行政が引いた線と現場の隙間を埋める 日健工とJAOHFA、それぞれの営みと役割(前編)
錠剤やカプセル剤など、サプリ形状の機能性表示食品のGMP遵守義務化の完全施行(2026年9月1日)に向けた業界団体の取り組みはどうか。GMPの要求事項は法令の内閣府告示で規定。また、それを踏まえた「自己点検表」を消費者庁が用意している。ただ、どこまで実施すれば適合していると判断できるのかという具体的な目安や、詳細な解釈までは示されていない。そのため行政が引いた線と、製造をはじめとする現場の実務の間には、どうしても隙間が生じる。その隙間を埋めようとする2つの業界団体に取材した。
【編集部より】本記事は、ウェルネスニュースグループが発行する会員限定専門誌『ウェルネスマンスリーレポート』2026年8月号(第98号、同月10日発刊)の特集「サプリGMP、『義務』の時代」内に掲載したものです。前後編の2回に分けて全文を公開します。
見えない「適合」の基準 尽きない製造現場の問い
原材料の保管サンプルは、何グラム残せば足りるのか──告示や自己点検表を前にした製造現場に、そういった問いは尽きない。「保管する」ことを求められている一方で、それをどれほどの量、保管しておく必要があるのかまでは明示されていない。
行政側が用意したのは、遵守しなければならないGMP基準の各事項を列挙した法令(告示)と、遵守できているかどうかを確認するための点検項目を一覧化した自己点検表である。今年6月に解説書が改訂されたものの、各項目を製造現場の実務にどう落とし込むかの判断は、事業者側に求められる。
そうした製造現場における判断の基準を設けようとしているのが、最終製品の受託開発・製造(OEM/ODM)に特化した初の業界団体として昨年設立された(一社)日本健康食品工業会(日健工)だ。「製造現場が日々の業務を進める際に困らないよう、自己点検表の点検項目の内容をかなり具体的な実務レベルまで落とし込んだ資料の作成を進めています」(健康食品推進委員会委員長・又平芳春氏=三生医薬㈱専務取締役。追記=同資料は「実務判断基準(第1版)」として2026年9月までに策定された)。
自己点検表に対するSOP 6つのワーキングで検討
日健工は現在、国内に製造施設を持つOEM/ODM企業32社が正会員として参画。そのうち22社36名が6つのワーキングチーム(WT)に分かれ、自己点検表に示された全95項目について、製造現場における実務上の対応基準を具体化するための作業を進めている。7月末に会員向け説明会を開いて意見募集し、遅くとも8月中旬までにとりまとめたい考え。最終的に、自己点検表に対する「SOP(Standard Operating Procedure=標準作業手順書)のような成果物」(同)をめざしているという。
WTの構成メンバーは、製造・加工施設のGMP実施状況の確認・助言を経過措置期間中に実施している消費者庁の「GMPチーム」への対応に当たった実務担当者が中心だ。この確認・助言でも自己点検表が用いられており、その時の経験が、自己点検表に対する実務上の対応基準が必要だと考えるきっかけになったという。
「『ここが曖昧だ』『ここが分かりにくい』という実務上のニーズが出発点です。実際、『どこまで実施すれば自己点検表に適合していると判断できるのか』といった疑問が会員各社で噴出しました。そのため、『このレベルまで実施すれば適合と判断できる』という線を示したいと考えています。その意味で、SOPに近い資料になるわけです。WTには、実際に自己点検表を使って点検し、行政の確認に当たった担当者に入ってもらっています。言い換えれば、実際に(実務上の対応に)困った経験のある人たちが集まり、作業を進めています」(WT責任者・河野宏行氏=アピ㈱取締役R&D本部長)。
WTは、「管理組織・安全性」「製品標準書等」「製造管理・原料」「品質管理・出荷」「バリデーション」「横断管理」──の計6チームで構成されている。このうち、バリデーションチームのリーダーを務める松浦史隆氏=アピ㈱品質保証本部副本部長は、告示や自己点検表の要求事項に取り組む現場の悩みをこう説明する。
「バリデーションの対象として『システム』が挙がっています。医薬品GMPの場合はコンピュータ化システムを指し、バリデーションに関するガイドラインが別途設けられていますが、(告示や自己点検表では)『システム』としか説明されていない。そのため、何のシステムを対象とするのか、それに対するバリデーションをどこまで実施すべきかが非常に分かりにくいのです。最終的には、発生可能性や重大性などを踏まえた品質リスクベースの考え方で実務に落とし込むことになると考えていますが、まだまだ議論が必要です」
告示では、バリデーションについて、「製品の製造等を行う施設の構造設備、手順、工程その他の製造等に係る管理(中略)が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とすること」などと規定している。ひと言でいえば、「決めたやり方が本当に狙い通りの結果を生むことを、あらかじめ確かめて記録しておくこと」となる。GMPの重要事項の一つとされているが、それ一つとっても、行政が引いた線と製造現場の実務の間には、無視できない隙間が生じていることが分かる。
義務の外にある原材料 だからこそ求めたい協力
一方、日健工がGMP義務化にあたって最大の課題と認識しているのは、工場に受け入れる原材料に関する品質確認だ。自己点検表の「原材料の製造管理及び品質管理」の項には、「製品の製造等に用いる原材料は製品標準書の規格に適合したものであるか」とある。また、「製品の製造管理」の項では、機能性関与成分を含む原材料について、「同等性及び均一性が確認された原材料を用いて、製品標準書の規格に基づき管理を行うとともに、最終製品においても均一化し、規格に定められた範囲を確保しているか」とされている。
「簡単ではありません」と河野氏。「受け入れる原材料のすべてについてパターン分析などを行い、同等性や均一性を確認することは不可能ではありませんが、コストが非常に高くなります。それに、場合によっては基原材料まで遡って同等性を確認する必要があるなど、我々(OEM/ODMメーカー)だけでは対応が難しい項目が自己点検表には含まれます。GMP義務化に対応していくためには、その義務がかからないとはいえ、原材料メーカーの協力が必要不可欠です」(同)。
GMP義務化の流れは機能性表示食品のサプリ形状だけにとどまらない。今後、食品衛生法で定義付けられる「サプリメント」の製造・品質管理にGMPが義務付けられる方向性が固まっている。原材料に関しては、やはりその義務の対象外とする方向性が示されており、OEM/ODMメーカーの負担はさらに高まる見通しだ。又平氏は言う。
「健康被害防止の観点からは、一定の規制強化はやむを得ないと考えています。ただ、一社だけですべてに対応できる時代ではなくなってきました。業界全体で協力し合いながら(GMPに)取り組んでいく必要があると思います」
(後編につづく)
【石川太郎】
【特集】サプリGMP、「義務」の時代
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