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「表示の正しさ」から「意思の尊重」へ ダークパターン・SNS密室勧誘に対する法執行

 通販業界を巡る行政の監視は、形式的な表示確認から消費者の心理を操る「意思決定プロセス」の精査へと次元を変えた。2021年の特定商取引法改正後も定期購入トラブルは高止まりし、消費者庁は「ダークパターン」やSNS上の「密室型」勧誘に対し、かつてない厳格な法執行を突きつけている。2024年10月導入の景表法「確約手続」により、行政処分か自律的是正かの二極化も鮮明となった。

高止まりする定期購入トラブル、巧妙化する手口

 2021年の特商法改正により、最終確認画面における表示義務が厳格化され、契約の「取消権」が新設されるなど、定期購入トラブルの防止に向けた法的枠組みは大幅に強化された。しかし、それから数年が経過した現在も、SNS広告を端緒とする定期購入に関する相談件数は依然として高止まりの状況にある。消費者庁取引対策課の遠藤幹夫課長は、「一連の行政処分により、法を遵守しようとする誠実な事業者の間では、広告表現の適正化がある程度進んだことは事実だ」と一定の成果を認めつつも、「一方で、法の網の目を巧妙に潜り抜けるような、より複雑な手口が次々と現れている」と強い危機感をあらわにする。
 最近の傾向として、最終確認画面で形式上の表示義務は果たしつつも、利用規約の奥深くに高額な2回目以降の価格や解約違約金を隠す手法や、「初回実質0円」「いつでも解約可能」といった文言を極端に強調し、実際には厳しい継続条件が付帯していることを消費者に気付かせない手法が目立つ。こうした「形式上の適合と実態の乖離」こそが、現在の法執行における最大の課題となっている。

「ダークパターン」に対する法的境界線

 現在進行中の「デジタル取引・特定商取引法等検討会」において、最大の焦点となっているのが「ダークパターン」と呼ばれる、消費者の意思決定を不当に操作するユーザーインターフェース(UI)や表示の手法。
 検討会では、これらの手法を「消費者の意思形成を歪める表示・UI」と定義し、実態調査に基づいた議論を重ねている。具体的には、消費者を誤認させる「誘導的手法」と、心理的な圧迫を加える「攻撃的手法」に分類される。

●誘導的手法
 支払総額や解約条件といった契約の核心的な情報を隠す「こっそり」、捏造された「お客様の声」や不当なランキングで購買意欲をあおる「社会的証明の悪用」、さらには在庫が残りわずかであるかのように偽装する「虚偽の希少性」などが該当する。

●攻撃的手法
 実際には期限がないにもかかわらずカウントダウンを表示して焦らせる「虚偽の緊急性」や、例えば保険オプションを勧めるページを執拗に表示し、それを望まない顧客は「私は全リスクを負います」というボタンを押さない限り商品購入ページに進めないというように、消費者を心理的に揺さぶり不利益な選択を強いる「脅し・執拗な繰り返し」が挙げられる。

 取引対策課によれば、これらは単なるデザインの問題ではなく、消費者の自律的な選択を阻害する「不当な広告勧誘」に該当し得るという。課長は「例えばカウントダウンタイマーなどは、システムのバックエンドを調査すればその真実性を客観的に判断できる。虚偽であることが判明すれば、それは明確な不当広告であり、速やかに是正の対象となる」と、デジタル技術を駆使した法執行の可能性を示唆している。

ルール整備が必要なSNS・インフルエンサー施策

 SNSのダイレクトメッセージやチャット機能を用いた勧誘は、その密室性と執拗さから、従来の通信販売よりも、むしろ「不意打ち性」の高い「電話勧誘販売」や「訪問販売」に近い性質を持つとの指摘が検討会でもなされている。検討会資料によれば、SNSチャット等を用いた勧誘は、消費者が断りづらい心理状況に追い込まれやすい特徴がある。そのため、これらに対してクーリング・オフの適用を含めた、既存の対面・電話勧誘販売と同等の厳しい規制を導入すべきかどうかが議論の遡上に載っている。また、アフィリエイターやインフルエンサーといった、販売業者以外の第三者が作成した表示についても今後の検討課題に挙がっている。
 遠藤課長は、「規制の基本方針は、大多数の健全な事業者に過度な事務負担をかけることではない。あくまで、意図的に消費者を欺こうとする悪質な事業者とその不透明な取引に焦点を当てることにある」と強調する。

解約手続妨害への厳格な対応

 検討会では、解約手続を不当に遅延させる行為や、契約手続に比べて合理的理由なく過度に複雑な手順を強いる行為への対応も議論されている。具体的には、解約窓口を電話のみに限定しながら全くつながらない状態に放置することや、解約に至るまでに分かりづらいリンクで過度に画面を遷移させるといった「解約妨害」が挙げられる。現行法では、解約について嘘をつく「不実告知」は禁止されているが、手続を物理的に困難にする行為は必ずしも明確な禁止対象とはなっていない。遠藤課長は「極端な解約のしにくさは、実質的に消費者の契約解除権を奪っているに等しい。契約と解約の難易度に著しい格差がある事案については、何らかの規律が必要だ」と述べている。
 2026年夏頃に検討会の中間とりまとめを行う予定で、デジタル空間における取引ルールはさらに詳細化・厳格化されていく見通しだ。遠藤課長は、「悪質な事業者を市場から排除することは、結果として新規参入者や中小企業が成長しやすい、透明性の高い競争環境を育み、業界全体を成長させることにつながる」と語った。

景表法における「確約手続」、その判断基準とは

 景品表示法において、2024年10月から「確約手続」が本格的に導入された。これは、違反の疑いがある事業者が自ら是正計画を提出し、認定を受けることで行政処分(措置命令)を回避できる制度。この制度の導入により、行政の運用は「確約」と「措置命令」の二極化が進んでいる。消費者庁表示対策課の岡田博己課長は、どのような場合に確約手続ではなく「措置命令」という厳しい処分が選択されるのかという問いに対し、運用の柱となるのは「迅速な是正の必要性」と「事案に応じた適切な是正措置の可能性」の2点であると述べている。

 具体的には、以下の2点に該当する場合は、確約手続に馴染まないと判断され、措置命令(違法性を認定した上で行う行政処分)の対象となる。

●違反行為の反復性:過去に同様の違反を繰り返している場合。

●事案の悪質性・重大性:表示の根拠がないことを認識しながら、意図的に継続している場合など、悪質・重大な事案で、措置命令等による厳格な対処が妥当であると判断される場合。

 岡田課長は、「これらは機械的な判別ではなく、調査の過程における事業者とのコミュニケーションを通じ、企業の改善姿勢や問題行為が生じた組織的な背景を総合的に判断している」と強調した。当局のスタンスは、悪質性の低い事案や初犯については確約手続による迅速な是正を促し、一方で悪質な事案には躊躇なく措置命令を下すという「アメとムチ」の使い分けにある。
 事業者が特に留意すべきは、企業の「悪質性」を判断する際、景表法違反の履歴だけでなく、特定商取引法(特商法)など他法での処分歴も総合的に考慮される点。岡田課長は、「他法での処分歴があるからといって、即座に確約手続不可となるわけではないが、直近で他法の処分を受けている事実は、その企業のコンプライアンスに対する基本的なスタンスを測る一要素になる」と明言している。

 確約認定を受けるにあたり、有力な是正策の1つとして位置付けられているのが「返金措置」。確約手続の最大の目的は、長期化しやすい従来の調査期間(平均1年弱)を待たずに、問題行為をより早期に是正するとともに消費者の被害を迅速に回復することにある。返金措置は、ガイドラインにおいて、認定基準の1つである措置内容の十分性を満たすために有益で、重要な事情として考慮するものとして挙げられており、多くの企業が提案に盛り込んでいる。しかし、岡田課長は「必ずしも返金のみが正解ではない」とも述べている。表示された有利な条件に契約内容を合わせる・変更する、社内チェック体制を抜本的に刷新し独自の再発防止策を講じるなど、企業側がいかに「知恵」を絞り、主体的に改善意欲を示せるかが重要で、行政側は、形式的な対応ではなく事業者の本質的な自浄作用を注視している。

ステマ規制における実務上の盲点

 施行から時間が経過したステマ規制についても、事業者が意図せず陥りやすい「盲点」が具体的になってきている。岡田課長は、最近の事例から特に注意すべき2つのパターンを挙げた。

●評価マーク(星の数)の操作
 Googleマップや予約サイト等において、テキストの口コミだけでなく、「星5を付けてくれれば割引をする」といった高評価の依頼をして掲載させる行為も、事業者の関与がある広告とみなされ、規制の対象となる。消費者が星の数も重要な判断材料にしている以上、ここを歪める行為は許容されない。

●SNS投稿の二次利用時の編集
 インフルエンサーが元々の投稿で「PR」と明記していても、事業者が自社サイト等に内容を抜粋・要約して転載する際、PR表記を落としてしまうケース。たとえ意図的でなくても、自社サイトの表示全体として消費者の視点から「純粋な口コミ」に見えてしまう構成は、違反リスクを極めて高くする。

行政からのメッセージ、市場の健全化に向けて

 今後の健全な市場形成に向けて、岡田課長は事業者に対して「ステマ規制をはじめ景表法は、誠実な事業者が消費者の信頼を勝ち取り、健全に成長していくための共通ルール。特に事業規模の大きい企業においては、うっかりしたミスであっても消費者を含めた社会的な影響は甚大であるため、常に『消費者の視点』に立った運用をお願いしたい」と述べた。また消費者に対して「ネット上には依然として不適切な表示が混じっているのが現状。ネット上の情報を鵜呑みにせず、企業の広告表示が信頼できるものかどうかを冷静に見極める賢い消費者としての姿勢を持っていただきたい」とし、消費者庁としても「引き続き厳格な法執行と啓発活動の両輪で表示等の適正化に積極的に取り組み、消費者が安心して商品やサービスを選択して取引できる環境を整備していく」と述べた。

(月刊誌「Wellness Weekly Report95号(2026年5月10日刊)より転載」

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