宇和島の「麦みそ」は「みそ」か？（前） 【寄稿】行政も混乱、麦みその名称問題を検証する
元食品表示Gメン 中村 啓一
愛媛県が「麦みそ」事業者に文書指導へ
「麦みそ」の名称をめぐって、その是非が話題となっている。事の発端は、愛媛県が県内3業者に対して、大豆を使用しない商品に「みそ」や「麦みそ」と表示することは食品表示法で定める食品表示基準に違反し、景品表示法で禁ずる優良誤認に当たると文書指導（10月13日付け）をしたことによる。
この指導に、麦だけを使用して麦みそを作ってきた業者は困惑し、半世紀以上も同様の製法で製造してきたのに、なぜ今頃指摘されるのかと名称の継続使用を求める要望書を県に提出、この訴えは全国に報道されることとなった。
これに対し、愛媛県は文書指導を撤回する旨を事業者に通知した（11月4日付）。県は撤回の理由を景品表示法の解釈について改めて検討し、大豆を使わない製法は地元で認知されているとして、優良誤認に当たらないと判断したとしている。一方で、食品表示基準については「違反」（愛媛県農産園芸課）としている。
どうしてこのようなことになったのか、行政も混乱したみその名称問題について検証する。
厳しいみその表示ルール
みそを含む加工食品は、食品表示基準で名称、保存方法、消費期限又は賞味期限、原材料名などの表示事項が定められている。基準は、これら共通した表示とともに一部の加工食品について商品特性に応じた個別の表示ルールを定めており、「みそ」もその1つだ。
「みそ」を大豆もしくは大豆と麦類などを発酵させた加工品と定義しており、原料として大豆の使用が必須としている。同様に、みそのうち「米みそ」、「麦みそ」、「豆みそ」、「調合みそ」についても定義しており、いずれも原料として大豆を使用することとされている。
みそ（食品表示基準別表３ 抜粋）
①大豆若しくは大豆及び米，麦等の穀類を蒸煮したものに，米，麦等の穀類を蒸煮してこうじ菌を培養したものを加えたもの又は大豆を蒸煮してこうじ菌を培養したもの若しくはこれに米，麦等の穀類を蒸煮したものを加えたものに食塩を混合し，これを発酵させ，及び熟成させたもの
②①に砂糖類（砂糖，糖蜜及び糖類をいう。），風味原料（かつおぶし，煮干魚類，こんぶ等の粉末又は抽出濃縮物，魚醤油，たんぱく加水分解物，酵母エキスその他これらに類する食品をいう。）等を加えたもの
麦みそ
みそのうち，大豆を蒸煮したものに，大麦又ははだか麦を蒸煮してこうじ菌を培養したものを加えたものに食塩を混合したものをいう。
食品表示基準は、容器包装に入れられた加工食品について、一括表示に一般的な名称を表示するとしているが、一部の加工食品については基準が定義した食品以外にその名称を使用してはならない（基準第3条）としており、「麦みそ」などが対象となっている（基準別表５）。
さらに、特定の品目を対象に名称規制があり、この名称と矛盾する用語を容器に表示してはならない（基準９条）とされている。定義から外れる食品は包装に定義された名称を表示することを禁じており、「麦みそ」も対象となっている。
以上から、大豆を原料としていない麦みその包装に商品名として「麦みそ」の名称を使用していることについて、愛媛県の「食品表示法で定める食品表示基準に違反している」との指摘は行政として正しい判断といえる。
（つづく）
＜著者プロフィール＞
1968年農林水産省 入省（主に、食品産業・食品流通関係行政を担当）
2001年 近畿農政局 企画調整部 消費生活課長
2003年4月 総合食料局 消費生活課 企画官
2005年4月 消費・安全局 表示・規格課 食品表示・規格監視室長
2009年1月 総合食料局 食糧部 消費流通課長
2011年 8月 農林水産省 退官
近畿農政局時代にBSE、牛肉偽装問題を担当、以来10年にわたり食品表示の監視業務に携わり、さまざまな食品偽装を摘発。2008年の事故米不正流通ではチーム長として、事故米の流通ルートの解明を担当した。公務員として、東日本大震災被災者への食料支援が最後の業務となった。
退官後は、「元食品表示Gメン」として食品表示に関わるさまざまな情報を発信、メディアにも出演している。
＜著 書＞
『食品偽装・起こさないためのケーススタディ』共著（ぎょうせい）2008年
『食品偽装との闘い』（文芸社）2012年
