紅麹サプリ事件の死角に迫る 昨夜放送、NHKスペシャル
健康ブームの死角とは? 真相は? きのう9日夜、NHKスペシャル「追跡・“紅麹サプリ”健康志向の死角に迫る」が放映された。
重篤な腎障害を患った患者の訴えをプロローグとし、それに続いて森下絵理香アナウンサーが「健康でいたいという思いから、薬局で手軽に手に入るサプリメントは病気を治す『薬』ではなく分類上は『食品』なんです」と説明。特に社会に衝撃を与えた小林製薬の『紅麹コレステヘルプ』は、効果を商品に表示できる機能性表示食品だったとして「死角」の解明に入っていく。
「安全性」「制度設計」の死角
サプリメントの過剰摂取による重篤な病状をもたらした「安全性」、「制度設計」、「サプリメントの特性」などの死角について、それらの盲点を突いた機能性表示食品の品質確保や広告表示などが抱える問題を明らかにしていく。
取材は大阪を起点に、岩手・東京・静岡・沖縄・イタリア・フランスまで広範囲にわたり、サプリメント全体の規制のあり方について分かりにくい我が国の制度と、厳格な海外の制度との比較も行っている。
リスクの「見える化」へ挑戦
売上の拡大を目指し、桑葉由来の機能性関与成分で機能性表示食品の開発を考えているという岩手の㈱精茶百年本舗(岩手県一関市、清水崇弘社長)が紹介された。桑葉には、食後の血糖値を下げる医薬品成分DNJが含まれている。
ところが同社は、紅麹サプリ事件の発覚を受けて自ら拙速を戒め、慎重な対応に切り替えたという。機能性表示食品は研究レビューによる届出は容易だが、企業の負うリスクも高いと考え直したという。今後、「リスクを見越して対策していく必要があるのではないか」とし、まだ見えていないリスクを見える化していくために、自主的な試験を実施し安全性を確認していく道を選んだ。
責任は届出者にあるという「覚悟」を
コンサルタントの勝田徹氏(食品機能研究所代表)は表示のあり方を懸念する。「多めにお召し上がりいただいても安心です」という表示の相談について、“多めに”という表示は過剰摂取につながる恐れがあるとして、同氏は番組の中で届出者にアドバイスを送っている。他にも、行き過ぎた広告表示として認知症改善などのような「病気に効果があるかのような表示」にも注意するよう指摘する。
「どんな機能があるかを書くと売上は倍になる。だから無理する会社もあるかもしれない。食品の安全と品質と表示、これに対する責任は全部自分たちにある。そういう覚悟がない会社が増えてきていることは心配」
「信頼性の低い」研究レビューが横行
研究レビューや臨床試験に対する批判も紹介した。
東京農業大学の上岡洋晴教授は、2022年に届出された論文から40報を無作為に抽出、論文の収集や評価方法について国際的なガイドラインに照らして評価したところ、40件中38件に対して「極めて信頼性が低い」という結果が出た。
染小英弘医師による臨床試験に対する指摘は、ウェルネスデイリーニュースでこれまでにも報じてきた。国内の食品CRO機関5社がUMIN登録した機能性表示食品に関する論文32報と、それらの論文を利用した8社11件の広告およびプレスリリースについて調査を進めた結果、論文やその論文を引用した6社8件の広告やプレスリリースにスピンが認められたとしている。臨床試験2報を取り上げて、試験結果と広告表示とのギャップを具体的に解説している。
番組ではECサイトで購入した40製品について独自調査も行っている。このうち11製品が景品表示法違反の疑い、2製品について医薬品医療機器等法違反の疑いが認められたという。
検討会方針を先取りした工場も
「機能性表示食品を巡る検討会」で政府は、今後の対策の1つとしてサプリメントに対して「厳しい規範による製造管理」を求めているが、これらを先取りした製造工場として㈱オムニカ(静岡県裾野市、高尾久貴社長)が取り上げられた。同工場は5年前から原材料GMPを導入し、原料から製品までを一貫して規格どおりに製造している。また、健康被害が起きた時にさかのぼって原因を究明できるように製造工程を全自動システム化し、過去の記録を保管している。
高尾氏は、「工程中に問題がなかったという証拠になる材料をいっぱい残しておけるというのは企業として大変有利。品質管理のポイントを増やしていくと、総合的にコスト、リスクという点で経済的な効果がプラスになる」と述べている。
番組ではEFSA(欧州食品安全機関)の取組やフランスの食品環境労働衛生安全庁(ANSES)における健康被害報告に対する取り組みなども紹介した。
機能性表示食品制度に対し、「狙いと実態に差がある」と指摘する森下アナウンサー。機動力のある豊富な取材によって番組ではさまざまな問題にメスを入れ、今後の課題を浮かび上がらせた。同番組は「NHKプラス」で16日まで見逃し配信中だ。
【田代 宏】