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寄稿②「食の安全」を振り返る 3分の1ルールの見直しに期待、国の実情に即した食品表示を

元食品表示Gメン 中村 啓一 氏

 2023年は、年明け早々から回転する寿司へのいたずらや卓上の醤油ボトルを舐め回したり容器に直接口を付けて紅しょうがを食べるなど、外食店での迷惑行為を撮影した動画がSNSで拡散され大騒ぎとなった。最近は在宅の時間が長くなった筆者だが、つけっぱなしのテレビは朝から夕方まで繰り返し迷惑動画を取り上げるなど報道も過熱した。この騒動は子供のいたずらでは済まない事態となり、卓上の調味料の撤去や回転寿司を回転させないなど外食事業者の経営に深刻な影響を与えたが、動画を拡散させた当事者も社会的制裁に加え金銭的賠償など大きな代償を払うこととなった。

 他方、騒ぎの再来を見ずに済んだものもあった。2014~15年、食品への異物混入問題が相次ぎ、混入したゴキブリや歯などの画像が拡散され、大規模な商品回収やメディアも連日取り上げるなどの騒ぎとなった。23年もスーパーや外食店のサラダなどにカエルが混入していた問題が発生し画像も拡散したが、報道も消費者も比較的冷静で以前のような騒ぎにはなっていない。筆者にもメディアからの問い合わせがあったが、カエルやミミズのいる畑は健康な畑と答えている。消費者に安全で安心な食を提供するのは事業者の基本だが、興味本位の報道が騒ぎを増幅させた感も否めない。

多発する産地偽装

 22年、熊本県産と偽るアサリの大規模な産地偽装が問題となったが、23年に入っても、コメ、ゴボウ、タイ、ワカメなど産地を偽る違反が摘発された。さらに、牛肉、鶏肉、マグロ、ウニ、ブドウなどふるさと納税の返礼品や学校給食では、10年以上前から外国産の豚肉を国産と偽って混入されていたなど、残念ながら自治体が管理する現場でも産地偽装が相次いで発覚しており止まることを知らない。 
産地以外でも、菓子メーカーによる在庫の冷凍菓子賞味期限書き替えやデパートの食品売り場で惣菜や弁当の消費期限のラベルを張り替えなどの改ざんが行われた。さらに、外食店やホテルでは賞味期限を超えた食材を提供するなどの問題も発覚した。
 
 表示を改ざんして消費者を欺く行為は許されるものではなく、関係した事業者には猛省を求めたい。同時に、偽装を誘発する状況を改善することも必要だ。違反した業者はその動機を「必要な量が確保できなかった」、「コストに見合った価格ではなかった」、「期限を延ばしても品質には問題がなかった」などとしている。であれば、適正な取引価格や供給に限りがある生鮮品についてはサプライチェーンを通じた弾力的な対応ができる仕組み、また加工食品は適正な在庫管理とともに本来の食品の品質に見合った期限の設定が求められる。流通においても消費期限が3分の1を切ったら販売しないなど、業界の慣習とされていたいわゆる3分の1ルールの見直しが進められておりその成果を期待したい。

 食品の表示については、国際化の進展や社会環境の変化に対応すべくルールの見直しに向けた検討が行われている。これまでも、食品表示法が施行された2015年以降、製造所固有記号を制限、全ての加工食品に原料原産地を義務付け、遺伝子組み換え表示の厳格化などルールの改正が繰り返されてきたが、23年は「食品表示が目指していく方向性について、中長期的な羅針盤となるような食品表示制度の大枠の議論(消費者庁)」の場として食品表示懇談会が設置され、並行して分かりやすい栄養成分表示の取組に関する検討会も開催されている。景品表示も、10月にステルスマーケティングの規制を公表し、働き方改革に伴う物流の2024問題を背景に通販などの「送料無料」表示の是非についても議論されている。

 時代の変化に伴い表示ルールを見直すことは必要だ。しかし、時々の事情でその都度対処療法的なルールの改正は事業者の負担が大きく、何より消費者の理解が追い付いていない現状もみられる。行政には羅針盤が示す方向を明確にし、我が国の実情に即した食品表示の在り方を示してほしい。

<プロフィール>
1968年農林水産省入省。その後、近畿農政局 企画調整部 消費生活課長、消費・安全局 表示・規格課 食品表示・規格監視室長、総合食料局 食糧部 消費流通課長などを経て2011年に退官。著書:『食品偽装・起こさないためのケーススタディ』共著(ぎょうせい)2008年、『食品偽装との闘い』(文芸社)2012年など。

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