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確かな「エビデンス」で切り拓く 【化粧品製造・開発最前線】DHC、美と健康の次世代スタンダード

 製品の「製造・開発」が単なる機能追求の枠を超え、より多角的な視点が求められるなか、長年、化粧品研究開発の第一線でキャリアを積み、現在は㈱ディーエイチシー(以下:DHC)の香粧品ユニットを統括する児林昇氏(=写真)に話を聞いた。科学的根拠を重んじ、同時に消費者個々の「情緒的価値」をいかに製品へ落とし込むか。次世代ヒット商品を生み出すためのヒントを探る。(聞き手・文:藤田勇一)

科学的根拠という誠実さ、安全性と機能性の両立

――DHCにおける製品開発の根幹にある「エビデンス」の定義と、開発思想についてお聞かせください。
児林 エビデンスとは、我々がお客様に真摯に向き合うための「不可欠なコンテンツ」です。科学的事実に基づき、安心・安全な品質を揺るぎないベースとして築き上げ、その上で新しい価値への挑戦を両立させる。これが私たちの開発思想です。
 DHCは、化粧品と健康食品という2つの柱を展開しています。この両面の知見を融合させ、原料から処方開発まで一気通貫で行える点は大きな強みです。安全性については、原料の段階から製剤化、そして市販後の追跡調査まで、多段階の厳格なチェックを欠かしません。特に私が重視しているのは、お客様から寄せられる声を迅速にデータ化し、開発初期の試験プロセスにフィードバックするループです。科学的な数値と、現場の生の声。これらを高度に融合させることが、DHCの品質を支える要諦と言えます。

――安全性と機能性を両立させるための、貴社独自の研究体制や品質管理プロセスにおけるこだわりは何でしょうか。
児林 安全性を確保しつつ機能性を引き出すため、私たちは多角的な検証を行っています。機能性は社内の基礎研究や大学との共同研究で裏付け、安全性は原料情報の確認から製剤評価、市販後の追跡まで段階的に検証しています。
 また、昨今はグローバル企業がエビデンスを軸に激しい競争を繰り広げています。そうした環境下で、「J-Beauty」が国際的に評価されるためには、日本製品の強みである「安全性」という土台を維持しながら、そこにいかに確かな機能性と心地よい使用感を両立させ実装できるかが鍵となります。規制の枠組みを正しく理解し、グローバル基準で認められる数字やデータに基づいた開発を行うこと。この積み重ねこそが、ブランドの信頼性を高める唯一の道だと確信しています。

技術採用の選球眼、顧客ニーズへの対応

――近年の成分ブームや消費者の美容知識向上に対し、どのような基準で新しい成分や技術を採用されていますか。
児林 消費者のリテラシーは年々向上しており、ウェブやSNSを通じて成分レベルの知識を深めています。そのため、単にトレンドの成分を配合するだけでは不十分です。私たちの採用基準は極めてシンプルかつ厳格です。「その技術や成分が、お客様のどのような課題を解決できるのか」という一点に尽きます。
 独自成分の開発も推進していますが、重要なのはトレンドに踊らされることではなく、その成分がどのような根拠で、どう皮膚に作用し、どのような体験をもたらすかを言語化・数値化することです。お客様が自ら納得して商品を選び取る時代だからこそ、成分の背景にあるストーリーと明確なエビデンスが、購買の決めてとなります。

――多様化する顧客ニーズに対応するため、製品開発において最も重視しているデータやフィードバックは何ですか。
児林 私たちが重視しているのは、客観的な「データ」と、お客様の実感が表れる「声」の両立です。肌測定データや機能試験の数値は開発の羅針盤ですが、それだけでは「ヒット商品」は生まれません。
実際にお客様が使ってどう感じたか、どのような場面で効果を実感したのか。あるいは、なぜその製品から離脱してしまったのか。化粧品の価値は、物理的な効果に加え「情緒的価値」に大きく依存します。香りの立ち方、肌へのなじみ方、塗布した瞬間の高揚感。これら主観的な満足度をどのように科学的な再現性へと繋げるか。お客様の声は、データ以上の情報を語りかけてきます。その機微を汲み取り、ものづくりに生かすことが、私たちの強みです。

守り続ける「開発魂」と環境負荷低減の取り組み

――成分トレンドが激しく移り変わる中で、貴社が「これだけは譲れない」と守り続けいている開発ポリシーはありますか。
児林 トレンドを単にキャッチアップするだけでなく、その背後にあるお客様の価値観や生活様式を深く解析することです。表面的な流行を追うことは簡単ですが、それでは一過性のヒットに終わってしまいます。
 「DHCならではの価値」とは何か。それは、まだ市場には存在しないがお客様が潜在的に求めていた驚きと解決策を提示することです。成分の配合比率1つとっても、コストを優先して妥協することはしません。お客様を驚かせ、納得させ、そして日常を変える。そんな「まだ見ぬ価値」を作るという挑戦心だけは、どんなに時代が変わっても譲れないポリシーです。

――サステナビリティが求められる中、原料調達や製造工程において、機能性を維持しつつ環境負荷を低減する取り組みについて教えてください。
児林 サステナビリティは、もはや単なるスローガンではなく、製造業の存続に関わる必須要件です。私たちは、製品のライフサイクル全体で捉えています。資材の削減や容器の環境対応、製造工程の効率化は不可欠です。
 しかし、肝心な機能価値や使用感を損なっては本末転倒です。「環境に優しいが効果が薄い」では、化粧品としての価値を提供できません。全体最適化を目指しつつ、お客様にとって使いやすく、かつ環境負荷を減らすという非常に難易度の高いバランスを取ることに腐心しています。これからの製造は、技術革新による「機能とエコの両立」が命題となります。

――現在、研究開発の現場で最も注力されている領域とその背景を教えてください。
児林 注力しているのは、「ホリスティック(包括的)」なウェルビーイングの追求です。肌、頭皮、ボディケアという外側からのケアだけではありません。睡眠やストレスケア、さらには健康食品による内面からのアプローチを複合的に組み合わせることを目指しています。
 昨今の状況を鑑みれば、お客様は自身の健康や美しさをこれまで以上に深く見つめています。エイジングについても、老化をただ止めるのではなく、自分らしく健やかに過ごすための「ウェルエイジング」という概念で捉えています。美容医療が進化する中で、ホームケアに求められる役割を再定義し、トータルケアとしての価値をいかに深掘りできるかが今後の勝負所です。

AIが変える研究の未来、研究開発のパラダイムシフト

――DX化やAI技術の進化は、貴社の化粧品研究開発にどのような変革をもたらしていますか。
児林 効率化の面では多大な恩恵を受けています。処方開発のシミュレーションや、複雑化する各国の規制チェックなど、AIの力無しには現在のスピード感は実現できません。しかし、私が真に期待しているのは、その先にある「情緒的な解析」です。例えば、お客様が感じる「心地よさ」や「やみつき感」といった主観的な感覚をデータとして解析し、製品開発の仮説に役立てます。AIによって、これまで言語化が困難だった「感性」の領域を、再現可能な技術として落とし込む。そんなパラダイムシフトが目前に迫っています。

――開発のスピードと質が問われる現代、組織としての連携や今後の展望はどうお考えですか。
児林 研究現場には今、かつてないスピード感が求められています。市場トレンドの移り変わりは激しく、以前のような長期的な研究開発手法だけでは市場のニーズに間に合わないケースも増えてきました。そのため、現在は芝浦に構えていた拠点を幕張の研究拠点と統合し、さらなる体制強化を推し進めています。開発スピードを加速させるためには、部署間の壁を取り払い、いかに知見を流動的に循環させるかが不可欠です。
 特に注力しているのは、異分野との「知」の融合です。化粧品科学の専門家だけではなく、デジタル技術に精通したエンジニアや、消費者の生活行動を解析するマーケティングチームと密接に連携することで、単なる処方開発に留まらず、お客様の暮らしに新たな価値をもたらす化粧品を目指しています。
また、次世代のヒット商品を生み出すためには、既存の延長線上にある開発から脱却しなければなりません。研究者自身が現場に立ち、消費者のライフスタイルに深く踏み込む。データが示す事実の裏側にある「なぜ」を解明し、それを新たな技術で具現化する。この挑戦こそが、DHCが今後も市場をリードし続けるための生命線だと考えています。科学的エビデンスを重んじつつも、最後は「お客様の日常にどのような彩りを添えられるか」という人間中心の視点を忘れない。この信念を組織全体で共有し、未来の美と健康を支える革新を続けていく所存です。

――最後に、貴社が目指す「未来の美と健康」のビジョンと、読者へ向けたメッセージをお願いいたします。
児林 私たちの目指す未来は、「健やかに美しく生きることが、誰にとっても特別ではなく日常になる社会」です。高価な美容品や特別なケアだけが正解ではありません。科学的根拠に基づいた信頼性の高いガイド役として、お客様1人ひとりの日々の生活に寄り添い、幸せを当たり前のものにしていきます。
読者の皆様には、美や健康を特別なものとして捉えるのではなく、ご自身を大切にする日々の選択として楽しんでいただきたいです。科学と感性が融合した先には、必ず新しい日常があります。その可能性を信じて、私たちはこれからも挑戦を続けていきます。

――ありがとうございました。

【プロフィール】
児林昇(こばやしのぼる)
㈱ディーエイチシー 執行役員 香粧品ユニット管掌。化粧品研究開発に約40年携わるベテラン研究員。スキンケアからポイントメイク、ヘアケアまで幅広い製剤開発に従事し、効能評価や皮膚臨床試験、美容成分検証など多岐にわたる知見を有する。モノづくりの上流から下流まで一貫した経験を強みに、現在はDHCの化粧品事業強化を牽引。科学的エビデンスと消費者心理の融合による、次世代型製品開発の指揮を執る。

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