「Go West（西へ行こう）」。かつて米ダンスミュージックグループのヴィレッジ・ピープルはそう歌った。健康食品・サプリメント業界の、東日本をはじめとする本州に拠点を置くBtoB事業者の間では、今でもそうしたムードが色濃く残る。西にあるのは、売上高が100億円を超える有力通信販売企業がひしめく九州。往時の勢いはないと言われて久しいが、実際のところどうか。

2015年との比較で見えてくるもの

　九州には福岡を中心に、健康食品市場全体の底上げにもつながった「単品リピート通販」を展開することで、その名を全国にとどろかせた企業が複数、存在する。100億円企業も複数存在することから、国内健康食品市場全体に占める九州地区企業の売上も少なくないとみられる。

　一方で、通信販売王国「九州」の消長──そう題された記事を昨年5月発刊の「ウェルネスマンスリーレポート」で読むことができる。消長とは、衰えたり盛んになったりすること。実際、ここ数年の間にも、九州の通販健康食品産業の勢力図は様変わりしている。

　第1位キューサイ㈱（福岡市中央区）、2位㈱えがお（熊本市東区）、3位㈱はぴねすくらぶ（福岡市中央区）、4位㈱やずや（福岡市南区）、5位㈱エバーライフ（福岡市中央区）──。以上は九州・沖縄地区に拠点を置く、健康食品販売事業者の売上高ランキング。ただし、2015年10月に調査されたものだ。調査実施者は、㈱帝国データバンク福岡支店。第10位までを九州企業が独占している。

　当時の発表資料から、1位から5位の売上高を引用すると、約274億円、約264億円、約240億円、約194億円、約130億円。次いで6位に約124億円の㈱健康家族（鹿児島市平之町）、7位には㈱アサヒ緑健（福岡市博多区）が約123億円で続く。当時の100億円企業は以上の7社だ。

　ちなみに、上位50社の合計売上高は1,989億8,200万円とされている。一部調査によると当時の健康食品市場規模は推定およそ1.2兆円。沖縄を含む九州地区企業だけで、市場全体の2割弱を占めることになる。50社で2割弱。いかにも九州には有力健康食品販売事業者が多いことがうかがわれる。

　ただ、この調査が行われた15年当時の時点で、勢いは衰えて久しかった。上位50社合計売上高は「3年連続」で減少したとされており、「大手メーカー系企業などの積極的な市場参入もあって顧客獲得競争が激化。さらに、（健康食品の）市場が成熟しつつあることもあって、伸び悩む傾向が見て取れる」などと総括されている。

横ばい、低迷、拡大　業績推移は各社各様　

　それから約8年が経過した。当時100億円プレイヤーであった一方で、ここ数年の業績は100億円を大きく下回る企業が見られる。逆に、新たな100億円プレイヤーも生まれている。

　当時のランキング上位企業の直近売上高を調べてみると、コカ・コーラウエスト㈱（現コカ・コーラボトラーズジャパン㈱）から㈱ユーグレナ（東京都港区）のグループ会社へ21年に変わったキューサイは約257億円（22年12月期、キューサイグループ連結）。売上高比率は、ケール青汁をはじめ機能性表示食品『ひざサポートコラーゲン』などヘルスケアが55％、スキンケア化粧品が45％とされている。

　当時比で数％のマイナスではあるが、堅調といえる範囲。ただ、最盛期には360億円を超える売上があったことを考えれば、往年の勢いは今のところ影を潜めている。

　また、当時2位の、黒酢や深海鮫肝油といった健康食品を主力商材とするえがおは、約150億円（22年12月期）。15年の約260億円をピークに減収に転じていたが、20年までに底を打ち、微増ながらも増収に転じている。

　同社は昨年5月、アップルコンピュータ㈱や日本マクドナルドホールディングス㈱などの経営トップを歴任してきた原田永幸氏の最高経営責任者（CEO）就任を発表し、話題をさらった。主力商材のテコ入れや、食品事業を新たに立ち上げるなど、新たな一手を矢継ぎ早に打ち、再成長を図る原田CEOの手腕に注目が集まっている。社内の雰囲気もかなり変わったようだ。

さらに、『熟成やずやの香酢』の大ヒットを受け、06年に400億円を売り上げていた15年当時4位（約194億円）のやずやは、民間調査会社の調べによると、やや古いデータだが、20年12月期に170億円。200億円を下回る状態が続いている。15年当時も昨対比は約11％のマイナスとされていたが、増収への反転は長らく実現できていない。

（つづく）

【石川　太郎】

〇【特集】九州のヘルスケア産業
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