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「無添加」表示をめぐる攻防(後)

食生活ジャーナリストの会 代表幹事 小島 正美 氏

コンビニ大手が改善に乗り出す
 興味深いのは、7月21日に見解を述べた㈱セブン-イレブン・ジャパンだ。以前、おにぎりや弁当などに「保存料・合成着色料不使用」の表示をした製品を扱っていたが、「無添加、不使用を訴求することは消費者に誤認を生じさせる恐れがある」として、「見直した」ことを明らかにしたのだ。この大手小売の巨人の動きは消費者に誤認を与える表示の改善に大きな一歩を印した格好だ。
 こういう動きを見ていると、無添加表示で消費者を惑わせているのは事業者であることがよく分かる。もはやメディアは一部の週刊誌を除き、添加物の不安を煽っている事実はない。添加物を敵視した特集号で売上増を図る一部週刊誌と、無添加で製品の売上増を図る事業者の戦略は似たものに映るのは私だけではあるまい。

「化学調味料無添加」表示は明らかに矛盾
 もう1つ、大きな焦点は「化学調味料無添加」の表示が野放しになっている点だ。「化学調味料」という言葉に法令上の定義がないため、意味不明の「化学調味料無添加」の表示が横行している。
 化学調味料は、約50年前にNHKが料理番組で使った言葉である。味の素㈱が製造販売しているうまみ調味料の主成分はグルタミン酸ナトリウムだが、その商品名が会社名と同じだったことから、HNKは「化学」という文字を冠して化学調味料という言葉を編み出した。その当時はそれでよかったが、その後、食品添加物への風当たりが強くなり、「化学」という言葉のイメージが悪くなったことから、事業者は「化学調味料を使っていません」というキャッチーな表示で消費者の目を引く販売作戦に出た。それがいまも続く。

 問題なのは、うま味成分のグルタミン酸はチーズやトマトなど多くの食品に含まれていることだ。化学調味料無添加と表示されていても、実際にはグルタミン酸を含む「酵母エキス」、「アミノ酸液」、「発酵調味料」などの原材料が使われているという矛盾だ。
 ここで必要なのは、国か事業者団体がまず「化学調味料」とは何かを一刻も早く定義すべきだということだ。定義を決めた上で、たとえば、「グルタミン酸調味料を使っていません。ただし食品の原材料にはグルタミン酸が含まれています」という表示なら、おかしな表現ではあっても、まだ許容されるだろう。

 ただ、この化学調味料の表示に関しては、消費者側の意識にも問題があると感じた。2020年度の消費者意識調査によると、「化学調味料がどのようなものか、事業者が説明できないのであれば、表示すべきではない」と答えた消費者が40%だったのに対し、「法令上の定義がなくても、事業者が説明できるのであれば、特に問題はない」と答えた消費者が59%もいたことだ。事業者が自己の都合で勝手に定義を決めて、めいめいに表示しても、事業者が説明できれば問題ないということになれば、表示の内容は事業者の都合でバラバラになる。これでは消費者は混乱するだけだ。どういう場合に化学調味料無添加の表示が許されるのかに関する厳密な定義を国が示す必要がありそうだ。

国は表示を通じて、どういう消費者を育てたいのか
 昨年、消費者庁は、自然だから安全、合成だから危ないという事実はないとして、食品添加物の表示に「人工」、「合成」の用語を使わない方針を決めた。「人工」や「合成」と表記された添加物が使われた食品に関して、その購入を避ける消費者がいることが調査で分かったからだ。つまり、消費者の誤認防止のために「人工」、「合成」の用語は「削除することが適当」と判断したわけだ。

 それなら、今度のガイドラインでも、消費者側の意見を重視すべきだという方向性になるはずだが、検討会での議論を見ている限り、そうでもない空気が感じられる。
 検討会を聞いた「食のコミュニケーション円卓会議」の市川まりこ代表は、「不使用表示を求める消費者ニーズは、添加物への誤解の上に成り立っている」と話す。そのとおりだ。
 日頃から、消費者庁や農水省、食品安全委員会は食品添加物のリスクを科学的に理解するリスクコミュニケーションを行っている。科学的にものごとを考える消費者を増やしていきたいからだ。だとすれば、おのずと無添加表示に規制が必要だという結論に至るはずだが、事業者の巻き返しも強いようだ。年内には結論が出そうだ。利益重視の事業者寄りにならないことを期待したい。

(了)

<筆者プロフィール>
1951年愛知県犬山市生まれ。愛知県立大学卒業後に
毎日新聞社入社。松本支局を経て1987年から東京本社生活報道部で食の安全や健康・医療問題などを担当。2018年6月に退社。
現在は東京理科大学非常勤講師。食生活ジャーナリストの会代表。著書に「メディア・バイアスの正体を明かす」(エネルギーフォーラム)など多数。

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