHNFA)の調査では、1991年に制度が始まった特定保健用食品(トクホ)の市場規模は1997年には1,315億円、その10年後の2007年には6,798億円と大きく成長した。しかし、その後は成長が完全に止まって、18年は6,432億円に留まった。

 トクホの表示許可を得るためには、ヒトで安全性と有効性を確認する臨床試験が必要であり、その費用は億単位になると言われる。許可になった製品でも、その後販売を止めたものも多い。「健康食品が国民の健康度を向上させる」、「健康食品がすべてトクホになって、科学的根拠が不明ないわゆる健康食品は消える」という夢はかなえられていない。

<誤情報で消されたトクホ製品>
 そんな中で、科学的根拠があるトクホが誤情報により消された事件があった。食用油『エコナ』は、98年に厚労省の審査を経てトクホとして許可され、体に脂肪が蓄積しにくい油として人気商品になった。他方、当時から一部の科学者の間でエコナの主成分であるジアシルグリセロールはがんの原因になるという誤解があり、念のため確認試験をして、その評価を05年から食品安全委員会が行うことになった。

 細胞内にジアシルグリセロールが入ると発がん促進作用を示すことは事実だが、経口摂取したジアシルグリセロールは分解されて細胞内には入らないので、発がん性は考えられない。また、動物実験の結果も発がん性を否定しており、だからこそトクホに認定されたのだ。カルシウムが細胞内では強い毒性を発揮するが、経口摂取したカルシウムはほとんど細胞内に入らないので毒性がないこととよく似ている。にもかかわらず、一部の専門委員の意見で審議が長引いた。

<注意情報を拡大解釈>
 09年になると、別の問題が起こった。多くの食用油にはグリシドール脂肪酸エステルが含まれているのだが、これが体内で発がん性があるグリシドールに変化する可能性があるという海外情報が入ったのである。これは単なる注意情報であり、実際にグリシドールに変化するリスクは小さいのだが、エコナには他の食用油より多量のグリシドール脂肪酸エステルが含まれていたため、食品安全委員会の一部の専門委員から「エコナの販売を止めるべき」という意見が出され、「エコナに発がん物質が入っている」という間違った情報が広がり、消費者団体がトクホの認可取消しと販売の停止を求め、消費者担当大臣がこの問題に緊急に対応する方針を表明するという大きな騒動に発展した。結局、発売元企業はトクホの取り下げと販売の停止に追い込まれた。

 14年になって、食品安全委員会はエコナには発がん作用がないこと、グリシドール脂肪酸エステルには毒性が認めらないこと、これが体内でグリシドールに変化することはないことを発表し、エコナの疑いは晴れたのだが、人気商品が復活することはなかった。米国であれば企業が多額の損害賠償を請求してもおかしくない事例である。

(つづく)

<プロフィール>
1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを歴任。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。

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