4分類が生む混乱 【唐木英明・東大名誉教授寄稿】保健機能食品の外に残された「いわゆる健康食品」
唐木英明・東京大学名誉教授による寄稿連載「日本の健康食品制度を問い直す」第2回。前回は、法的定義なき「健康食品」と、食薬区分・46通知の壁をたどった。今回は、トクホ、機能性表示食品、栄養機能食品、いわゆる健康食品という4分類が生む混乱について。【編集部】
4分類が生む消費者の混乱
基本設計がない「建て増し方式」で作られたため、現在は「健康食品」に分類される製品が4つのカテゴリーに分散している。それぞれ根拠法・審査方式・表示規制・科学的根拠の要件が異なり、消費者が4つのカテゴリーの違いを正確に理解することは事実上不可能な状況にある。

例えばコンビニの棚に並ぶ乳酸菌入りヨーグルトが「トクホ」「機能性表示食品」「いわゆる健康食品」のいずれであるかは、パッケージを詳細に確認しなければ判断できない。しかも確認したとしても、各カテゴリーの意味を正確に理解している消費者はほとんどいない。そして、仮に識別ができたとしても、それがどのようなメリットにつながるのかが明確ではない。この状況は、消費者保護という観点から根本的に問題のある制度設計である。
消費者庁が毎年実施している「食品表示に関する消費者意向調査」は、この混乱の実態を如実に示している。

制度の外に残る「いわゆる健康食品」
消費者庁や国民生活センターへの健康被害相談の統計を見ると、健康被害・経済的被害の大部分は「いわゆる健康食品」に起因している。特定の有害成分の混入、過剰摂取による臓器障害、医薬品との相互作用による有害事象等が報告されているのだ。しかし「いわゆる健康食品」は法律上「単なる食品」であるため、食品衛生法での規制に留まり、それ以上の規制が困難な構造になっている。
・食品衛生法による規制は「食品の安全性」に限定されており、誇大表示への介入や未承認成分を含む製品の事前排除には対応できない
・景品表示法や健康増進法による措置命令は事後規制にとどまり、違反が発生した後でなければ発動できない
・製造・販売に事前許可が不要なため、参入障壁が実質的に存在せず、悪質な業者が容易に市場に参入できる
・HACCPは義務化されているが、GMP(製造管理基準)の適用義務がなく、製造品質の最低基準の担保が不十分である
2024年に社会問題となった紅麹サプリ問題は象徴的である。問題となった製品は機能性表示食品として届け出されていたが、製造管理の不備により未規定の成分が混入し、重篤な腎障害が多数発生した。「いわゆる健康食品」ではなく届出制度の枠内にある機能性表示食品でさえこのような問題が生じたことは、制度全体の安全管理体制の脆弱性を示している。
市場が映す消費者の期待
日本通信販売協会(JADMA)サプリメント部会の推計では、サプリメントの市場規模は1兆1000億円。このうち、保健機能食品は3,500億円、いわゆる健康食品が7,500億円である。販売方法は、通信販売が7,000億円、訪問販売が2,000億円、店頭販売が2,000億円である。これに対してOTC医薬品の市場規模は8400億円であり、健康食品の市場規模のほうが大きい。
OTCの用途は「治療・症状緩和」であるのに対し、健康食品は「健康維持」「美容目的」など幅広い生活行動を含み、比較対象が本質的に異なる。またOTCは症状が出た時だけ買うのに対し、健康食品は定期的・継続的に購入される。しかし、両者は類似した訴求を行い、売り場も隣り合って存在することなどから、消費者が明確に両者を区別しているとは言い難い。
消費者が健康食品に求めているのは主に「予防・維持・美容」という疾病に至る前の健康不安の解消であり、OTCが対応する「症状の治療」とは異なる。ただその境界を消費者は必ずしも意識せず、健康食品に治療効果を期待する層も存在する。行政的にもその境界はあいまいで、「血圧が高めの方へ」「血糖値が高めの方へ」などの表示は、実質的には「軽症の治療」を意味する。
健康食品の摂取目的は、男女別・年代別いずれにおいても「健康維持・増進」の割合が最も高く、男性では次いで疲労回復・滋養強壮が各世代で2位を占める。女性では40〜50代において「肌や美容・アンチエイジング」の割合が高い。目的によって満足度も変わるが、体調の維持や健康の増進・老化予防に関しては満足度が高い傾向がある一方で、ダイエットや病状の改善に関しては満足度が低い傾向がある。これは「現状維持」は主観的に満足しやすいが、「改善・治療」は目に見える変化がなければ不満になりやすいという心理的な非対称性によるものと考えられるが、前者は心理作用による改善効果が大きいのに比べて、後者は小さいという違いも大きい。
このように、消費者は健康食品に「健康の維持」だけでなく「軽症の治療」を期待し、その効果にかなり満足して継続使用し、その結果、健康食品の市場規模はOTC医薬品の市場規模を超えている。
行政が「効果」を語れない矛盾
食薬区分の原則は、「疾病の治療・予防・診断を目的とする旨を標榜するものは医薬品」という考え方に基づいている。この原則の下では、食品に対して行政が「○○に効果がある」「健康維持に役立つ」と言及することは、薬機法が定める医薬品的効能の標榜に抵触するリスクを生じさせる。
その結果、1兆円超に成長し国民のセルフケアに不可欠な役割を果たしている健康食品産業に対して、行政は有効性の観点からの政策誘導が原理的に不可能という矛盾した状況が生まれている。消費者が「どの健康食品が本当に体に良いのか」を知りたいと思っても、行政は薬機法違反に問われることを恐れて「食品は薬ではないので効果については言えない」という回答しかできない。唯一言えることは、そのリスクである。
その典型が、「健康食品の正しい利用法」と題する厚生労働省医薬・生活衛生局生活衛生・食品安全部(当時)のパンフレット(2016年2月改定)であり、そこには図に示すように「飛びつく前に、よく考えよう!」というタイトルとともに、6つのリスクを並べている。これを見た消費者は、「健康食品は危険なんだ!」と誤解しても当たり前である。
この矛盾は、健康食品産業の社会的役割が拡大するにつれて深刻化している。高齢化社会において、医療費抑制の観点からも国民の自主的な健康管理(セルフケア)の促進は重要な政策課題である。しかし行政が有効性について言及できないという制度的制約が、セルフケア政策の実効性を根本的に損なっている。

(第3回に続く)
【プロフィール】唐木英明(からき・ひであき):農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て87年に東京大学教授、2003年に名誉教授。「食の信頼向上をめざす会」代表を務める。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。
日本の健康食品制度を問い直す【唐木英明・東京大学名誉教授寄稿】
:【第1回】何が健康食品の活用を阻むのか 法的定義なき「健康食品」と46通知の壁

