エビデンス入門(63) 論文や研究レビューにおける盗用と剽窃
関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科 准教授 竹田 竜嗣
近年、学術的活動における不正行為が注意喚起されている。特に論文における不正行為として、複数の雑誌に同一の論文を投稿する二重投稿、実験データの捏造や改ざん、盗用や不適切なオーサーシップなど、さまざまな事例が挙げられ、注意喚起されている。また、盗用と同じような定義を持つ「剽窃」(ひょうせつ)も最近大きな問題になりつつある。
盗用の定義については学術団体などによって若干異なるが、文部科学省が2014年8月に出している「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」においては、盗用を「他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること」とされている。つまり、広く公開されている文献などから研究内容やアイディアを参考にする場合は、適切な引用をすれば問題ないということであり、盗用とは、引用なしに他人の研究を真似て発表することが該当すると考えられる。
似た言葉である剽窃(ひょうせつ)は、盗用に含まれる場合もあるが、「コピペ」を指すことが多く、他人が作成した文章や論文を引用なしにそのまま用いることを指していると考えられる。わかりやすい例として、学生が他人のレポートやウェブで書かれている文章をそのままコピペしてレポートを作成することは、剽窃の一例としてよく上げられている。論文などの核心部分に当たる文章ではなくても、他の論文から引用なしにそのまま文章を引っ張ってくることは、剽窃とみなされる場合があり注意が必要だ。
これまで論文などの学術文章について述べたが、機能性表示食品制度で広く知られるようになった研究レビューにおいても、剽窃や盗用は注意すべき事項である。機能性関与成分が同じであれば、研究レビューで採用される論文は、似たケースや同じになることは多い。しかし、他者が作成した文章をそのまま真似することは、剽窃になる可能性がある。既届出の研究レビューを参考にする場合は、コピペにならないよう細心の注意が必要である。
また、引用する場合は、届出文章を参照したことも記載すべきであるが、特に考察部分について引用する場合は、他者の届出文章に沿った記載をそのままするのではなく、場合によっては研究レビューで引用されている文献を自身で確かめ、確認して文章を自身で作成することが重要である。剽窃は、盗用と境界があいまいであり、文章を作成する側のモラルの問題でもある。また、情報源が正確であるかは保証されていない。十分に注意が必要である。
(つづく)
<プロフィール>
2000年、近畿大学農学部農芸化学科卒。
2005年、近畿大学大学院農学研究科応用生命化学専攻、博士後期課程満期退学。
2005年、博士(農学)取得。近畿大学農学部研究員、化粧品評価会社勤務、食品CRO勤務を経て、2016年から関西福祉科学大学健康福祉学部福祉栄養学科。
専門は、農芸化学分野を中心に分析化学、食品科学、生物統計学と物質の研究から、細胞、動物試験、ヒト臨床試験まで多岐に渡る研究歴がある。特に食品・医薬品の臨床研究は、大学院在籍時より携わった。機能性表示食品制度発足時から、研究レビューの作成およびヒト臨床試験など多くの食品の機能性研究・開発に関わる。
2023年1月、WNGが発信する会員向けメルマガ『ウェルネス・ウィークリー・レポート』やニュースサイト『ウェルネスデイリーニュース』で連載した「エビデンスの基礎知識」が100号に達したのを記念し、内容を改めて編集し直し、「開発担当者のための『機能性表示食品』届出ガイド」を執筆・刊行。