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エビデンスの質、改めて向き合う必要 【機能性表示食品特集Opinion】

㈱グルーバルニュートリショングループ 代表取締役 武田猛 氏

米国よりも具体的なヘルスクレームの重み

 機能性表示食品制度の施行以来、低下していた特定保健食品(トクホ)に対する業界の関心がにわかに高まっている。これまで限定的であった疾病リスク低減表示が拡充されそうなためだ。2型糖尿病の発症リスクを低減する可能性がある旨などを保健の用途とする疾病リスク低減表示トクホ3品目の表示許可が先ごろ申請された。

 それらが許可され、疾病リスク低減表示トクホが増えていくのだとすれば、機能性表示食品に大きな影響を及ぼすとの見方もある。ただ、私は、そうは考えない。理由はいくつかあるが、1つは、機能性表示食品の方がより幅広いヘルスクレームを行えるからだ。制度づくりの参考にされた米国のダイエタリーサプリメントで行われているヘルスクレームよりも幅広であり、かつ、より具体的な表示を行えている。

 一方で、機能性表示食品は、制度施行10年を目前にして、転換期を迎えていると思う。これまで以上に強くエビデンスの質が問われているためだ。内容を熟知していない業界関係者も少なくないと思われるが、機能性表示食品のエビデンスの質に対する疑義を提示した昨年の日経クロステックの記事は、消費者庁にもインパクトを与えたと私は見ている。あの記事は、消費者庁が運用している制度自体に対する問題提起でもあった。他のメディアからも今後、同類の記事が出てくることも考えられる。

 機能性表示食品にせよ、疾病リスク低減表示トクホにせよ、根幹には、表示する機能に関するエビデンスがある。だから、その質を落としては絶対にいけないし、エビデンスに対する責任を企業が自ら負わないといけない。

集団訴訟も起こされる米国、日本はどうか

 米国の場合、エビデンスに関する資料が公開されることはない。だからと言って、その質が問われないということではない。そこには「訴訟大国」ならではの抑止力が働いている。エビデンスと、広告を含む表示が一致しないような虚偽誇大広告は、FTC(連邦取引委員会)の取り締まりを受ける恐れがある。FTCは動かないのだとしても、広告や表示にある効果を得られなかったなどとして、数百人規模の集団訴訟を起こされることもある。そうなった時、企業側の主な反論材料(証拠物)は、論文、つまりエビデンスとなる。

 FTCから行政処分を受けるダメージは小さくないし、訴訟に負ければ、数億円単位の金銭的な不利益を被ることもある。その中で、処分を回避したり、訴訟に負けたりしないようにするための証拠物(反論材料)が論文1本ではどうにもならない。研究資金を潤沢に持つ世界的な大手企業でさえ敗訴することがあるのだから、エビデンスの質が低いとあってはなおさらだろう。

 日本の場合、景品表示法違反で措置命令などを受けるとなれば、企業に及ぼすダメージは相当大きいが、エビデンスに疑義が生じたとしても、機能性表示食品であれば、届出を撤回するだけで済む場合が多い。そこにも、米国と日本の機能性表示制度の大きな性質の違いがあると思う。日本は、米国よりも柔軟で具体的な機能性表示を行えるにもかかわらず、エビデンスに対する企業責任の重みが、米国に比べて低い。今、エビデンスの質が問われている背景には、そうした理由もあるのではないか。

届出者個々が自ら襟を正していくしかない

 機能性表示食品の届出ガイドラインを見ても、求められるエビデンスについて事細かに示されているわけではない。この制度は届出制であるということを踏まえると、消費者庁としても、エビデンスに関する基準を事細かに示すことはできない。どうしても、原則論になる。届出者がそれぞれ考えていくしかない。

 米国には、業界団体が会員企業をトレーニングする仕組みがある。エビデンスに限らず、業界全体で「質」を底上げしていくためのスキームが十分とは言えないにせよ、ある。それがない日本では、各企業が自ら襟を正していくしかない。届出者だけでなく、エビデンスの取得をサポートする食品CROや、掲載する論文を査読の上で掲載するジャーナルも同様だろう。

(聞き手・文:石川太郎)

武田猛氏プロフィール 
アピ㈱、サニーヘルス㈱を経て2004年1月、㈱グローバルニュートリショングループ設立。国内外の栄養・機能性食品の市場動向、法規制などに関する知見を背景に、新商品開発、マーケティング戦略立案などのコンサルティングや海外市場進出支援などを手がける。

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