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巡る検討会「報告書」の落とし穴 【寄稿】原材料GMPの義務化はスルー?

 紅麹製品による健康被害の発生を受けて設置された「機能性表示食品を巡る検討会」は5月27日に報告書を発表して3つの提言を行った。「機能性表示食品による健康被害情報の行政への報告の方法を明確にすること」、「錠剤・カプセル形状(サプリ形状)の機能性表示食品の製造工程管理を厳格化すること」、そして「機能性表示食品の特徴を消費者に明確に伝えること」だが、ここでは製造工程管理の厳格化について述べる。

 機能性表示食品届出ガイドラインでは、機能性表示食品のうちサプリ形状の製品についてはGMPによる製造工程管理を要望しているが、今後はそれを「法的義務」とすることとした。これは安全確保のためには一歩前進である。

検討会では義務化すべきとの意見も

 しかしそれだけでは不十分だ。紅麹事件では、紅麹製品をサプリ形状に加工する工場はガイドラインに沿ってGMPを採用していた。ところが紅麹原材料を製造する小林製薬の工場はGMPではなく一般食品に原則義務化されているHACCPを採用していた。健康食品の安全性を高めるためにはサプリ製造工場だけでなく、その原材料製造工場にもGMPを義務化すべきという意見があったが、提言には採用されなかった。

保健機能食品制度の限界

 その理由は保健機能食品制度の問題、すなわち法律上は食品と同じ扱いしかできないことである。健康食品の原材料製造工場にGMPを義務化することは、すべての食品製造工場にGMPを義務化することになる。HACCP義務化でさえ困難が多い現状では、それは実現不可能だからである。

届出者の責任で同等性・同質性担保

 提言はこの問題の対策を次のように述べている。
『今回の事案が、届出された機能性関与成分を製造する過程で産生される予期せぬ成分による健康被害の発生が否定できないことを踏まえれば、当該成分のみならず、届出された製品に含まれる成分全体の、製品規格において設定している最終製品との同等性や同質性についてできる限り確保していくことが重要となる。(中略)このため、特に機能性関与成分を含む原材料については、サプリメント形状の製品(最終製品)を製造する者がGMPに基づき当該原材料の受入れ段階で当該原材料の成分全体の同等性や同質性の考えを基本として対応することを表示責任者である届出者の責任において実施させるべきである。』

 お役所文書は分かりにくいが、要するに「最終製品の製造者が、その原材料に、機能性関与成分以外の不明な成分が入っていないことを確認する」ことが必要であり、そのために「GMPを採用している最終製品製造者」が、自身の「責任」で、「原材料の受け入れ段階」において、原材料と最終製品の「成分全体の同等性や同質性」を確認することを求めている。
 しかし、最終製品製造者が、受入れ原材料の安全性について責任を持つことは現実的ではなく、多くの最終製品製造者は、GMPを採用している原材料メーカーの製品しか使わないということになるだろう。ということは原材料メーカーにGMP採用を実質的に義務付けることになると考えられる。

 これもまた安全確保のためには一歩前進ではあるが、あくまで原材料製造工場にもGMP採用を義務付けることが正道である。そして、そのためには食品と保健機能食品を分けて規制するための措置が必要である。

サプリ法を望む複数の意見も

 健康食品は食品であり、その安全性を守る法律は食品衛生法しかない。また健康食品の定義や必要性についての規定もない。だから健康食品を一般食品と区別して特別に規制することができない。健康食品を巡る多くの問題を解決するために、健康食品のための新たな法律を制定する必要性は古くから議論され、検討会でも「サプリメント法の制定が望ましい」という複数の発言があった。

 これについて提言では以下のように述べている。
『現行の機能性表示食品制度の運用が主として届出ガイドラインにより行われており、その違反に対して食品表示法に基づく指示・命令や立入検査などの必要な行政措置を講ずることができるかが必ずしも明確でないことを踏まえれば、上記論点を議論した上で、届出ガイドラインの内容を必要に応じ見直し、法令(内閣府令又は告示)に明確に規定することが適当である。』

積み残しの課題も多く

 今回の議論は機能性表示食品の安全性に関する制度に限定され、しかも審議期間は約1月と極めて短期間であり、多くの問題が積み残された。今回の検討会をきっかけにして、健康食品制度を基本から検討すること、特に健康食品の定義、セルフメディケーションのツールとしての有用性の確認、食品とも医薬品とも違う区分への位置付け、一般食品より厳格な規制など多くの課題の解決のための法的根拠を得るために、新たな法律の制定を検討することを希望する。

紅麹事件の原因究明進む

 5月28日、厚生労働省は紅麹事件の原因について新たな事実を公表した 。その主な内容は次のとおりりである。
①健康被害が出た原料ロットからプベルル酸のほかに化合物YとZが見つかった
②小林製薬大阪工場の種菌培養室等で青カビが見つかり、大阪工場の移転先である和歌山工場でも、培養タンクのフタ内面や種菌培養室などから青カビが見つかっている。この青カビを培養したところプベルル酸が産生された。
③Yは構造式が明らかになり、Zは部分的に明らかになっているが、両者共紅麹が生産するモナコリンKに類似した構造であり、基地の天然化合物ではない。
④健康被害が出た原料をラットに7日間投与したところ、腎毒性が現れた。またプベルル酸単独でも腎毒性があった。現在、プベルル酸、Y、Zをラットに投与して90日試験を実施中。
 この発表から、紅麹事件の原因が製造工程での青カビの混入であり、青カビがプベルル酸を作り、これが腎毒性を表したという当初の推定がほぼ確実に証明された。残された問題は、犯人がプベルル酸単独なのか、あるいは紅麹が産生したYとZも共犯なのかという点だ。これはラットでの毒性試験の結果を待つ必要がある。また通常はモナコリンKを産生する紅麹が青カビと共存するとなぜYとZを産生するようになるのかという新たな疑問が出てきた。
 いずれにしろ、原材料製造工程の衛生管理が極めて重要であり、「機能性表示食品を巡る検討会」が提言したサプリ製造工場のGMPの法的義務化だけでなく、その原材料製造工場にもGMPを義務化することの重要性を改めて示している。

【唐木 英明】

<プロフィール>
農学博士、獣医師。1964年東京大学農学部獣医学科卒業。テキサス大学ダラス医学研究所研究員を経て、87年に東京大学教授、同大学アイソトープ総合センター長を併任、2003年に名誉教授。日本薬理学会理事、日本学術会議副会長、(公財)食の安全・安心財団理事長などを歴任。現在は食の信頼向上をめざす会代表。専門は薬理学、毒性学、食品安全、リスクコミュニケーション。
これまでに瑞宝章(中綬章)、日本農学賞、読売農学賞、消費者庁消費者支援功労者表彰、食料産業特別貢献大賞など数々の賞を受賞。

<著 書>
「暮らしの中の死に至る毒物・毒虫」講談社2000、「食品の安全・危険を考える」食生活 2003.7-8、「全頭検査で「安心」というBSEの誤解」週間エコノミスト2004.6.8、「「全頭検査」でBSEは防げない」Voice2004.8、「食の安全と安心を守る」学術会議叢書2005、「食品安全ハンドブック」丸善2009、「牛肉安全宣言」PHP出版2010、「食品の放射能汚染とリスク・コミュニケーション」医学のあゆみ2012.3、「福島第一原子力発電所事故の農業・畜産に及ぼす影響を考える」遺伝66(1)2012、「機能性表示食品-経緯と問題点-」食品と開発50(12)2015、「検証BSE問題の真実 」きたま出版会2018、「鉄鋼と電子の塔(共著)」森北出版2020、「健康食品入門」日本食糧新聞社2023 他多数

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