長い培養期間、リスク把握しきれず 4カ月半ぶりの会見、小林製薬前社長が反省の弁
紅麹事業から撤退
小林製薬㈱(大阪市中央区、山根聡社長)は8日、取締役会で紅麹事業からの撤退を決め、発表した。同社の旧大阪工場で製造した紅麹原材料に関わる重大な健康被害問題を受け、原因の特定に至っていない中で、撤退を決めた。
同社は同日午後、記者会見を開いた。小林章浩前社長は、「通常よりも長く培養することで、成分(モナコリンK)を多く抽出できるようにする製法を取っていた。そのリスクを十分に把握しきれずに、生産における十分な対応ができなかった可能性がある」と反省の弁を述べ、菌に由来する天然抽出物の製造や品質に対する知識や認識が不足していたことを示唆した。
同社によれば、旧大阪工場の紅麹原材料製造ラインでは、およそ50日間に及ぶ培養期間を設定していた。「その長い培養工程で青カビが混入・増殖した結果、プベルル酸等が産生したと推定している」と同社は説明。青カビの混入を許した理由については言及しなかった。ただ、「衛生管理や手順書の不備、品質管理上のリソース不足等も原因の1つと考えている」とし、衛生管理や品質管理などが十分ではなかったと認めた。今後、「製造ラインの問題を全て洗い出し、再発防止策を講じる」という。
山根新社長、健康食品業界各社にも謝罪
同社が会見を開くのは3月29日以来、4カ月半ぶり。会見には、8月8日付で代表取締役に就任した山根聡前専務取締役、同日付で補償担当の取締役に就任した小林前社長らが出席した。山根社長は冒頭、死亡者やその遺族、健康被害を受けた人々などに対する謝罪を述べる中で、同社が起こした健康被害の問題が「機能性表示食品の在り方にも影響を与えた」とし、消費者庁などの行政機関をはじめ健康食品業界各社に「迷惑をかけてしまった」と陳謝した。
紅麹事業からは撤退するが、サプリメントなどヘルスケア事業は継続する。会見の質疑応答で「その資格はあるのか」と問われた山根社長は、「健康に貢献できる事業を存在意義」とするのが小林製薬であるとし、「品質を軽視する考えは持っていない。改めるべきところは改める。再チャレンジさせてほしい」と訴えた。
また、日本製のサプリメント全体に対する「信頼を損なったという意識はあるのか」という問いに対しては、「業界にも迷惑をおかけした。自らの在り方を見直し、業界に貢献していかなければならないと思っている」と述べるにとどめた。一方、小林前社長は、今回の健康被害問題は「われわれの紅麹原料に特有の問題であったことをご理解いただきたい」と述べ、他社が製造する紅麹はもとより、他の機能性表示食品やサプリメントに「リスクがあるということではない」と訴えた。
紅麹事業から撤退した後も、健康被害を受けた消費者や原材料取引先への補償をはじめ原因究明を続ける。補償について、同社のグループ会社などから紅麹原材料の供給を受けていて、自主回収を行うことになった事業者への対応は、4月から順次、個別に進めている。消費者への補償は、今月19日から本格的に開始する。原則として、「相応の因果関係」が認められる消費者を対象に補償するという。
【石川太郎】
(冒頭の画像:8日に大阪市内で開催された会見の様子。左が山根新社長、右が小林前社長。読売テレビニュース配信動画をキャプチャ)
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