エビデンス入門(5)有意差の意味
関西福祉科学大学 健康福祉学部 福祉栄養学科
講師 竹田 竜嗣 氏
前回は、統計的有意差の基本概念を解説した。引き続き、有意差の意味について解説する。統計的な有意差を表現するp値は、比較するものとの「差」と個々のデータのばらつきによって決まる。一般的にp値の有意水準は0.05であり、この値を下回れば「有意である」として比較するものの間に差があると判断する。統計的有意差は計算によって算出されるが、比較するものの間の差、データのばらつき(標準偏差)、データの数によって算出される。
計算式を考えると、p値は比較するものとの差が大きく、標準偏差が小さく、データの数が多いほど、小さくなりやすい。また、同じ値の差であっても、データ数が増えればp値は小さくなる。
p値は本来、数学的意味合いしか持たない。しかし、我々は常にp値の大小に悩まされている。このように数学的に算出される有意差は単独では何の意味もないため、p値ではなく、「計算された差」について臨床的な意義を検討することが重要となる。
例えば、血圧値を下げるかどうかを確認する臨床試験を例に挙げる。ある試験食品はプラセボ食品と比較して、収縮期血圧が平均値で2mmHg下がるという「差」が算出され、統計的有意差が認められた場合と、平均値で10mmHg下がるという差について有意差が認められた場合を考える。
どちらの場合も、試験食品の方がプラセボ食品よりも有意に収縮期血圧を下げたと言える。だが、2mmHg下がるのは日内変動程度だと言う人もいるだろうし、10mmHg下がるのは食品として下げ過ぎであると言う人もいるかもしれない。
このようにp値が重要なのではなく、本来は差の大きさ=臨床的な意義が重要となる。この点は、残念なことに忘れられがちである。そのためp値だけでなく、差の大きさを確認するために信頼区間を算出して、臨床的な意義を検討する必要がある。
信頼区間は「95%信頼区間」などのように、百分率で範囲指定される区間の値である。これは、正規分布の母集団の母平均を求める作業を100回実施した場合に、95回は算出された区間に母平均が含まれるという意味である。
つまり、前述した血圧の試験で考えれば、同じ臨床試験を100回行った場合に、95回は算出された信頼区間のなかに、食品間の血圧の下がり方の差の母平均が入ることになる。
信頼区間は、血圧の例で言えば2-8mmHgなどのように範囲が指定される。この値の範囲も算出して、前述した臨床的な意義があるかどうかを考えることが本来重要である。p値の大小だけでなく、算出された差の意義を考えることを忘れないようにしたい。
(つづく)