機能性表示食品、SRは大丈夫? 「日経クロステック」の疑義に識者が答える(後)
技術系デジタルメディア『日経クロステック』は先月、「機能性表示食品制度の瑕疵(かし)」と題して、多くの食品メーカーが機能性の科学的根拠として不十分な臨床研究論文を作成しているという批判記事を連載した。ウェルネスニュースグループでは14日、同記事が指摘する問題点を検証、対策と今後の展望を探るためのセミナーを開催するが、同セミナーで講師を務める東京大学名誉教授の唐木英明氏に話を聞いた。(文中敬称略)
――日経クロステックの記事を読んだ印象は?
唐木 残念ながら、指摘の大部分はそのとおり。
――問題点について、それぞれ具体的にお話しください。
唐木 食品成分の薬理作用は小さく、プラセボ対照RCTにより統計的有意差を得ることは簡単ではない。有意差を得ようとして、統計の常識的な許容範囲を逸脱したものと考える。このような逸脱はかなり広い範囲で行われているようだが、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」という風潮が広がることは、消費者の信頼を失いかねない深刻な事態と考えている。
――事業者の中には、そもそも医薬品と食品ではステージが違う。ガイドラインにもあるとおり、ほとんどの臨床試験で健常者が対象。これでは有意差がつきにくいとの意見がある。また、関与成分も食品の場合、単一成分ではないとの反論も。
唐木 そのとおり。食薬区分の原則に従って、医薬品の有効性試験法をそのまま流用するのではなく、食品の特性に合った独自の有効性試験法を確立すべきだ。
――届出に詳しい関係者の中には、日経クロステックが指摘する多重検定だと、届出公開されている5,000件の半数以上が問題になる。人によると「届出のほとんどが引っかかる」と話している。対応策として、届出ガイドラインの遵守、検証事業報告書の理解などが求められる中、これとて対症療法に過ぎないとの声も。医薬品と食品のステージの違いを前提とした届出を行うための、根本的な解決策というのはあるのでしょうか?
唐木 とりあえずは対症療法が必要。届け出資料の不備が大きく報道されることで消費者の信頼を失えば、制度そのものの存在が危うくなる。
加えて、中・長期的対策が必要になる。それが試験法の見直しだ。
プラセボ対照RCTは、医薬品の効果から薬理作用だけを分離する方法であり、医薬品の許認可には必須。しかし、薬理作用の大きさと使用者が実感する医薬品の効果とは大きな乖離があることについては多くの論文がある。従って、薬理作用の検出と、医薬品の効果の大きさとは別のものと考えるべきである。
そこで健康食品の効果判定だが、薬理効果だけを分離する必要性は全くない。「効果=直接効果(薬理効果)+間接効果(心因効果)+自然治癒」である。使用者は直接効果と間接効果を区別することはできず、またその必要もなく、2つの効果の合計を健康食品の効果だと感じている。健康食品には、使用者の使用実感の大きさを示す効果判定法が必要であり、それが消費者の商品選択の大きな手掛かりになる。
したがって健康食品の場合は、自然治癒だけを除外できる試験を行えばよい。そのために、プラセボ対照RCTではなく、無処置対照RCTを使用すべきと考える。機能性表示食品の届出等に関するガイドライン「(3)臨床試験(ヒト試験)に係る提出資料」、また別紙4「システマティックレビュー(systematic review: SR)の実施手順に係る考え方(例)」の臨床試験の項に、プラセボと並べて「何しない」との記載がある。
(了)
【田代 宏】
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