25年版「食事摂取基準」報告書案示す フレイルは「疾患」の条件満たさず
厚生労働省は6日、第5回「日本人の食事摂取基準策定検討会」を開催した。今回、厚労省が取りまとめた報告書(案)について審議した。
健康増進法に基づき5年ごとに改定が行われている同基準だが、2025 年版は、総論と各論で構成。総論は、指標およびその活用に関する基本的な事項を、各論はその中に「エネルギー・栄養素」、「対象特性」、「生活習慣病及び生活機能の維持・向上に係る疾患等とエネルギー・栄養素との関連」の節に分けて記載された。
同基準は25年度の実施となる。健康増進法に基づき、目標値などの値については来年度中にパブコメを実施する予定。
検討会では、事務局(厚労省)が同基準の位置付けと役割について説明した。
前検討会において、骨粗しょう症とともに「生活習慣病および生活機能の維持向上に係る疾患等とエネルギー栄養素との関連」の章で扱うことが検討されていたフレイルについては、疾患の条件を満たさなかったために引き続き「高齢者」の項で扱うこととなり、フレイルに関する記述もこの項に含まれることとなった。
総論においても、「現在のところ世界的に統一された概念は存在せず、フレイルを健常状態と要介護状態の中間的な段階に位置づける考え方と、ハイリスク状態から重度障害状態までをも含める考え方があるが、食事摂取基準においては、食事摂取基準の対象範囲を踏まえ、前者の考え方を採用する。また、疾患を有していたり、疾患に関する高いリスクを有していたりする個人及び集団に対して治療を目的とする場合は、食事摂取基準におけるエネルギー及び栄養素の摂取に関する基本的な考え方を必ず理解した上で、その疾患に関連する治療ガイドライン等の栄養管理指針を用いることになる」と説明している。
佐々木敏座長は、報告書をまとめるに当たり、苦心した以下の3点に言及した。
①栄養素の間の指標の定義が統一されていないために、1つの指標の名前、例えば推定平均必要量であってもそのリスクの大きさが栄要素においてはなはだしく異なる場合がある。測定方法や数値算出根拠の統一をどこまで測れるか検討。バイオマーカー生体指標の活用が栄養学の分野で世界的に相当進んでいるためそれをどこまで食事摂取基準に反映できるか、文献の検索と読解を行い、その結果を反映した。
②日本食品標準成分表の8訂における栄養素の定義のアップデートについて、食事摂取基準が扱う健康影響との関連に関しては過去の研究調査報告事例を用いることになる。ワーキンググループが調べたものは過去の食品標準成分表または類似のものを使ったもの。一方、9訂・食事摂取基準を使う時代は次の日本食品標準成分表の時代。この時代のギャップをどう考えるかというところが大きな争点となった。しかし、分からない数字は書けない。あくまでも今のエビデンスはこう。食品標準成分表の7・8訂との違いはこうだというところを整理し、その中で活用することを丁寧に総論の中で書き込むことにした。
③これは摂取基準であって給与基準ではないという理解が大切。つまり料理がされた後のもので料理がされる前ではない。調理、食品加工における栄養素の変化量、または変化率を勘案したものでなければならない。各論で示している数値は、摂取の数値であって、原材料調理前のものではない。
続いて、朝倉敬子副座長が策定の際の変更点について資料(「日本人の食事摂取基準(2025 年版)」策定検討会報告書(案))に沿って、約30分にわたり改正ポイントを解説した。概要は以下のとおり。

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資料3P 食事摂取基準で示されるエネルギーおよび栄養素の基準は、6つの指標から構成される。エネルギーの指標は「BMI」、栄養素の指標は「推定平均必要量」、「推奨量」、「目安量」、「目標量」、「耐用上限量」となる。
33P 総論4-2-6、「日本人の食事摂取基準2020年版」の策定後、わが国で唯一の公的な食品成分表である「日本食品標準成分表2020年版」(8訂)が策定された。同版による栄養計算結果の特徴を踏まえた検討を行った結果、現在入手可能な研究結果等が、主に「日本食品標準成分表2015年版」(7訂)相当の方法で計算されたエネルギー量やエネルギー産生栄養素量を使用していることから、指標値は、「日本食品標準成分表2015年版」(7訂)に基づき計算されたエネルギー栄養素摂取量に対応するものとして策定した。加えて食品成分表の活用に関しては、調理損失に関する考え方についても追記をしている。以上が総論となる。
各論の「エネルギー」について。
61から62P 3-2-4目標とするBMIの範囲。BMIについては、目標とする範囲を定めた。この目標とする範囲は62ページの表に示している。目標とする範囲は、総死亡率をできるだけ低く抑えると考えられるBMIを基本として定められている。2025年版では、BMIに加え、主な生活習慣病の有病率、医療費、高齢者における身体機能の低下、労働者における身体機能低下による退職との関連なども考慮して設定。
84P エネルギー必要量には、無視できない個人差が存在。そのため性年齢区分、身体活動レベル別に単一の値としてエネルギー必要量を示すのは困難。そこで、エネルギー必要量については、基本的事項、測定方法および推定方法を記述し、推定エネルギー必要量を参考表として示している。エネルギーに関しては、変更点以上となる。
1-94P「たんぱく質」1-2タンパク質3-1欠乏の回避の項 タンパク質の推定平均必要量1歳以上に関しては、窒素出納法で得られたたんぱく質維持必要量を用いて策定。
95P 1-2たんぱく質3-1-1の3指標アミノ酸酸化法。
たんぱく質を構成している各アミノ酸、特に不可欠アミノ酸の必要量も重要だが、現在、アミノ酸の必要量を設定するための量・質ともに十分なエビデンスが存在しないことから、2020年版で掲載していた参考資料不可欠アミノ酸の必要量は削除。
100P 1-2タンパク質3-2-1対応上限量の策定方法。対応上限量は、最も関連が深いと考えられる腎機能への影響を考慮すべきだが、基準を設定し得る明確な根拠となる報告が十分ではないことから設定せず。
102P 1-2タンパク質、3-3-2、目標量の策定方法。目標量はたんぱく質摂取量が低すぎても高すぎても、他のエネルギー産生要素とともに、主な生活習慣病の発症予防および重症化予防に関連することから、範囲として設定した旨が記述されている。
103P 3-3-3「エビデンスレベル」
たんぱく質の目標量のエビデンスレベルは、摂取した栄養素の量を評価した研究が非常に限られていることから、エビデンスレベルをD2とした。
111P タンパク質の食事摂取基準の一覧。策定値は示してあるとおり。
114P 1-3脂質2の指標設定の基本的な考え方。
脂質の目標量の主な目的は、飽和脂肪酸の過剰摂取を介して発症する生活習慣病を予防することにある。上限は飽和脂肪酸の目標量の上限を考慮して設定。一方、下限は必須脂肪酸の目安量を下回らないように設定。
137P 1-3脂質の食事摂取基準の表。
総脂質の策定値は示したとおり。
138P 1-3脂質「飽和脂肪酸の食事摂取基準」
飽和脂肪酸は生活習慣病の発症予防の観点から、3歳以上で目標量上限のみを設定。コレステロールは脂質異常症の重症化予防の目的からは200mg/日未満に留めることが望ましい旨を、脂肪酸の策定値の表の脚注に記載。
また、トランス脂肪酸は人体にとって不可欠な栄養素ではなく、健康の保持増進を図る上で積極的な摂取を進められないことから、その摂取量は1%エネルギー未満に留めることが望ましく、1%エネルギー未満でもできるだけ低く留めることが望ましい旨を飽和脂肪酸の策定値の表の脚注に記載。
139~140P N-6系脂肪酸、N-3系脂肪酸の食事摂取基準の表
N-6系脂肪酸およびN-3系脂肪酸は、必要量を算定するための研究は十分存在しないため、現在の日本人の摂取量の中央値に基づいて目安量を設定。
143P 1-4炭水化物「指標設定の基本的な考え方」の2-1
炭水化物の目標量は、炭水化物、特に糖質がエネルギー面として重要な役割を担っていることから、アルコールを含む合計量として、たんぱく質および脂質の残余として目標量の範囲を設定。
143P 2-2糖類に関する記述
糖類のうちでも、added sugar(添加糖類:食品の調理加工中に添加された糖類やシロップ)、食品の調理加工中に添加された糖類やシロップとfree sugar(遊離糖類)、added sugarに、果汁を加えたものの健康影響が多く研究されており、WHO等での糖類摂取の基準値は多くの場合、added sugarまたはfree sugarに対するものである。我が国では、日本食品成分表に4食品標準成分表に単糖や2糖類等の成分値は収集、収載されているが、added sugarやfree sugarの値は示されておらず、摂取量の把握が困難であることから、糖類の基準の設定は見送っている。
146P 1-4炭水化物、4食物繊維の項
食物繊維は摂取量不足が、生活習慣病の発症率または死亡率に関連していることから、3歳以上で目標量を設定。食物繊維の理想的な目標量、成人では25g/日以上と考えられるが、現在の日本人の摂取実態を鑑み、その実行可能性を考慮して、これよりも低い値や目標量として設定をしている。
148P 1-4炭水化物4-1-1-3食物繊維測定法の変化を踏まえた目標量のとらえ方の記述。日本食品標準成分表2020年版(8訂)における食物繊維の測定方法の変更を踏まえて、食物繊維の目標量の捉え方について記載。
158P 1-5「エネルギー産生栄養素バランス」4-3アルコールの項
アルコールに関する技術はこれまで炭水化物の項に記述していたが、今回はアルコールの部分はエネルギー産生栄養素バランスの項に移動。アルコールは科学的にも栄養学的にも炭水化物とは異なることから、炭水化物の項で扱うのではなく、エネルギー産生栄養素バランスの項においてその扱いを説明する。
161P 1-5エネルギー産生要素バランスの一覧
策定値は一覧表に示したとおり。
170P 1-6 ビタミン(1)脂溶性ビタミン
ビタミンDに指標設定の基本的な考え方の項。ビタミンDについては、ビタミンDの皮膚での合成も加味したスカンジナビア諸国、北欧諸国の食事摂取基準に基づいて目安量を設定をしてい
る。
196P 1-6ビタミンの脂溶性ビタミンに関する食事摂取基準の一覧
策定値は一覧表に示したとおり。
ビタミンAについては、肝臓内のビタミンAの貯蔵量を維持するために必要なビタミンAの最低必要摂取量を用いて、推定平均必要量を設定し、またレチノールの過剰摂取による肝臓障害を対象に、対応上限量を設定。
197P ビタミンD
目安量を設定。また、高カルシウム血症を対象に耐用上限量を設定している。
198P ビタミンE
目安量を設定。また、血液凝固に基づいて対応上限量を設定。
199P ビタミンK
健康な人を対象とした観察研究をもとに目安量を設定。
202P 1-6 ビタミン(2)水溶性ビタミン
ビタミンB1は、赤血球トランスケトラーゼ活性とビタミンB1摂取量との関係に基づいて、不足の回避に必要な摂取量をもって推定平均必要量を設定。
221P ビタミンB12は、血中の生体指標を用いて体内の栄養状態を維持できる量から目安量を定める方法へ変更。
238P マルチビタミンCに関する記述
ビタミンCは血漿アスコルビン酸濃度を、国内の臨床検査で一般に用いられている基準値に基づき、不足を回避するための摂取量として推定平均必要量を設定。
252P以降は水溶性ビタミンに関する策定時の一覧表を掲載。
ビタミンB2に関しては、2020年版と同様、体内量が飽和する最小摂取量をもって推定平均必要量を設定。ビタミンB1とB2に関しては同年までは同じような定め方がされていたが、2025年版では異なる。
254Pナイアシン
欠乏の症状を予防できる最小摂取量をもって推定平均必要量を設定。サプリメント由来のニコチンアミドまたはニコチン酸の量で上限量を算定。
ビタミンB6は体内量が維持される摂取量をもって推定平均質量を設定。
ビタミンB12は、栄養状態を示す生化学的指標に基づいて、目安量を設定。
葉酸は、欠乏の症状を予防できる最小摂取量をもって推定平均必要量を設定。また葉酸のサプリメントや葉酸が強化された食品から摂取された葉酸に限り、耐用上限量を設定している。
パントテン酸は、日本人の摂取量に基づいて目安用を設定。
ビオチンは、日本人の摂取量に基づいて目安量を設定。
ビタミンCは先述のとおり、策定の基本的な考え方の変更により策定値も見直しを行っている。
261P 1-7 ミネラル(1)多量ミネラル
多量ミネラルではナトリウム、食塩摂取量について、摂取実態と実行可能性を踏まえた上で、高血圧および慢性腎臓病の発症予防の観点から1歳以上で目標量上限を設定。また、高血圧症および慢性腎臓病の重症化予防のために摂取すべき量も、国内外のガイドラインを踏まえて設定。
カリウムは、WHOが提案する高血圧予防のための望ましい摂取量と日本人の摂取量に基づき、3歳以上で目標量下限を設定。
カルシウムは、要因加算法を用いて推定平均必要量を設定。また、ミルクアルカリ症候群、カルシウムアルカリ症候群の症例報告を参考に、耐用上限量を設定。
マグネシウムは、不足や欠乏を招く摂取量を推定することは難しいため、出納試験によって、マグネシウムの平衡を維持できる、必要量をもとに推定平均必要量を設定。また、下痢の発症に基づき耐用上限量を設定。
309~310Pの1-7 ミネラル(2)微量ミネラル「指標設定の基本的な考え方」
鉄については、要因加算法を用いて別の吸収率の見直し等を行った上で、推定平均必要量を設定。
317P 3-2-2耐用上限量
鉄の対応上限量に関しては、諸外国での食事摂取基準の議論を総合的に考慮して耐用上限量を設定するためのエビデンスが不十分であるという結論に至ったために、耐用上限量を設定しないことになった。
371~378P 微量ミネラルの策定値一覧。
亜鉛については、要因加算法を用いて推定平均必要量を設定。耐用上限量を設定。
銅については、銅の平衡維持量と血漿・血清銅濃度を銅の栄養状態の指標として、平均推定平均必要量を設定。耐用上限量を設定。
マンガンは日本人の摂取量に基づき目安量を設定いたしました。また、耐用上限量も設定をしております。
ヨウ素は、米国人の甲状腺ヨウ素蓄積量の研究結果に基づき、推定平均必要量を設定した。また、耐用上限量を設定。
セレンは克山(ケシャン)病の予防の観点から、推定平均必要量を設定。耐用上限量を設定。
クロムは日本人の摂取量をもとに目安量を設定。耐用上限量を設定。
モリブデンは、アメリカ人男性を対象に行われた推定出納実験をもとに、汗・皮膚からの損失量を考慮して推定平均必要量を設定。耐用上限量も設定。
505P 3-2 生活機能の維持・向上に係る疾患等 (1)骨粗鬆症
今回、骨粗鬆症が新たに追加された。骨粗鬆症については、カルシウム、ビタミンD、たんぱく質についての骨粗鬆症の発症予防および重症化予防との関連についての記述を行っている。
また、前回の検討会で検討されていたフレイルについては、既述のとおり対象特性「高齢者」の項に記載された。
以上
【田代 宏】
資料はこちら(消費者庁HPより)
(文中の写真:佐々木敏座長)