これでいいのか?日本の健康食品制度(1)【座談会】通知改正を踏まえて考える「製造・品質管理」のあり方
厚生労働省は今年3月14日、健康食品の安全性確保に関わる2通知を廃止し、新たな通知を発出した。
「いわゆる『健康食品』・無承認無許可医薬品健康被害防止対応要領」、「『錠剤、カプセル剤等食品の原材料の安全性に関する自主点検及び製品設計に関する指針』及び『錠剤、カプセル剤等食品の製造管理及び品質管理(GMP)に関する指針』」の2通知は、原材料から最終製品まで、安全性確保のための製造・品質管理に関する指針として運用される。
奇しくもその直後、小林製薬の紅麹関連製品の自主回収問題が起きた。同座談会は2月27日に開催したものだが、これらの問題を先取りするかたちで重要な課題を突き付けている。(本文:敬称略)
<司 会>
東京大学名誉教授 食の信頼向上をめざす会 代表 唐木 英明(からき ひであき) 氏
<パネラー(順不同)>
(一社)ウェルネス総合研究所 理事
㈱グローバルニュートリショングループ 代表取締役 武田 猛(たけだ たけし) 氏
(一社)日本栄養評議会(CRN JAPAN)副理事長 (一社)健康食品産業協議会 理事 ユニキス㈱常務取締役執行役員 大曲 泰史(おおまがり やすし) 氏
(一社)健康食品産業協議会 副会長 (一社)日本栄養評議会(CRN JAPAN) 副理事長 (公財)日本健康・栄養食品協会 理事 ㈱ユニアル 副社長 原 英郎(はら ひでお) 氏
我が国の製造・品質管理には国の関与がない?
唐木 サプリメントの製造品質管理レベルは今後高まるのか?「平成17年改正通知」を踏まえてというテーマについてご意見を聞かせてください。17年通知はご存知のとおり事業者向けの通知でして、その内容は錠剤カプセル状の食品の適正な製造のためのGMPの採用ということで、錠剤カプセルがターゲットになっている。
これもご存知と思いますが、かつては錠剤カプセル状の食品は禁止されていました。ところが2001年にそれが解禁された。1994年にアメリカでDSHEA(ダイエタリーサプリメント健康教育法)が成立してサプリが広がってきた。そのほとんどが錠剤・カプセル形状だった。それを日本に輸出できない。ここで日米経済摩擦のバトルが始まり、日本は2001年に解禁した。ですから厚労省としては、今も錠剤カプセルは禁止をしたいという意向を持っているのでしょう。
それからアメリカは、DSHEAを引き継いだ法律で、健康食品は全てcGMPの対象になっているけれど、日本は最近になって、指定成分だけはGMPを義務化したが、いわゆる健康食品の錠剤・カプセル形状サプリについては規制がなかった。今回、厚労省の執念で義務化をする第一歩としてやっているのではないかと感じていますが、どうお考えでしょうか。事業者から見た平成17年改正通知において、ここが優れている、あるいはここが課題だと思う点。それから業界がそれに対応できるのか、例えばできない時はどうするのか。そしてアメリカのDSHEAにおける製造・品質管理規定と日本との比較について伺います。
武田 はい。今回の改定で、ルールの内容自体はかなりレベルが上がったと思います。まず原材料の安全性確保と、次に適切な商品製品設計ですね。そして製造の品質管理体制、この3段階で出来ています。非常に分かりやすい構造だと思っています。一方で、これは原材料の扱い方になるかと思うのですが、アメリカではダイエタリーサプリメントの場合はNDI(New Dietary Ingredient)に該当する新規原料は販売75日前までにFDAに安全性のデータを提出する決まりになっています。
また、一般食品に関してはGRAS(Generally Recognized As Safe:一般的に安全である)確認が必要であるという、それぞれに厳格なルールがあります。例えば日本企業がアメリカ進出するときにNDI申請するとなると数百万円、場合によっては数千万円の費用がかかります。グラスだったらもっとかかったりします。それぐらい企業はお金をかけてその安全性を立証しています。
ルールができたとしても、これを運用する時にどのレベルまで各企業の判断に任すことができるのか、それに国が目を通さないというのは他の国とは少し違いますので、レベルの一体感というか、そういうものがなかなか揃わなければ企業によって一生懸命やる企業もあれば、通り一遍のことをやるというように、差が出ることを懸念しています。特に食品の安全性に対して国の関与がないというのは世界でも珍しい制度だと思います。そのあたりが今後、業界としてどのように取り組んでいくのかなというのは気にはなっているところです。
唐木 国の関与がないというのは、機能性表示食品の問題ですか、健康食品GMP(以下、GMP)の問題でしょうか?
武田 全てですね。GMPについては認証機関がありますけれども、実際に厚労省なり保健所が査察するわけではない。アメリカの場合は、FDAがそれを抜き打ちで査察します。それから機能性表示食品の安全性も企業が自ら評価をして、それで届出ができる。法の建付け上、消費者庁は書類をチェックするだけです。実際に安全性で差し戻しを受けたなどという話はあまり聞いたことがないので、安全性に関しては表面的な部分しか見られていないと思います。
一方、諸外国は必ず当局の目が入りますし、サプリメントの法的定義がないのは日本と中国と韓国と台湾だけなのです。でもカプセル・錠剤タイプのものは、中国では保健食品として申請しなさいというふうに指示されますし、台湾の場合は別枠で事前の申請許可が必要になりますのでカプセル・錠剤タイプのものは別に扱われているのです。日本はそれを一緒に扱っているというのが、今後の課題になると思います。
平成17年改正通知の優れた点は?
大曲 平成17年改正通知の優れている点というと、安全性の方はこれまではどちらかというと、原材料の事業者にかなりフォーカスを当てて自主点検しなさいという流れだったと思います。今回の内容では、サプライチェーンの全ての立ち位置でそれぞれが皆、自主点検をしろという建付けになりました。また、製品設計というところの重要性というのも含まれたことになるので、最終製品における安全性の担保という点においては、以前より良くなっていくのかなと期待したいところです。
それからGMPですけど、こちらについてはもともと、(公財)日本健康・栄養食品協会(以下、日健栄協)と(一社)日本健康食品規格協会(以下、JIHFS)という2つの認証機関の下で多くの事業者や工場がGMPとして運用していますので、今回求められているところについては、運用してきた事業者にとっては、割とごく普通のことだと思います。ただ、GMPという言葉がちゃんと明記されていて、特に今回の場合はその中で具体的に何をやりなさい、例えばバリデーションとか、いろんな言葉が出てきており、こうやらなければいけないというのが明文化されたところに今までとの違いを感じます。
平成17年改正通知には課題も
課題としては、先ほどの武田さんのお話とも重複するところがあると思いますが、安全性に関しては自主点検ですので、この改正通知のパブコメのやり取りの中で厚労省ともやり取りをさせていただく中で意見を言わせてもらいました。本当の意味で安全性を評価するには事業者だけではけっこう限界がある。ですが、今回に関してはとりあえず「自主点検というところで十分」という厚労省側の回答でした。そうなのですね、というところではあるのですが、課題という点では今後も残るのかなと思います。
また、主に規模の小さな会社における課題になると思うのですが、安全性自主点検であったり、GMPを運用するために必要なリソース、つまり「ヒト」、「モノ」、「カネ」の問題ですね。これがないところが、こういう運用を適切にできるのかというのが第2の課題かなと思います。「やることはやれ」というのは明文化できたのですが、例えば、文献検索にしても、今まさにナチュラルメディシン・データベース(NMDB)の著作権問題などあって、国立健康・栄養研究所(以下、国立栄研)の安全性・有効性情報(以下、HFNet)が使えないという状況の中で、例えば検索をする論文を読む、英語がきちんとできるという能力がある人材がそもそもそれらの事業者にいなければなかなかしんどい状況で、多分、そういうリスクが大きいのは大きな会社より小さな会社だと思います。どこまで適切にやれるのか、心配の種ではあります。
もう1つは業界団体に関する問題です。当社も(一社)健康食品産業協議会(以下、産業協議会)とか日健栄協とかCRN JAPAN(以下、CRN)などの業界団体に加入していますが、加入企業は情報入手を適切に行ったり、自発的に取り組む会社が多い。他方、どこにも所属していないような企業が今回の改正通知に対して、その存在を知っているのかという点が気になります。当然、知らなければ守るわけがないので、この問題に限らずですが、この点については業界団体を含めて、官民一体となって情報発信のあり方について取り組む必要があるのではないでしょうか。
改正通知は健康食品GMP制度を深堀り
原 平成17年改正通知が優れている点は、GMPという制度自体を具体的に深掘りして通知の中で表現してあるところではないでしょうか。大曲さんもお話しされたように、やっているところはすでに取り組んでいる内容と思います。ただ、実際にはGMPや原材料・製品の品質管理に関してはマンパワー不足ですとか、企業リテラシーの観点からなかなか対応できていないところもある。顕在化していないけれども、問題が発生しうる可能性がある企業や原材料・製品に対してどのようにしてこの通知をしっかり理解した上で届けていくか、というところは課題としてあると思います。そういう意味では、我々が所属する業界団体がいかにして所属していない事業者にこの通知またはその中身や意図、背景を共有していくかというところは非常に大事な点です。
特に今回は、中間品の取り扱いだったり、対象原材料だったり、従来のものに比べて品質的にチェックすべき事項の範囲がかなり拡大している印象です。事業者としては通知の変更点、さらに今後、行政がどういう観点で安全性を確保しようとしているのかという意図を通知から先読みし、安全性をしっかりと踏まえた安定したモノ作りをどうしていくか、業界団体側の自主的な管理が最も求められます。それをきちんと予見して対応するということが大事ではないでしょうか。ただ、GMP自体も国の関与のあり方ですとか、健康食品業界の線引きですとか、健康食品の定義も含めて議論しなければならない課題があります。
安全上管理すべき成分とは何か?
さらに今回、安全上管理すべき成分というのが何なのか、判断は事業者によって大きく異なってくるかなと思います。そういった意味では、今回の通知改正というのは事業者の責務というか、どこまで自分たちで自分の襟を正してしっかりと判断していくかというところが問われていると思います。それだけに、アカデミアの先生方のご意見を聞きながら、我々自身が主体となってその線引きを考えていく、または決めていく必要があると思います。最終的に事業者は消費者とコミュニケーションを取りますので、消費者のリテラシーを向上させる前に、まず事業者がしっかりと安全性というものが何かということを理解し、食経験の考え方や安全性評価の試験方法というものを見直して、業界としてここがラインだよというものを明確に探り続けていくことが非常に大事だと考えます。中小企業がどこまで対応できるか、実際に地域の零細企業が通知に準じて流通させられるのか、例えば何百年続いている伝統的な造り酒屋さんが日本酒由来の抽出物、発酵物を原材料として製造・販売する際にGMPをどう運用していくのかみたいな、そういう現実的なところもシステマティックに議論していかなければならないのではないでしょうか。
(つづく)
【文・構成:田代 宏】
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