デジタル特商法改正に向け議論進む 悪質オンライン広告や後出しマルチへの規制強化か
消費者庁はきのう18日、「第5回デジタル取引・特定商取引法等検討会」を開催した。今回の検討会では、オンライン広告をきっかけとする店舗誘引トラブルや、暮らしのレスキューサービス等の訪問販売分野、さらには連鎖販売取引(マルチ商法)における「後出しマルチ」への対応といった現代的な課題について、広範な議論を展開した。
会の冒頭、大屋雄裕座長(慶應義塾大学法学部法律学科教授)が議事を進行。アジアインターネット日本連盟の委員交代に伴い、新委員として就任した山家洋志氏が挨拶し、「ビジネスの実務・実態の観点からコメントをしたい」と抱負を述べた 。
ネット広告からリアル店舗への誘引にメス
検討会ではまず、インターネット広告により勧誘目的を告げずに「無料体験」や「初回0円」等の文言で消費者を店舗に誘引し、実際には高額な契約を締結させる「勧誘目的隠匿型」の店舗販売トラブルが取り上げられた。PIO-NETのデータによると、店舗購入に関する相談のうち、電子広告に関連する相談件数は2020年度の4,861件から25年度には7,437件へと急増している。
現行の特定商取引法では、電話やメール、ビラ等で目的を隠して呼び出す「アポイントメントセールス」を訪問販売類型として規制しているが、不特定多数向けの「インターネット広告」による誘引は規制の対象外となっている。
この点に関し、河村真紀子委員(主婦連合会会長)は「消費者から見れば同じインターネット広告なのに、最終的に訪問販売や店舗で行われた契約にダークパターンの規制が適用されないのはおかしい」と指摘した。また、島薗佐紀委員(弁護士)も「入り口がネット広告であっても、実態はアポイントメントセールスそのものだ。訪問販売の規定を準用、あるいは拡張して規制すべきだ」と主張。多くの消費者側委員から、インターネット広告による店舗誘引への特商法適用の必要性が訴えられた。
一方で、実務の観点から片岡康子委員((一社)新経済連盟政策部長))らは、健全なインターネット広告との線引きを懸念。規制を強化するにあたっては、悪質な行為を明確に定義し、通常の経済活動やマーケティング活動を不当に阻害しないよう慎重な制度設計を求める意見を表明した。
訪問販売の「レスキュー商法」と不招請勧誘を巡る攻防
次に、暮らしのレスキューサービス(水回りの修理や鍵開けなど)や点検商法を巡る消費者被害への対応が議論された。インターネット上では「1,000円から」と安価な価格を表示しながら、現場に来た事業者が「今すぐ修理しないと大変なことになる」などと焦らせ、最終的に数十万円もの高額な請求を行うケースが多発している。
これに関し、島薗委員や河村委員らは「国民の多くが望んでいない実態を踏まえ、特に高齢者被害が深刻なリフォーム等の訪問販売については、消費者が拒否の意思を示す『訪問販売お断り』ステッカーを貼っている家への勧誘を禁止する『不招請勧誘規制』を導入すべきだ」と主張。
しかし、法理論の観点から仲野武志委員(京都大学大学院法学研究科教授)は「個人の主観的な煩わしさではなく、客観的な社会的害悪があるかどうかが法規制の判断基準となる。単なる不招請勧誘を一般的に禁止することは、営業の自由や法的根拠の観点から難しい」との見解を示した。
また、契約前に勝手に施工を開始し、消費者がクーリングオフを申し出ると「もう原状回復できない」などと告げて妨害する悪質事業者への対策として、広告表示価格と実際の請求額の著しい乖離を違法な勧誘行為と位置付けることや、強力な民事効(取消権等)の付与といった対策の必要性については、多くの委員が賛同した。
「後出しマルチ」の規制と登録制導入の是非
連鎖販売取引(マルチ商法)の分野では、当初は「副業で稼げる」「良い投資商品がある」などとだけ告げて特定負担を伴う契約を締結させ、契約後になって初めて「他者を紹介すれば紹介料(特定利益)が入る」とマルチ組織への勧誘を始める、いわゆる「後出しマルチ」への対応が焦点となった。また、実体のない暗号資産やFXの自動売買ツールなどを商材とする「モノなしマルチ」の被害も若年層を中心に広がっている。
事務局は、後出しマルチを明確に特商法の連鎖販売取引の対象として位置付け、規制を強化する方向性を提示した。これに対し、島薗委員、樋口容子委員((公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会代表理事副会長)、河村委員らは、「問題のある事業者を事前に排除する仕組みとして、事業者に対する『登録制』の導入を検討すべきだ」と提案した。
仲野委員は、法律論としての難しさを指摘。「参入規制である登録制を設けるには、登録拒否要件を法律で明確に定める必要があるが、違反行為の蓋然性を事前に判断することは極めて困難。結局は過去の違反歴で判断せざるを得ず、それならば事後規制で足りるため、法律論として登録制の導入は難しい」との見方を示した。
デジタル取引の契約書面電子化における実務への配慮
前回の議論の振り返りとして、契約成立後に契約内容を記載した書面等(電子書面)を遅滞なく電子メール等により消費者に交付することを義務付ける案が再確認された。これについては概ね合意が得られているが、具体的な運用方法を巡って意見が交わされた。
万場徹委員((公社)日本通信販売協会専務理事)は、「消費者が閲覧している最終確認画面と、事業者がデータベース上で管理している注文情報の画面は同じではない。データベースの注文情報を引っ張り出して、新たに最終確認画面と全く同じものを編集し直してメール送付するとなると、システム上の手間やコストが膨大になるという実務側の懸念がある」と指摘した。そのため、定期購入などを含む煩雑な処理への配慮として、「請求があった場合に速やかに最終確認画面と同様の画面を確認できる方法を送る、といった代替方法もあり得る」とし、健全な事業者への過度な負担を避ける柔軟な制度設計を求めた。
消費者庁は、今回の検討会で出された多角的な意見を踏まえ、悪質な取引への厳正な対処と安心・安全なデジタル取引環境の整備に向け、さらに実務や商慣行を考慮した制度改正の具体化を進めるとしている。
(藤田 勇一)
当日の配布資料はこちら(消費者庁のHPより)
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