HMBカルシウムとプロテインの違い 異なる筋肉へのアプローチ
HMB、正式名は3-ヒドロキシ-3-メチルブチレート。食事などから摂り入れた必須アミノ酸のロイシンが体内で代謝されて生み出されるもので、フレイルやサルコペニアの予防に有用な成分の1つに数えられる。筋肉・筋力に及ぼす有効性が国内外で報告されているためだ。サプリメントに用いられるのは、HMBをカルシウムに結合させたHMBカルシウム。中高年を主な摂取対象者とする機能性表示食品に配合する動きが広がっている。
筋肉の合成と分解抑制、2つの機序
食事などから体内に摂り入れたロイシンがHMBに代謝される割合は低く、5%程度とされる。20gのロイシンから、ようやく1gのHMBを得られる計算だ。HMBを効率的に体内に摂り入れるための手段としては、HMBを直接的に摂取できるHMBカルシウムが配合されたサプリメントなどが第一の選択肢となる。
サプリメントなどを通じて体内に取り込まれたHMBが筋力や筋肉量を維持したり増加したりするメカニズムについては、主に2つの機序の連係で説明される。
1つは、筋肉(筋タンパク質)の合成促進。mTORというシグナル伝達経路が刺激されることによって合成されるのが筋肉だが、HMBは、mTORを刺激して働きを活性化させるという。もう1つは、筋肉の分解抑制。哺乳類に存在するユビキチン・プロテアソームシステムと呼ばれるタンパク質分解系の発現と活性を低減させ、筋肉の分解を抑えると考えられている。
すると、加齢などによって減少する筋肉の維持や増加に有効な食品として知られるプロテイン(タンパク質)とは筋肉を作るメカニズムが異なることになる。プロテインは筋肉そのものの原料(材料)となるのに対し、HMBは、筋肉の合成と分解のバランスを調整する。言わば、「筋肉を『作れ』、『守れ』という指令のスイッチボタンを押す役割」を担うのがHMBだと、国内で唯一のHMBカルシウムメーカー、小林香料㈱(東京都中央区)は説明する。
筋力ケアする機能性表示食品の関与成分
主に中高年に向けて、筋力に対する働きを訴求する、HMBカルシウムを配合した機能性表示食品の届出件数は、現在50件余(7月末時点、取り下げ除く)。消費者庁が運用する機能性表示食品のデータベースによれば、そのうち30件余の製品が現在、販売されている。
5月にはキリンホールディングス㈱が、プラズマ乳酸菌とHMBカルシウムを機能性関与成分として配合した『iMUSE 免疫ケア・筋力サポート』を発売。また、「腰、膝、筋力のケアを内側から行う機能性表示食品」と銘打ち、味の素㈱が4月から販売を始めた『STRETCH+(ストレッチプラス)』シリーズにも、HMBカルシウムを配合したサプリメントが組み込まれている。
こうしたHMBカルシウム配合の機能性表示食品について、届け出されたヘルスクレームを見ると、「運動との併用で、自立した日常生活を送る上で必要な筋力(立つ・歩くための筋力)の低下抑制に役立つ機能があることが報告されています」などとされている。1日当たり1,500mgのHMBカルシウムを摂取できるように設計した製品が多い。
フレイルなどの対策に 軽い運動との併用を
「運動との併用」で「筋力の低下抑制に役立つ」と説明されている点に注目したい。HMBカルシウムの継続摂取で寝たきり患者の筋肉量が維持されたという海外発の研究報告もあるが、健常者を主な摂取対象とする機能性表示食品においては、科学的根拠も踏まえ、筋力の低下抑制効果が得られるのは、運動との併用が原則、前提とされている。
ただ、併用が求められる運動は、負荷の軽い日常的な運動にとどまる。実際、主な摂取対象者については、「スポーツ選手やトレーニングされた者を除いた健康な中高年(自立した日常生活を送る上で必要な筋力が気になる方)」などと説明されており、高強度の運動を日常的に行うスポーツ選手などは対象外。
そうしてみると、機能性表示食品としてのHMBカルシウムは、フレイルやサルコペニアに陥ることなく自立した日常生活を送り続けることに意識的なアクティブシニアに向けて、そのために必要な筋力や筋肉の維持、あるいは増加をサポートするベネフィットを得られる食品として提案されるものであることが分かる。
もともとボディービルダーに強く支持されたのがHMBだが、フレイルやサルコペニアを予防し、健康的な日常生活を長く送るために必要な成分であるという認知が社会的に進めば、中高年を中心とする一般生活者にも利用が広がっていく可能性が高まる。
HMBカルシウムを配合した機能性表示食品の届出サポートも行う小林香料では、「新型コロナが収束の兆しを見せるのと合わせるように引き合いが増えている」と話している。
【石川太郎】
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