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「努力し用意したエビデンスに則す」 【機能性表示食品特集】消費者庁・田中室長に聞く(後)

 会員向け月刊誌『Wellness Monthly Report』第49号(2022年7月号)に掲載した消費者庁表示対策課、田中誠・ヘルスケア表示指導室長インタビュー記事全文のうち後編。前編はこちら

事業者に求めたいことは4つ 切り出し表示のルール化も

──消費者に誤認されない表示を行うために、田中室長として事業者に求めたいことがあれば聞かせて下さい。

田中 第一に、対象者をしっかり明示して欲しいということ。広告にせよ、商品パッケージにせよ、機能性の科学的根拠が得られた対象者を明瞭に分かるようにしていただきたい。

 第二に、機能性の範囲を明示していただきたい。届出表示が長いからといって、認知機能に関して言えば、「記憶力の維持」などと言い切ってしまうと、記憶力全体に効果があるという誤認を与えかねない。一口に記憶力と言っても限定があるはずです。届け出た本来の機能性を適切に表現して下さい。

 第三に、その商品の機能性に関する科学的根拠がSRなのか、RCTなのかの別を分かるようにしていただきたい。「SRとRCTに科学的根拠としての差はない」とおっしゃる方もいますが、もともと機能性表示食品制度は2015年4月のスタート時点からSRとRCTに表示の差を設けている。その商品がSRで有効性が確認された成分を配合したものであるのか、RCTで商品として有効性が確認されたものであるのかを、消費者に誤認されないようにするためです。その制度主旨に沿っていただきたい。

 最後に、「役立つ」や「サポート」などの文言を省略しないでいただきたい。要するに、届出表示が「内臓脂肪を減らすのを助ける」であれば、「内臓脂肪を減らす」と言い切らないようにしてもらいたいということ。そもそも、内臓脂肪を減らすという機序と、内臓脂肪を減らすのを助けるという機序は、それぞれ別物です。役立つなどの文言を省略してしまうことで、届出表示から逸脱した表示になる恐れがあります。

──届出表示からの切り出しについて伺います。切り出しに関するルール化が必要だとする意見が業界の一部で上がっています。しかし、さまざまな届出表示がある中で、一律のルール化はそもそも困難なのではありませんか?

田中 先ほど示した4つの点について、業界団体側で一定のルールを作ってくれることを期待しています。業界団体とのワーキング(検討)も行い、一定のルール案を整理してあります。その後なかなか進んでいない面もあるのですが、業界団体側で上手くまとめられないのであれば、我われ(消費者庁)としてルール化することもあり得る。広告や商品パッケージの切り出し表示に関する一定のルール化は明確にやっていただきたいと考えています。

──商品パッケージも含めてですか。

田中 広告だけでなく商品パッケージの表示も、当然、事後チェックの対象になっています。届出時にパッケージについて何も言われなかったから問題ないと勘違いして、広告についても同じように表示しているという場合もあるのではないかと思います。そこは今一度、考えて直していただきたい。消費者庁はパッケージについてもエンドース(承認)していません。

──しかし、届出資料提出時、パッケージの表示内容に対して不備指摘が行われることがあります。

田中 商品名そのもので医薬品的効能効果に踏み込むようなものが実際にあります。そのような商品名が届け出されるなどした際は、食品表示企画課でも不備指摘し、差し戻していると思います。商品名は最大の広告。事後チェックの対象にならないということはありません。

消費者を置いてけぼりにしない 社会的な信頼高めるためにも

──文字数の多い届出表示を極力切り出さず、広告のキャッチコピーを作ったり、商品パッケージをデザインしたりすることは困難だと思います。しかもそれをルール化してしまうと、企業の創意工夫も損なわれそうです。記者の立場で言わせてもらえれば、文字数に強い制約がある見出しにおいて、認知機能に関する機能性表示食品の届出表示を適切に表現することはほとんど不可能です。

田中 そのお考えは、消費者を置いてけぼりにしていませんか? 事業者側だけの理屈だと思います。消費者を誤認させないための必要事項を、事業者の方々がエビデンスに基づき自ら作った届出表示が長いことを理由に出来ない、書けない、というのはおかしい。そうしたお考えは、規制する側からすると、折り合いをつけるのが非常に難しいです。

 話が少し変わりますが、機能性表示食品の社会的信用を高めていくためには、三方向に配慮する必要があると考えています。1つは、事業者の販売活動。そして、行政が設定したルールや制度を守る必要もある。その上で消費者を誤認させないようにすること。その3つ全てに配慮した制度運用を行っていかないと、「いわゆる健康食品」の世界からいつまで経っても脱却できないと思います。

 従来のいわゆる健康食品の世界では、消費者に対して直接的な訴求が出来ないために、暗示や間接的な表現を駆使し、かつ、それを魅力的に見せる方法が熟成されてきた。不安を煽ってみたり、体験談を通じて過度に期待を与えたりといった方向に進んでいったわけです。それでも、一定の広告宣伝を行うと、一定の売り上げを得られる。だからそれでいいと考えられてきたのかもしれませんが、それでは商品が長続きしない。なぜかといえば、体感できないから。広告と実際の体感のかい離が大きすぎて商品の購入が長続きしない。その結果として、定期購入をめぐるトラブルが起きたりするわけです。

 だから機能性表示食品の社会的信頼をより高めるためには、従来の健康食品のようなイメージで期待を膨らませたり、過度な期待を抱かせたりするようなやり方ではなく、そのエビデンスに則した適切な広告に切り替えていって欲しい。せっかく業者の方々は努力してエビデンスを用意しているのですから。理想論かもしれませんが、そのように思っています。そのためにも、切り出し表示について一定のルール化が必要だということです。

──業界内では賛否両論ありますが、機能性表示食品にも公正競争規約が必要なのかもしれません。

田中 究極的にはそこです。公正競争規約とは、景品表示法上、問題にならない広告に関するルール。機能性表示食品は、特定保健用食品(トクホ)とは異なり、エビデンスと表示について許認可を受けているものではありません。ですからエビデンスと届出表示に関しては、事後チェック指針に基づくチェックを受けるようにすることで規約に遵守できるようにすればいい。広告に関しても、一定のルールを設けることで、そこから逸脱しないようにしてもらう。公正競争規約をつくることで、景品表示法や健康増進法の出番は、規約を遵守する事業者に関して言えば、およそなくなります。

 広告など表示やエビデンスをめぐる問題が繰り返されると、届出件数がいくら増えても制度そのものが成熟していかない。トクホの場合、公正競争規約が出来てからは、我われが問題視するような広告の問題は起きていません。公正取引協議会と絶えず目合わせをしてもいます。機能性表示食品についても、公正競争規約が作られ、公正取引協議会が立ち上がることが、究極の姿だと考えています。

(了)

【聞き手・文:石川 太郎】取材日:2022年6月15日

田中誠氏プロフィール:1990年10月厚生省(現厚生労働省)入省。2013年4月より中国四国厚生局食品衛生課長、2015年4月より消費者庁へ出向、18年より表示対策課長補佐、20年7月より現職。21年4月より消費者教育推進課食品ロス削減推進室長併任。

関連記事:『Wellness Monthly Report』機能性表示食品特集(2022年夏)インタビュー
消費者庁食品表示企画課 保健表示室長 蟹江誠 氏
健康食品産業協議会 会長 橋本正史 氏

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