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神代から令和まで健康食品のルーツを探る~歴史から見えてくる課題は何か?(15)

公財)食の安全・安心財団理事長 東京大学名誉教授 唐木英明

<一般用医薬品と医療用医薬品>

 医薬品の目的は病気の診断、予防、治療だが、その販売方法は2つに分かれる。その1つは薬局で薬剤師に相談すれば購入できる、あるいはドラッグストアなどで誰でも買うことができる一般用医薬品(OTC/Over The Counter)である。もう1つは抗生物質など、医師の処方が必要な「医療用医薬品」である。OTC医薬品は胃腸薬、風邪薬など、副作用が少なく、多くの需要がある薬だが、昔も今も最も人気がある薬品がビタミン剤だ。

 本来、ビタミン剤はビタミン欠乏症の治療薬だった。ビタミンA欠乏症の夜盲症、ビタミンB1欠乏症の脚気、ビタミンD欠乏症のくる病、ビタミンE欠乏症の溶血性貧血、ビタミンC欠乏症の壊血病などが有名で、各ビタミン剤はその特効薬だった。

<疲労回復にビタミン剤を処方>

 ところがその後、ビタミンB1欠乏から疲労感を引き起こすことが分かり、「疲労感」という必ずしも病気とは言えない症状に使われるようになった。そして、戦後間もない1950年に日本初の総合ビタミン「パンビタン」、そして1954年にビタミンB1誘導体「アリナミン」が、病気の治療ではなく、予防や疲労回復のための医薬品に認定された。医師が患者の元気回復のためにビタミン剤を処方し、患者も医師に「元気がないからビタミン剤を注射してほしい」と依頼するのが当たり前の時代が来た。医薬品が健康の維持、すなわちQOLの向上のために使われ始めたのだ。

 57年には、ビタミン剤をアンプルに詰めたベルベ内服液が発売され、60年にはやはり、アンプル入りのグロンサン内服液が売り出された。アンプルとは注射液を入れるガラスの容器で、アンプルの首を切り落としてストローで飲むという動作が「医薬品を飲んでいる」という感覚として広く受け入れられて売り上げを上げた。しかし、アンプルは取り扱いが面倒ということもあり、62年以後、現在のドリンク剤と同じびん詰のビタミン剤が、リポビタンD、エスカップ、チオビタドリンクなどの名前で続々と発売され、第1次ドリンク剤ブームが起こった。

<死者が相次ぎブーム終焉へ>

 64年に東京オリンピックが開催されたが、米国選手の活躍がビタミンやミネラル剤を摂取した結果であると報道され、ビタミン入りドリンク剤はさらに大きな市場になった。

 他方、65年にアンプルに詰めた風邪薬に含まれていたピリン系製剤が原因で59年から65年までに38人の死者を出す事件が起こり、「アンプル入りかぜ薬」は全面発売禁止になり、アンプル入りビタミン剤も消えた。また、この事件がきっかけになって、OTC医薬品の一般消費者向けの宣伝広告の規制が厳しくなったのである。

(つづく)

<プロフィール>
1964年東京大学農学部獣医学科卒。農学博士、獣医師。東京大学農学部助手、同助教授、テキサス大学ダラス医学研究所研究員などを経て東京大学農学部教授、東京大学アイソトープ総合センターセンター長などを歴任。2008〜11年日本学術会議副会長。11〜13年倉敷芸術科学大学学長。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。

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