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小林製薬「紅麹サプリ」問題を議論 ビデオニュース・ドットコムに松永和紀氏

 インターネットメディアのパイオニアとして知られる日本ビデオニュース㈱(東京都品川区、神保哲生社長)が運営するビデオニュース・ドットコムが小林製薬の「紅麹サプリ」問題を取り上げた。ゲストに科学ジャーナリストの松永和紀氏を迎え、機能性表示食品制度が抱える問題点について議論した。テーマは、「人を不健康にする健康食品のリスクをそろそろ真剣に考えませんか」。

 元毎日新聞記者で食品安全委員会の委員を務める松永氏は最近、メディアへの露出が目立つ。先月はNHK関西放送局が4月26日に放送した「かんさい熱視線」にゲストとして出演し、「機能性表示食品とどう向き合う?~“紅麹サプリ”問題1か月」というテーマの下で解説している。

 神保氏らとの座談の中で、松永氏は小林問題について「ついに起きた未曽有の事態」と表現し、厳しい批判を展開した。
 同氏には『効かない健康食品 危ない自然・天然』(光文社新書)という著書がある。ジャーナリストとしての立場で参加したビデオニュース・ドットコムでもその著書が紹介された。「(業界から)クレームは来ませんでしたか?」という神保氏の問いかけに、「こんなものを書く人だと業界も分かっているから」と松永氏がさらりと受け流したところ、宮台キャスターが「藪をつつくとってやつだね、逆にね」とすかさず合いの手を入れた。健康食品に対する松永氏のスタンスをじつに分かりやすく表現した一幕だった。

 同氏は、特定保健用食品(トクホ)と栄養機能食品、機能性表示食品の違いについて説明。機能性表示食品が事業者任せの制度の中で開発されている危うさを指摘した。

プベルル酸が原因物質ではない?

 厚生労働省がプベルル酸は毒性が強いと発表したことについても異を唱えた。
「そんなことはない」と真っ向から否定し、「マラリアに効くという活性はあるが、人の腎臓に悪さするという根拠は何もない。多くのカビ毒の科学者は、プベルル酸は原因物質ではないと言っている。ただ、プベルル酸が入っていたということは何らかのカビ、あるいはカビ毒がどこかのルートで混入していたということ。現在、厚労省と国立医薬品食品衛生研究所が調べているがまだ分からない状態にある」と説明した。

生産管理の問題だけではない?

 神保氏が「今回は、健康食品には良いものもあれば悪いものもあるという以前の問題。死亡事故まで出しているというのは特殊なこと。変なものが混じっていたということだから品質管理とか企業体質とか、それ以前の問題ではないか」と松永氏に振ると、同氏は「もちろんそうだが、厚労省が今調べている方向性というのは、異物が紛れ込んでしまったという生産管理の問題があるかもしれないという他に、もう1つは元に戻って、紅麹が良くないものを作っていたかもしれない。その安全性をきちんと検討し切れないまま作っていたかもしれないという両面から調べている」と解説した。必ずしも生産管理の問題だけだとは言えない可能性を示唆した。

どこから先が健康食品?

 宮台真司氏は、時々本題から脱線しながらも、本質を鋭く突く指摘も行う。
 「皆さん、現代文のね、受験生とか現代文を習う時にレトリックのパターンっていうのを学ぶでしょう? それと同じように、投資に誘うとかね、健康食品に誘うとかいう時のレトリックを学んだ方がいい。ただのパターンなので。数少ないパターンなので学べばすぐに分かる。高齢者が買いたくなっちゃうのは、どうしても高齢者に売るために言ってるんだから。そういうあまりにも単純なレトリックなんだけど、本当を理解すれば釣られなくて済むと思う、本当に」とセールストークに気を付ければ今回の問題は起きなかったという、そもそも論を開陳した。

 また素朴な疑問として、「ビフィズス菌ヨーグルトは健康にいい。プロバイトティクスヨーグルトは健康にいい。どこから先が健康食品なのだろう?」などと、健康食品に定義がないというとても重要な問題について、素人ながらに正鵠を射た疑問を投げ掛けた。

ビタミン・ミネラル類は医薬品で摂ればいい?

 「CMなどを観て短絡的に信じてはいけないということか」と神保氏。消費者へのアドバイスを乞われた松永氏は、「ビタミン・ミネラル類はエビデンスがきっちりある。なので病院に行って血液検査とか、いろんな診断でこれが足りないですねと、これを補いましょうというふうに言われるなら、医薬品としてのビタミンとかミネラル類を摂ればいい。不足しているということがはっきりしている以上は、効く。薬としてビタミン・ミネラルがある。医師と相談しながら自分に不足するものを補うという判断はいくらでもあっていいと思うが、機能性表示食品とか、保健機能食品ではないサプリメントは、自分が本当に不足してるかどうかということが分からない」と、適切な量を摂取することができない危険性に言及した。

 司会を務める神保哲生氏は、内閣府食品安全委員会が示している「健康食品についての19のメッセージ」を紹介した。
 「ナチュラルと言っても安全ではない。過剰摂取に気をつけろ。健康食品は薬の代わりにはならない。読んだら認識が変わると思うが、(ただし)誰も見ないだろうけど」などと冗談めかした後に、にもかかわらず、小林製薬が『紅麹コレステヘルプ』を“悪玉コレステロールを下げる。L/H比を下げる”などの表示を行って売っていたことについて批判した。

ギャラを払った原稿を読んでもらってます?

 BS・CSテレビで盛んに放映されている健康食品のコマーシャルについて、具体的な成分名を挙げて、これを飲むと急にぴょんぴょんと階段を上って行く。そして「個人の感想です」と表示されるなどと紹介。「信じるでしょう?」と宮台氏に振ったところ、「信じるかなぁ。(それは)お金をもらって言っているだけ」と、宮台氏が否定。
 同氏は、「お金の流れがどうなっているかを推測することは非常に大事」とし、お金の反対側には労働がある。お金なしで「これで治ったよ」と伝えることとは動機の構造が全く違うなどと、社会学者らしい視点から否定した。

 松永氏が「“個人の感想”は専門用語で打消し表示と言うが、消費者庁は、それを消費者が受け止めていないのなら、それはダメです、有効ではないときちんと言っている」と説明した。その上で、それを消費者が知らないことを問題視し、「その構造がずっと続いている」と話した。
 打消し表示について神保氏は、「私だったら、”ギャラを払った原稿を読んでもらってます”と書く」と主張した。

 なぜ機能性表示食品市場は急伸したのか? 神保氏は松永氏に聞いた。松永氏は、「トクホ(の認証)を取るのには10年くらい開発に時間がかかる。億単位のお金が企業にかかるが、機能性表示食品は上手くすると数百万円ぐらい。100倍違うのでやっぱり事業者はこちらに流れた」と説明した。

健康食品の落とし穴「過剰摂取」

 松永氏は健康食品に伴う過剰摂取の危険性に言及した。
 「CMを見ていると、何となく不安になって足りないに違いないと思って摂ってしまう。それが本当に不足していたらまだいいが、あっという間に過剰になる。健康食品の1つの問題として抽出・濃縮されていて飲みやすくなっている。それともう1つ重大なことは、毎日摂るということ。食品というのは実は毎日同じものを食べない。野菜とか果物とか日々違っている。ところが健康食品という名前がひとたび付くと、決まった量を毎日摂るので過剰摂取に陥りやすくなる。この怖さを多くの人が意識してない。過剰摂取、そこは分かってほしい」と述べた。

規制強化は納税者の負担になる?

 今、消費者庁で開かれている有識者会議「機能性表示食品を巡る検討会」では、健康被害情報の義務化、健康食品GMPの義務化などが議論されている。何らかの国の関与を求める方向性について松永氏は疑義を突き付け、神保氏と宮台氏に逆に質問した。
 「小林製薬けしからん、事業者けしからん。もっと規制を強くしろということで、いろんなことの義務化を想定している。情報を国に集約しろと。でもそれって国のお金を使って機能性表示食品の管理をするということに直結する。そのコストを国が負担すべきものなのか?」
 松永氏は、今の検討会の流れはおかしいのではないかと問題提起。義務化によって国(納税者)がコストを負担するのではなく、健康食品を買う人(受益者)が負担すべきだと主張する。消費者団体などは企業擁護と誤解されるのを恐れるあまりそのような主張ができないのではないか、そこをどう考えたらいいのか? 「私も考えをまとめ切れない」と苦衷を吐露した。

 これに対して宮台氏は、「国を信頼できるというベースで物を考えていいのかどうか」とし、「国が落とし前を付けてこういう規制をした。こういう手続きを設けた。それで失敗している領域が山のようにあるじゃないかということを考えてほしい」と検討会のあり方に警鐘を鳴らした。
 神保氏は、「答えになっていないのかもしれないが」と前置きした上で、メディアの責任について言及した。「食品は広告出稿量が圧倒的に多い。機能性表示食品というのは結構危ないですよみたいなことは死んでも言わない」、「メディアが機能してない分野というのは、逆に言うとリテラシーという意味で、受け手側は一方的に業界の都合の良い情報だけを受け取る。それを中和するような本来の市民社会的なチェックはなかなか機能しない。あるいは、例えば消費者団体とか、あるいは食品安全委員会とかがそういう情報を発信しても、メディアが報じないと、(消費者が)わざわざ自分で19項目のメッセージを見に行かなければならない話になってしまう。そこまでやる人はほとんどいませんから、やはりちょっとリテラシーを上げていくということが必要なのかなと、今日の話を伺っていて思った」とまとめた。

 松永氏も、事件が発生してから急速にトーンダウンした報道のあり方について「それなりに業界の動きがあるようだ」と首を傾げた。

【田代 宏】

(冒頭の画像:左から松永、神保、宮台の3 氏、ビデオニュース・ドットコムより)

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