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開発から販路支援までオール九州で(前) 【九州のヘルスケア産業】九州地域バイオクラスターの取り組み

 九州管内では、(公財)くまもと産業支援財団が事務局を務める九州地域バイオクラスター推進協議会(熊本県益城町、田中一成会長)、福岡県や久留米市などが株主となっている公共セクター㈱久留米リサーチ・パーク(福岡県久留米市、田中達也社長)の活動が目覚ましい。商品開発から販路開拓支援まで、管内の中小企業を手厚くサポートする。機能性表示食品の届出支援も行う。

九州バイオは18番目の後発クラスターだった

 九州地域の産学官関係者、ならびに事業者が参画する九州地域バイオクラスター推進協議会(以下、協議会)は、九州経済産業局が推進する九州地域バイオクラスター計画の推進機関として2007年9月に設立された。全国で18番目、九州でも3番目と後発の産業クラスターだったが、「遅いから成果も遅くていいというわけではない。遅れてきた大物クラスターの形成を目指す」と宣言し、九州の特性を活かした機能性・健康食品・素材などの研究開発・量産化拠点の形成に向け、研究・開発から販路開拓までさまざまな支援活動に精力的に取り組んできた。会員は個人・団体など168(6月28日現在)。
 今年度、協議会が特に力を入れる取り組みは、「機能性表示支援事業」、「アライアンスマッチング事業」、「海外連携事業」の3つ。田中会長は、「九州は温暖な気候と起伏に富んだ地形に恵まれており、他県に誇ることができる多彩な農産物がある」とし、美味しさはもちろん、機能性を付加価値とすることで全国にアピールしたいと意気込む。協議会の取り組みを紹介する。
 協議会はこれまで、機能性表示食品に対してはさほど積極的な姿勢は示して来なかった。一時、ロゴマークを商標登録し、会員企業の販路開拓支援活動の一環としてマークを商品に表示する制度を導入したことがあったが、国が機能性表示食品制度を施行したことで、「ダブルスタンダードをもたらす懸念がある」、「事業者に混乱を招く恐れがある」として積極的な支援を思いとどまった。機能性表示食品自体に対しても、九州管内の中小零細事業者にはかなりハードルが高いと様子見の状態が続いたが、その後、徐々に制度が浸透するにつれ、適正な方法によれば少人数のモニターで行う臨床試験でもトライが可能であると判断。今年度から本格的に取り組むことになった。協議会のロゴマークの方はむしろ、「九州健康おやつプロジェクト」、「ヘルシーファーミングプロジェクト」などの個別の事業で活用する方向にある。

臨床試験中心、KRPとの棲み分けも

 実は、管内ではすでに福岡県で、㈱久留米リサーチ・パーク(以下、KRP)が機能性表示食品制度の発足時から届出支援を行ってきた。同事業との棲み分けをどうするのか、協議会の森下惟一プロジェクトマネージャーは次のように説明する。
 「協議会でやろうとしている機能性表示のサポートは、どちらかというと、ある程度機能性関与成分が分かっているものに対して、最終的なヒト試験に特化したかたちで制度設計を行う。KRPのように、最初から最後まで届出をサポートするというかたちではない」。
 協議会は2019年度の九州経済産業局からの委託で、食品機能性の専門家ネットワーク作りを実施してきた。その中で必要に応じて、KRPともキャッチボールを続けてきたという。産学官のネットワークを構築する中で、協議会はより小規模で地域性の高いものについて、ヒト試験をやりやすくするためのサポートに特化する。

九州でリーズナブルなヒト試験実施へ


 臨床試験の現場は、長崎県立大学シーボルト校・地域連携センターの特任教授も務める田中会長が中心となる。「要は、九州内のいろいろな農家や生産者、中小企業の皆さんが、もう少し売り上げが上がるような仕組み作りが1番だと思う。農業がさらに活発になるようにということで、付加価値を付ける。その1つの目的として、現代では機能性という切り口が大きなインパクトを持つ」と言い切る。
 機能性表示食品制度のガイドラインに則り、査読論文に基づいたシステマティック・レビュー(SR)で届出を行うことができる事業者はそれでいい。そのための支援をKRPが行っている。「それはそれでいいこと」と田中会長。「ただ、それとは別に、実際にヒト試験をやれば、その製品、あるいはその農産物そのもののエビデンスとしてデータが直結してくる。信頼性も高まってくるはず。そのために、ヒト試験ができるようなシステムを九州全体で作れないかと考えた」と話す。九州に複数の拠点を構え、そこで九州全体のいろいろな農産物について、生産者がいつでも相談に来ることができるような仕組みを構築し、リーズナブルなヒト臨床試験に対応する。
 「今あそこでヒト試験ができるよ、という気軽な感じ」と田中会長は続ける。「こういう機能性に関しては、モニターさんがここにいるよという感じ」。生産者と研究者と被験者をつなぐネットワークを推進協議会がつなぐ。そのための場を提供する。
 「私たちが中継役を担い、九州全体をうまく取りまとめながら、どんどん先へ進むことができるようなシステムを作りたい」と、田中会長の頭の中にはすでに長崎・鹿児島・宮崎という3拠点の他に、福岡や熊本も加えた5拠点構想として、オール九州ヒト試験ネットワーク構想が現実のものとして動き始めている。
 もちろん課題はある。九州ではこれまで、届出支援を行うコンサルタントが活動してきた。同協議会でもこれまで、少なからず、相談事をこれらのコンサルタントにつないできたという経緯がある。地域性とか、小規模事業者とか、地域の特産品とか、どこかで線引きをし、彼らと競合しない方法を模索する必要があるだろう。

(上の写真:左から九州地域バイオクラスター推進協議会、ヘルシーファーミングプロジェクト、九州健康おやつプロジェクトのロゴ)

(つづく)

【田代 宏】

関連記事:開発から販路支援までオール九州で(後)

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